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第1話『時渡り』


 「私ゴロちゃんと結婚する!」


 幼少期に、この様な経験をした者は割といると思う。


 所詮は、子供の戯言で簡単な口約束をするが小学校に上がった頃には、そんな事一切忘れてしまうものです。ですが俺、たいら 吾郎ごろうはガキの頃の結婚の約束を今も忘れずに心の中にしまい込んでいました。


 ーーでもそれが俺の初恋だったんです。


 お互いに言葉を交わすことも少なくなり、同じクラスとして高校生となった今、相沢あいざわ 立華りっかとは挨拶をする事や目を合わせることもしなくなっていたのです。


 相沢立華は、クラスのマドンナ的存在であり学校中の男達から、毎日と言っていい程の告白をされていた。中には超イケメンの御曹司からも告白されていたらしい。


 そんな相沢立華は、どの告白もキッパリとお断りを入れるという冷徹極まりない態度だったとか。こんな、何も冴えないメガネの俺なんてもう相手にもして貰えんだろうな。


 幼少期が最大のモテ期でした。不甲斐ない人生です。


♦︎


 平成七年 九月


 ーー相沢立華が死んだ。


 担任の小林先生が夏休み明け一発目のホームルームで涙を滲ませて我々クラス中に訃報を告げた。相沢立華の死。それだけみんなから愛されていたことが分かるぐらいに、クラスメイト達は言葉を失い泣き出す者も現れた。


 噂で色々な話しが飛び交うが、最有力な情報は学校よりも少し先にあるオフィス街の高層ビルからの飛び降り自殺だという。俺だから分かる。相沢立華が悩んでいる様子など微塵も無かった。


 幼少時代から俺は、相沢立華を知っているし初恋の相手だ。


 分からない訳が無い。他殺か、或いは何かしらの理由があったのかも知れない。


 悲しみに暮れる俺は、頭を思考させるが全く纏まる様子は無く葬儀の時間が迫って来るだけだった。


 線香を上げ、お辞儀する。彼女の死を受け入れられない俺は、霊柩車に乗せられる相沢立華の棺を見送った。


 相沢立華の死の真相を知りたいが、当人は亡くなり現場は綺麗サッパリ片付けられている。まるで何事も無かったかの様に。


 社会というものは進んでいき、相沢立華という存在は皆から忘れ去られてしまったのだろう。


 俺は、相沢の席に咲く花瓶の花を授業中に毎日眺めていた。


♦︎


 平成七年 十月


 俺は多少なりとも傷心中であったが、ある程度は踏ん切りがつき少しだけ前を向こうとしていた。


 とある休みの日。俺は母さんの頼みで、中学の頃亡くなった爺さんの蔵を掃除して欲しいと頼まれていたので渋々、蔵の方まで足を運んだのである。


 ゴミっぽいし、埃臭い。


 捨てる物、残す物を分別し淡々と作業していたが俺は何やら気になる木箱を発見した。


 「うぁ! 懐かしいな。爺さんの言っていた家宝だな」


 その家宝とは、生前に爺さんが残した形見に近いものである。平家では代々、爺さんの代が亡くなる前に孫へこの家宝は受け継いでいくらしく、曰く付きの代物だ。


 宝刀『時渡り』


 刃物であるからして持ち運ぶのはおろか、家に置いていても仕方ないので家族と相談しこの蔵に納めていたのである。


 なんで短い短刀が家宝であるのか俺には分かりません!


 俺は懐かしさの余り箱から時渡りを取り出した。対して良い刃物でも無いけれど、何やら不気味な感じもする。気のせいかな?


 刀を眺めていると、死に際の爺さんの遺言を俺は今になって思い出していた。


 「本当に護りたい物が出来た時、この刀を喉元に突き刺せ。さすれば時空を越えてその時渡りが答えてくれるだろう」


|(時空を越える……。かぁ)



 当時の俺は、この爺さんの言葉を妄言と捉えて聞き流していたんだよなぁ。今になって思うが、俺はこの妄言を信じてみたくなった。


 初恋の彼女が死んだこと。何故自殺したのか。又は殺害されたのか考える事が多過ぎて、俺はまだ気持ちの整理が追いついていないのだと実感した。


 救えるのなら、俺の安い命ぐらいくれてやる。それぐらいまでに俺は、相沢立華のことが好きだったんだ。


 ガキの頃の結婚の約束。俺はまだ本気にしてるんだぜ?


 本当に馬鹿みたいだ。


 「俺、爺さんを信じてみるよ」


 時渡りの鞘を抜き取り刃が剥き出しになる。震える手を必死に抑えて俺は、時渡りを首元に当てがった。


 死の恐怖に支配されそうになる。誰かを助ける為の代償なんだろうか。後追いも悪くないのかなと開き直る。


 「戻れー!!」


 俺の喉元に『時渡り』が貫く。


 その瞬間、煮えたぎった血液は盛大に吹き出して俺は地面に倒れ込んでしまった。


 『相沢立華を助けたい』


 その思いを募らせてからの後の事は、何も覚えていません。


♦︎


 「いつまで寝てんだよタコ助!」


 頭を叩かれて飛び起きた俺は絶句した。俺はこの出来事を良く覚えている。友人の木村きむら 智和ともかずが、放課後まで居眠りをしていた俺を目一杯叩くのだ。


 珍しくもその様子を見兼ねて相沢立華が、心配して話しかけてくれるまでがワンセットになる。強いて言えばイベントと言えるものだろう。


 「ゴロちゃん大丈夫?」

 「り、りっちゃん!?」

 

 夢では無いみたいだ。生きている彼女が目の前にいて、俺に話しかけてくれている。嬉しさの余り俺は、涙を流して啜り泣く始末でして、なんか知らんが悪かったと必死に智和が謝り倒していたのはいい気味だと思いました。


 私、平吾郎は宝刀『時渡り』の力により平成七年、四月のタイムリープにどうやら成功したようです。




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