アバターデザイン!
飲み会から2日、ニ日酔いから立ち直った俺はプレゼントされた『マジック&ブレイド・オンライン』をプレイする事にした!
あいつらに恨みがある訳じゃないが、早く捻じり潰してやりたいからなぁ〜っ!俺の(貯金がある限り)余りある時間を存分に使わせて貰おう!
というわけで、さっそく個人情報登録を終えたバイザーを被り、脳接続機能を音声入力で起動する。
「『ブレイン・オン』ッ!」
瞬間、目前を暗闇が覆う。
そして闇の奥から現れた七色の光がそれを塗りつぶし、俺の意識は光に飲まれたのだった─────!
▽▽▽▽
「おっはようございま〜〜すっ!元気ですかっ!?『ブレイド&マジック・オンライン』の管理AI1号『アスト』ちゃんです!
今日は君がゲーム内で生活するにあたって必要になるアバターを作っていくよ、準備はいいかなぁ〜〜??」
「はいッ!!当方、既に準備完了しておりますッ!!」
「ヨシッ!それじゃあさっそく行ってみよっか〜!!」
意識が目覚めた先で、俺はアストというAIの指導を受けつつ自分の肉体を作り始めた!
「ゲーム内での肉体はまず基礎として『人間』『エルフ』『ドワーフ』『獣人』の四種が存在するよ!
ちなみに隠し種族とかもあるから、ゲーム内で探してみてね!」
「はーいっ!」
「それで『人間』は各種行動全てに+10%の補正が入るから万能型的に考えてくれて大丈夫!一番人気だよ!
つぎに『エルフ』は魔法に+30%、遠距離攻撃・罠作成・裁縫技術に10%の補正が入るけど、近距離攻撃に20%の下降補正が入っちゃうから気をつけてね!2番人気!
3つ目の『ドワーフ』は人気最下位…!
鍛冶に30%、近距離攻撃・小物作製・装飾技術に10%の補正が入るけど身長が150で上限なの…みんなゲーム内でぐらいは高身長でいたいもんね…
最後の『獣人』は3番人気!
自己再生能力・近距離攻撃に30%の補正が入って【獣化】の固有スキルが初期装備で貰えちゃう!あ、ちゃんと後で説明するのとは別枠だからねっ!さぁさあ!君は何を選ぶのかなぁ!?」
「『人間』で頼む!」
「お、即決だねぇ!まぁ一週間は別種族とで吟味できるけど、本当に『人間』でいいんだね?」
基本的に接近戦が好きだから『獣人』と迷ったんだが、体毛がゴワゴワするとかモシャモシャするとか一部プレイヤーに視姦されるとか聞いたからなぁ…
『人間』は一番仲間が多いらしいし、やっぱり大衆に認められてるってのは大事だよな!!
「もちろんだ!次に移ってくれッ!」
「はいは〜いっ!それじゃあ次は職業だね!職業の説明はいるかな?」
「基本的なのは知ってるから大丈夫だ!そして俺は『戦士』を選ぶぞ!」
「『戦士』っ!いいねぇ〜わかってるねぇ!近距離攻撃・防御能力に30%、自己再生能力に10%で4番人気の職業だよ!1番人気は『魔道士』!」
やっぱり魔法とか使えるのは人気だよなぁ〜!
現実じゃ出来ないもんなぁ、でも俺は現実で上司殴るの我慢したぶんモンスター殴りたいッ!!
だから俺は『戦士』を選ぶッ!!
「さっきから即決が多いからもう武器選びだ!早いねぇ〜!前にはここまでで1時間近く悩んでた人もいたのに!」
「まぁセッティングはもう決めてるからなぁ〜」
「そうなの!じゃあもう武器も決めてる感じかな?」
「いやここは逆に決めてないんだよな…だって別に初期装備だろ?」
別にここで弓とかを選んだからといって、ゲーム内で剣を手に入れれば普通にそれを使える。
もっとも、手に入れたあとにその武器に相応した技術スキルを習得しなければまともに使えないんだが。
「そうだねぇ…じゃあアストちゃんが決めちゃっていい〜?」
「お、そんな事もしてくれるのか?」
「普通は自分で選ぶからねぇ〜!アストちゃんが選ぶのは本当にランダムだから!」
「よし、せっかくだしやってくれ!持ってきたのが嫌だったら変えるッ!!」
「鬼ッ!!?」
叫びながら武器が描かれた垂れ幕のような物を円形に集め、それを回転させるアスト。
そしてどこからか現れた赤いボタンを手にして────
「スト──────ップッ!!」
「これは…大剣?」
「大剣かぁ…攻撃力・防御力に優れるけど大きくて動かしづらいマニアックというか玄人向けな武器、これじゃ流石に」
「よし、これにした─────ッ!」
「うっそマジでバカなのッ!?」
バカとはなんだこのチビッコドライアドがッ!!
