俺、会社をクビになる!
「やぁ!どうやら随分つまらなさそうだねェ〜!」
「ハハ…(折角の休日に会社呼び出されちゃこんな顔にもなるっつーの)」
俺、早坂裕翔の人生は終わっていた。
毎日毎日、会社に行っては上司が投げてくる面倒な仕事をこなし、深夜まで残業して、安さで選んだマズいカップ麺を食べて寝る。
正直、死ぬのが怠いから生きているような日常。
いっそ全ての知能を無くして、野生生物として生きる事が出来れば、俺の人生楽なんだけどなぁ…
「…で、何スか。部長だってこんな休みに会社長くいたく無いッスよね」
「ああそうそう!─────早坂くん、君クビね!」
君仕事できないじゃん、遅いから評価下がるんだよね、同世代でもっとできる子雇ったから…などと、部長が目前に立つ俺をこき下ろす中。
俺はただ─────空白の人生に、彩りが戻って来るのを感じていたッ!!
▽▽▽▽
「っぷはぁ!美味ェ!飲み相手の顔色見ずに飲める酒ッ!!
クソ上司さんきゅ〜ッ!ありがと〜ッ!!」
「裕翔飲み過ぎだろ、猿?」
「あくまで仕事クビの慰め会だからここ」
ビールを片手に、感涙と歓喜を禁じえない俺を半笑いで見つめるのは学生時代からの友人だ。
冷めたように見えるが、会社を出た直後カラオケで歌い叫びながらクビになった事を伝えると、早速その夜に集まってくれるいい奴等なんだ…本当に…
「孝也〜譲治〜ありがとうなァ…!こんな俺に、会いに…ウッウッウ…」
「今度は泣いてる…情緒ってなんだっけ」
「さぁ?クソ会社で働いて感情壊れたんじゃね?」
「あ待って、ゲボ出そう」
「「マジでそれはやめろお前ッ!?」」
ちなみに二人は福祉やらなにやらまで整ったホワイト企業に勤めていて、ボーナスとかも弾んでくれるらしい。
いいなぁー!俺冬のボーナスちくわだったからなぁー!
「逆に中で鎮まった、これを『活火山』と呼称するのはどうだ?」
「しねぇわ、ただのゲボ寸前のバカだよお前は」
「貴様〜、シャワーの如く振りかけちゃうぞ!」
「マジで頭おかしくなってないか?」
「失礼だな、オンとオフを切り替えているのさ。これまでオンの状態が続いてたから、オフになって一気に解き放たれているんだなァこれが!まぁ嘘だけどッ!!」
あぁ^〜酒呑超楽稲荷〜
まぁゲボ出たら面倒だから吐かないけどねーッ!!俺偉い子ッ!!
「ダメだコイツ、もう脳がやられてるからこれからはコレを平常と捉えよう。最善策だ」
「可愛そうなヤツだ…せっかくクビ記念でプレゼントを用意してやったというのに、ここまで脳がとろけていれば遊ぶことも出来まい。俺が貰おっと」
「それで、プレゼントってのは一体何なんだ?詳しく話を聞かせてくれ」
「テレビ45度で叩くと直るって本当なんだな」
「ねー」
物理攻撃が直角の攻撃だとして、こいつらにとって情報で殴るのは45度辺りの判定なのか…!
とりあえず精神力で酔いと歓喜を押さえつけて、俺は二人の話に耳を傾けた。
「まぁプレゼントとは言ったけど余り物なんだよな!」
「でも世間一般で言えばかなりいいプレゼントだから期待しろよ!」
そうして孝也は、座席の影に隠されていたバッグの中から大きな箱を取り出した。
シンプルなデザインのながら、ただならぬ近未来感を漂わせる箱の正面には、バイザーのような機械が描かれていて───────
「えええーーーーーッ!?『Verus Mundus』ッ!?嘘だろなんで持ってんだよ!?」
「ハッハッハーーーーッ!!抽選で当たったッ!!」
『Verus Mundus』は昨年発売されたばかりの最新型VRゴーグル!!
これまではリモコンによる機械入力や音声入力、もしくは高い機械を購入してのリアルタイムモーションキャプチャなどで動かす事でしか遊べなかったVRに、脳波の受信と電磁波の送信で明晰夢を見ているかのようにゲームをプレイ出来る、つまり本当のバーチャルリアリティを体験できる究極の一作だ!!!
そ、そんなものを何故俺に…!?
未だに抽選しないと買えないのに…!!
「ど、どうして俺にこんな凄いものを…」
「いや、抽選がたまたま3カ所で当たっただけです」
「豪運…!!圧倒的、ド級の豪運…ッ!!流石一発でホワイト企業入っただけある…ッ!!」
「「それはテメェが調べ不足なだけだろ!?」」
ぐぅ、痛いところを…!
仕方ないだろ!面接通って浮かれてたんだよ!
あんな地獄があると思わないじゃないかーッ!?
「でもありがとう、嬉しいよ俺ッ!」
「ふっ…喜ぶにはまだ早いさ、譲治!」
「おうよ!喰らえ裕翔ッ!!」
そして投げつけられる青の箱。恐ろしく早い球速、俺でなきゃ顔面が潰れちゃうね…
今度の箱は、城と森の映る美しい情景が描かれていて、どうやらゲームの箱らしい。
「これは?」
「はぁッ!?知らねぇのかよ!学生の頃あんなにゲームやりまくってたのに!?」
「やめろ譲治ッ落ち着け!!それ以上気を高めるなァーーーッ!!」
「わかった」
「よかった」
「急に落ち着かないでくれるか〜?さっきの俺の事言えないよ〜?」
俺の問いに譲治が暴れたせいで、店内の人々の視線が痛い…やめてっ、こんな俺達を見ないで…ッ!なんでテメェらは平然としてんだボケ…っ!
「コイツはつい先月発売されたばかりの『Verus Mundus』専用VRMMOゲーム、名を『マジック&ブレイド・オンライン』!!」
「ゲーム内では魔法や剣を使ったファンタジーバトルは勿論、食事や鍛冶などといった生産系の仕事もすることが出来る超絶自由度の言うなればそう、ゴーグルが名にする通りの「もう一つの世界」────ッ!!」
「日本国内限定で発売し、現在プレイヤー総人口10万人の超人気作だッ!!」
「お、おお…なんかすげェッ!!」
たしか『Verus Mundus』って国内だと50万台しか売れてなかったはずだから5分の1ィ!!?
おいおいマジか!?どんだけの人気ゲームなんだよ『マジック&ブレイド・オンライン』!!
「ちなみに俺達はβ版からやってる!」
「俺達神、お前ザコ〜ッ!!」
「はぁ〜〜??ゲーム始めたらお前らすぐ抜くから見てろよマジで。無職を舐めるな」
「え、割と怖くない?」
「落ち着け、奴は職無しだ。いずれ貯金無くなって死ぬ」
ぐ、ぐぐぐぅ〜…ッ!コイツらさっきから痛いところばっか突きやがってェ!!
クソッ!なんかしてやる、どうにかゲームで生きれるようになってやる…ッ!!
俺は無職を嘲笑う二人に「今に見てろよ」と小さく吐き捨てながら、俺は大ジョッキに注がれたビールを一気に飲み干したのだった───!!
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