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異常との遭遇

技能(アーツ)、【剣防御(ソード・ガード)】ッ!」


 剣を構えた少年は、銀の体毛を持つ狼の一撃を技能(アーツ)を以て防御する。

 シルバー・ウルフと呼ばれる獣は、展開された障壁に攻撃を阻まれ───



「───【ファイアーボール】ッ!」


 横腹に炎弾の一撃をくらい、塵と化して霧散した。



「わ〜いっ!勝てたよブラン!」

「おめでとうリオ、初めての戦闘なのにすごいよ!」

「えへへ〜そぉかな〜!」


 リオという魔法を使った少女は喜びとともに剣を使う青年ブランに駆け寄り、今回の成果について語り合った。



「レベルはどう、上がった?」

「うん!2になったよ!【不意打ち】って技能(アーツ)もなんか貰った!」

「早速手に入ったのか…流石だねリオ」

「ふふん、もっと褒めていいんだよ〜」


 満面の笑みを浮かべて森の奥へ進むリオ、ブランはそれに後ろからついていく。


 なお、ブランの褒め言葉は全て「褒めて伸ばす」為に口に出している言葉である。


 この狩り場…一般には【初心者向け狩り場】と呼ばれる森に現れるモンスター、その中でもシルバー・ウルフと言えば雑魚も雑魚。

 耐久力も各種攻撃耐性も最低で、二人がかりで倒せないのならどちらもゲームプレイを諦めたほうがいいような雑魚モンスターだ。


 【不意打ち】なんて魔法職のプレイヤーならまず確実に持っているし、そもそも魔法職は前衛が頑張っていれば九割方ダメージを与えられる初心者向けのお手軽職である。

 言ってしまえば、褒めるにあたう点はゼロ。


 では何故彼がそんな初心者さんを伸ばそうとしているのかといえば…



(はぁ…せっかくの夏休みなのに、まさかリオが泊まりに来るとは…しかも「マジック&ブレイド・オンライン買ったから教えろ」とか言うし…

レベル上げしまくって上位勢に並ぼうと思ったのにぃ…!)


 まぁ家庭の事情の一言。

 現実で親戚関係にある二人は時折互いの家へ泊まりに来る事が少なくなく、今回は間が悪く泊まりに来たリオが何故か入手難易度の高いマジック&ブレイド・オンラインを持っていたせいで面倒を被る事となった訳だ。


 しかしブランは諦めない。

 どれだけ彼女に時間を食い潰されようとも、できるだけ早いとこリオを自立できる程度に指導して、自分自身の強化時間を取り戻そうと画策している。


 たしかにそれは無難な発想であり、実際上手くいけば数日で彼女と離れられたかもしれない。


────もっとも、それは異常(イレギュラー)が起こらなければの話だが。



「オイあんたらッ!早くこの森から逃げろッ!」


 リオが向かう森の奥から男の声が響く。

 疑問符と共によく声の先を見てみれば、ダメージエフェクトを全身に煌めかせた金髪の青年がこちらに駆けて来るのが見えた。



「どうかしたんですか…って、その装備初心者じゃないですよね?なんでこんな森に───」

「今はそんな事話してる暇っ」


 青年は初心者装備ではなく、初心者装備よりちょっと強い皮の装備でもなく、おそらくは特注品(オーダメイド)かモンスターからのドロップの強力そうな鎧を纏っていた。


 そんな彼がこの森に居ること自体に異常を感じ、ブランはPK(プレイヤーキラー)が報復を受けて逃げる最中に自分達を見つけたのでは…と考えた。

 故に質問を投げかけたのだが…端的に言って、それは判断ミスだった。



────青年は上空から落ちた黒い影の一撃を受け、脳天から股にかけてまでを綺麗に両断された。


 先程のシルバー・ウルフと同じように塵と化し、黄金の粒子となって霧散する青年。

 霧散する煌めきに照らされ、黒い影の姿が綺麗に見えた。


 黒い影は人間だった。

 モンスターではなく、ただのプレイヤー。

 それを見てブランは察する、自分の思考は逆であったと。


 この森に現れたPKが報復するためにやって来たプレイヤー達を跳ね除けて、青年はそれから逃げていたのだ…と。



「ぶ、ブラン…どうする?」


 声を震わせて、未だ武器を振り下ろした中腰姿勢から動かない影を指差すリオ。

 しかし、彼女の問いにブランは動かない。


 なぜなら彼は、その影に途方も無い不気味さを覚えたから。


 そのプレイヤーは生気を帯びていない。

 まるで機械に操られてでもいるかの如く一動作に籠もる意思を全く感じず、自動的に動いているかのように見えた。


 そして何より不気味だったのは、今プレイヤーを両断した武器や装備の全てが特注品(オーダメイド)やドロップではなく、初心者装備であった事。


 おそらくは相当以上にレベル・ステータスが高く、ある種の縛りを課した上で戦闘をしているのだ。

 そして実際に勝っている。



(…ここは逃げるのが賢明か)