まったく作法がなってないなァ、うちの…もうクビになったんだった、クソ会社だったら一発でクビだぜ!!俺はやってないけどクビになったぜ、ハハッ!
「いいんだよ別にィ!そもそもまともに使う気無いんだからぁッ!」
「まともに使う気が無い…?」
「そうだ!さっさと次に移ってくれッ!!」
まったくもう!さっさとゲームを始めさせろ!!
「わかったよぉ…次はスキル!
各種基本スキルから3つ選んで習得できるよ!当然ゲーム内でもイベント・アイテム・特定条件の達成などで習得できるからね!」
そして目前に表示されるスキルの一覧。
100種類近く、むしろそれ以上あるのではないかという程のスキルの数々が現れ、俺はその中から───
「【狂化】【武芸百般】【筋力増強】を選ぶぞッ!」
「うぇ〜ッ!?やっぱりバカなのアナタ!?【狂化】取るとかあり得ないってぇ!ステータス強化と自動操縦が一体になるスキルは珍しいけどただそれだけッ!!
魔法も発動型スキルも使えなくなっちゃうし、むしろ弱体化しちゃうんだよ〜っ!?もったいないっ!」
「おバカ!どんだけ雑魚でも自動操縦なのがいいんだよッ!!」
そもそも今まで剣道とか柔道とかやってない俺がゲーム内でまともに戦闘できる訳ないだろうがッ!!
任せられるモンはAIに任せりゃいいんだ!
レベル上げとか怠いし、俺は【狂化】がどれだけ無能と蔑まれようとお前に全幅の信頼を寄せる!頑張れ【狂化】ッ!!
「ま、まぁいけどぉ…どれだけ雑魚でも知らないからねぇ…?」
「というかそもそも魔法とか使う気無いからな、その辺は気にしないでくれ」
「嘘でしょ!?折角世界初の脳波接続型ゲームなのに…?」
異常者を見るような目で俺を見るな。
だって魔法使えても面白くなさそうじゃん、火とか熱そうだし、風寒そうだし。
あ、水いつでも飲めるのはいいな!
「それでは次は、アバターデザイン以外で最後であるステータスの割り振りになります!」
「よし来た!」
「ステータスは初期値で10000あるステータスポイントを『耐久値』『体力値』『魔力値』『筋力値』『知能値』に割り振る事で基礎ステータスが決まり、レベルの上昇毎に自動でそれらも強化されるよ!
各ステータスの強化倍率は種族と職業に数値が設定されてて、掛け算式で上昇値が変わるの!
その数値は隠しステータスだから教え無いよ〜!」
「え〜教えてよぉ〜!」
「ダーメっ!職業は後から変えられるから、自分で調べようね〜っ!」
「まぁその時にはステータス決まってるんだけどね〜っ!!」と笑うアスト…しかし残念だったなぁ!?
既に隠し数値は検証民によって割れているのだよォッ!!クックック、勝った…!!
そう内心でほくそ笑みつつ、彼女が続ける説明に耳を傾けた。
「ステータスはポイントの割り振りで増やす他、ステータスをマイナスにする事で増やす事も出来るよ!
でもマイナスになったステータスはレベル上昇毎にマイナス値がより下がってくから気をつけてね!
それと当然だけどマイナスのステータスはプレイヤーに悪影響を与えるの…!
例えば『筋力値』をマイナスにすると基本的に近接武器が装備出来なくなったりするから、マイナスにする時は気をつけてね〜!」
「わかった!」
目前に再び展開されるタッチパネル。
各種ステータスとその上昇によって可能になる事柄が記されていて、その横に表示された『残存ステータスポイント 10000』という文字が黄色く光りながら点滅している。
そして俺は────『知能値』のステータスを、マイナス方向へ連打したッ!!
「ちょちょちょちょ────ッ!??あり得ない!!やっぱりバカだってアナタッ!!?
『知能値』はスキル強化効率の短縮と魔法の習得に一番重要なステータスなんだよ!?みんな上げることこそすれ、マイナスにする人とか見たこと──」
「おう、最低値にするまで待ってくれや」
「さ、最低値〜〜〜ッ!!???え、ちょ、ちょっと待って!!?え!?待って待って待ってッ!?駄目だって!!魔法使えなくなっちゃいますよっ!??