 しかし、理由は不明ながら影は二人を狙おうとせず、握った大剣を振り下ろした状態のまま静止している。


 それに気づいたブランは、あえて勝てるかもわからない相手に挑むよりも逃げるほうが賢明であると判断し、それをリオに伝えようとした。

 しかし────。



「ふぁ、【ファイアーボール】っ!」

「っ!?リオ待───!」


 リオは焦っていた上、慢心していた。

 通常ならば「危険そうだ」と思えばまず逃げるという思考が働くはずだが…突然に目前でプレイヤーが倒された事で、ゲームに慣れていない彼女は思考が乱れていた。


 それにより彼女は逃げるの判断を見失い、つぎに見つかったのは「相手を倒す」という判断。

 そして彼女には先程、ゲームを既にプレイしていたブランに褒められていたという、自身の強さに対する自負があった。


 故に彼女は、攻撃の判断を下した。

 下してしまった。


────黒影が舞う。

 大地を蹴り木を掴み、空間を自在に駆け回る獣の如く、影は立体的に戦闘行動を開始した。


 そして、その直後───リオの首が宙を舞った。



「な、速───」


 言葉を言い切ることなく、リオの体は塵と消える。

 粒子と化した彼女の体躯が溶けてゆく中───ブランの目前、衝突する程の距離にまで迫った影、男の顔。



技能(アーツ)剣防御(ソード・ガード)】ッ!?」


 ゲーム玄人であるブランはギリギリで剣の一撃を、技能(アーツ)を以て防御した。

 しかし、予想外だったのは防御して尚も体躯を浮かすその膂力。


 そして宙に浮かされたブランに逃げ場などあるはずもなく────。



技能(アーツ)(スラ)ッ」


 その体は、大剣によって2つに両断される。

 落ちゆく視界、亡き別れた胴体と両断した黒影の姿を見つめながら、彼の視界は虚無に包まれるのだった。


▽▽▽▽


【初心者向け】狩り場を紹介するスレ【Part51】


1.名無しの冒険者

 ここは【初心者相談】スレッドです。

 愚痴・暴言・アンチ行為は別スレでしましょう。

 また、次スレッドは自動で立ちます。

 前スレッド:http://××××××××


211.名無しの冒険者

≫198

 レア武器俺もほしい〜


212.名無しの冒険者

≫198

 運良すぎおじさん


213.名無しの冒険者

 【速報】始まりの街近くの狩り場、ヤバいの出る


214.名無しの冒険者

≫213

 kwsk


215.名無しの冒険者

 始まりの街の狩り場やばいのおらん?殺されたんやが


216.名無しの冒険者

≫215

 ナカーマ、知らんやつに襲われた


217.名無しの冒険者

≫214

 先の二人とさして変わらん

 狩り場教えてもらってレベル上げしてたら初心者装備のプレイヤーに後ろから刺された


218.名無しの冒険者

 しゃあない…高レベルプレイヤーワイが狩って来たるわ…


▽▽▽▽


432.名無しの冒険者

 挑んだプレイヤー全員狩られたってマ?さっき集まったほぼ全員神殿におるんやが


433.名無しの冒険者

≫432

 5人おらんやで^^


434.名無しの冒険者

≫433

 擁護できてなくて草


435.名無しの冒険者

 ウソでしょ、高レベルプレイヤーがいい経験値にされとるやん…


436.名無しの冒険者

 相手からしたら沢山経験値来てくれてありがたかったやろなぁ〜


437.名無しの冒険者

≫436

 悲しい…


438.名無しの冒険者

〜神殿にて〜

初心者「宙を舞う狂人に斬り殺された…」

初心者「狩り場を狂人が飛んでた」


439.名無しの冒険者

≫438

 草


440.名無しの冒険者

≫438

 狩 り 場 を 舞 う 狂 人


441.名無しの冒険者

≫438

 やばwネーミングセンスよww


442.名無しの冒険者

 期待の新人やな(白目)

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