本当にいいですかぁッ!?」
「いいんですッ!」
「あ、あわわ〜…!運営さん絶対こんなの想定してないよねぇ…?これ、私の責任にならないよねぇ…!?
ア、アストちゃん知らな〜いッ!アストちゃんがこの人担当した記録は隠蔽して、なんか本当にやばい事が起きない限り絶対提出しないもんね〜〜ッ!!」
轟き渡る絶叫の中「ヨシっ!」と呟き微笑む俺の目前には、『知能値 -9999』と表示されたステータス画面ッ!当然ながら、ステータスポイントはそのマイナス値分増加した『19999』と表示されている!!
俺は、通常の2倍近いステータスポイントを得る事に成功したのだった────ッ!
「よ〜しっ!まず『筋力値』に13333振って、『体力値』に3333『耐久値』はぁ〜…ま、2222でいいか!余った分は…魔力は使わないけどせっかくだし入れとくかオラァッ!!
ヨシッ、アスト!!割り振り終わったぞッ!!」
「は、はーい…それじゃあ、最後はアバターデザインで〜す…!好きにデザインしちゃってねぇ〜…!」
なんだか知らんが元気が無さそうだな?
さっきまであれほど無駄に元気だったというのに…まぁいっか!!アバターデザインしちゃうぞ〜!!
全身鏡の先に映る俺の姿は…まぁなんとも普通の男だな。
アストいわくランダムデザインらしいが…そう見ると凄いな、普通にスキャンした人間みたいだ。凄まじい技術力。
「ランダムデザインってもう一回できるか?」
「ん〜?まぁ出来るけど、自分でデザインしなくないの?」
「だって、俺がデザインしても今のアバターよりよく出来る気しないし。とはいえゲームならもうちょいイケメンの方がいいから、ランダムでイケメンが出てくるまでいじろうかなぁって」
「りょ〜かいっ!そんじゃ早速やるね〜!」
彼女が手を叩くと、俺の視線が一段下がった。
鏡に映るのは低身長の美少年…だが俺の好みじゃないな。
「お〜カワイイッ!アストちゃん結構好きかも!」
「俺はもっとこう渋いのがいい、次!」
再び手の音が響くと、今度は視線が数段上がる。
おお〜めっちゃデカい!最初のが175ぐらいだったから、比較して190以上はあるぞ!
だがちょっとデカすぎるな…現実との身長差があると、ゲーム歩くだけでもコケそうになるとか聞いたし、流石に駄目かな。
「めっちゃデカ〜い!ランダムでこんなに大きい人出るんだねぇ!ヘイラちゃん好みかもっ!」
「デカすぎてアウト、次!」
3度目の音が響くと、わずかに身長が落ちる。
そして鏡を覗けば…おお!いいな!
オッサン顔じゃなくて、ちゃんと濃い顔のイケメンだッ!ちょっと細いのは気になるが、その程度なら自分でいじれるし完璧だな!
「おぉ!これいいんじゃないっ?だいぶアナタの理想に沿ってると思うの!」
「ほとんどな!あとは全身の筋肉量をちょいちょいっと…これで完璧ッ!!」
「たしかにイジった後の方がいいね!イケメンが際立ってるぅ〜!」
「サンキューアストッ!そんじゃ、もうログイン出来るのか!?」
ワクワクドキドキッ!
そんな感情が誰からでも読み取れるほど興奮しきった俺に対して、アストはわずかに微笑みながら首を振り、チッチッチと口にしてから言葉を放つ。
「キミィ、大事な事を忘れてなぁい…?」
「大事な事…」
一瞬思考を巡られると、わずか一瞬で答えは出た。
「俺まだ名前無ェじゃんッ!?」
「そうだよぉ!アナタ、ゲーム内で生きる為に必要な名前まだ付けてないよ!」
「そうだなぁ…まだ決めてなかったなぁ…」
とはいえ、本当に一切決めてなかったので名前が浮かばないッ!
う~ん…そうだな、俺の名前は早坂だろ?
俺はこのゲームで会社を辞めてからのまっさらな人生を始めたいつもりだ。
まっさら、はやさか…まさら…はさら…ハッ!!
瞬間、脳内に電流が奔る。
「決めたッ!俺の名前はバサラだ────ッ!!」
ニヤリと笑いながら、俺はドヤ顔で叫ぶ。
そしてアストもまた微笑み─────
「それではっ!行ってらっしゃいバサラさん!マジック&ブレイド・オンラインの世界をお楽しみください──────ッ!」
目の前に展開された巨大な扉が開き、映り込む青空の情景と疾風が流れこむ。
そして俺は、その扉の中へ歩を進めたのだった───っ!
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