第四話 ライバル登場!? 奴の名はノーパンマン(後編)
>台座の上に乗った何かに手を差し伸べて、コネコネしている女性の横姿のシルエット。右下に現れる「パンツイッチョマン」のロゴ。さあ、後半の開始だ。例によって、分量的に半分になっているかはわからないぞ!
>物部家に、訪問者が現れたのは、指定した時刻から十数分過ぎた頃だった。一応、指定時刻になった時に電話連絡があり、少し遅れると伝えてきていた。そのおかげで、老婦人は支度を整える時間ができた。詐欺を仕掛けてきた相手を罠に嵌めようという魂胆だ。ただし、当人にはその意図はあまりなかった。パンツイッチョマンの指示に従うだけだ。
スーツ姿の若者:ごめんくださぁい。荷物の回収に来ました。
>物部家のインターホンに呼び掛けた若い男は、老婦人の案内に従い、自分で柵の扉を開け――この手の扉は防犯性能より見掛け、雰囲気重視だ――数歩進んで、玄関扉に行き着く。扉の一部は磨りガラスになっており、向こう側に明かりが点いているのが見えた。人が動いているのが黒い影として映り、スーツ姿の若者は汗ばんできた両手をポケットの上で擦る。扉が引き開けられると、老婦人が隙間から顔を出す。
老婦人: はい、お待たせしました。どうぞ、お入り下さい。
スーツ姿の若者: あ、結構ッス。自分は荷物を受け取りに来ただけなんで。
>受子は、詐欺集団の中で下っ端になっていることが多い。捕まる危険度が高いので、使い捨て扱いなのだ。それゆえに、組織の全貌を知らされている事はほぼない。むしろ、「割の良いアルバイト」として集められている。しかし、その割の良さと仕事内容から、ほとんど全員の受子は自分が詐欺に加担をしているのは気付いている。それでいて、知らないふりをしているのだ。しかし、ここまで加担していたら、警察相手に「知らなかったんです」は通用しないぞ。
老婦人: そう、仰らずに。お茶くらい出しますよ。
スーツ姿の若者: いや、ほんとうに大丈――結構ッス。
>チラホラと普段使いの言葉が漏れている事から、お堅いサラリーマンらしい格好はハリボテらしい。この若者は、奥に紙袋が立って置かれているのを見て、一歩進む。
スーツ姿の若者: あ、あれがおか――じゃなくて、荷物ッスか?
>偽の孫からの指示では、引き取りに行く者には荷物としか伝えておらず、お金とは知られていないので、間違って口にしないように、と言われていた。これは、会社に内緒で空いた穴を塞ぐという建前の筋を通すのと、受子が「現金とは知らなかった」と言い通しやすい為だ。まあ、何にせよ、小細工だ。そして、本当は何を運ぶか知っている受子は、つい「お金」と口を滑らしそうになった。それをごまかすためにも、奥へ立ち入ろうとする。
老婦人: そう、そうなのよ。あれは案外重くてねえ。でも、その前に、お茶でもいかが?
>スッとスーツ姿の若者の前に立ち塞がる老婦人。彼は、束の間、押しのけるようにしても取るべきかと迷った。その時、背後から声を掛けられる。
男の声: せっかくだ。お茶をいただいてはどうだ?
>驚いて振り向いたスーツ姿の若者は、「うひゃあ!」と情けない叫び声を上げた。いつの間にか、二歩とない距離にハダカの男が立っていたからだ。この物語ではよく見られる光景だが、ホント体験すると恐怖ですからね。ハダカの男――もちろん全裸ではなく、最低限のマナーを身に着ているパンツイッチョマンだ――の向こうで、扉の閉まる音が、スーツ姿の若者の動揺をさらに掻き乱す。
スーツ姿の若者: あ、いや、その……。
P1: 遠慮は無用だ。ここでお茶をいただくか、それとも警察に連絡されるか、二つに一つ。どちらが良いのだ?
>スーツ姿の若者に選択肢は残されていなかった。
>ソファが低めのテーブルを囲む居間には、既にお茶の準備がされていた。お茶菓子は羊羹。その羊羹のお相手は緑茶だ。トポトポと湯飲みに入れられる緑茶を、スーツ姿の若者は難しい顔で眺める。彼は、羊羹も緑茶も好きではなかった。心の中では「なんで、ケーキとコーヒーじゃねえんだよ」と悪態をついていたが、言葉としては出さない。むろん、背後に立っている半裸のマッチョが怖かったからだ。
P1: では、ハルさん。お話ください。……そうですね。これまでの人生でいちばん嬉しかった事は何ですか?
老婦人(以下、「おハル」と表す): そりゃあ、長男の知則が生まれた日だね。
>それから老婦人の長い話が始まった。それをスーツ姿の若者は、我慢して聞く。時々、苦いお茶を啜り、羊羹には手を出さずにいると、半裸の男から見咎められた。
P1: 羊羹は食べないのか?
おハル: 一本堂の羊羹。おいしいよ!
>高級羊羹専門店の屋号は、スーツ姿の若者も聞いたことがあった。断れないので、言われたまま一欠片を口に放り込むと、昔食べた羊羹ほど甘くは感じなかった。「これなら我慢できるかな」と思って噛み続けていると、甘味がずっと続く。言わば、これまでの羊羹は甘味が一気に押し寄せてきたのに対して、高級羊羹は波状攻撃。どちらにしても、甘みの量は同じ印象だった。そこに、パンツイッチョマンのアドバイスが投げ掛けられる。
P1: お茶と合わせてみたまえ。
>言われるまま、苦くて苦手な緑茶を飲む。すると、羊羹の甘さのせいか、緑茶の苦みはあまり感じなかった。逆に、羊羹の甘ったるさも洗い流される感じがした。スーツ姿の若者からすると、「うげっ! マジで?」と思うほどの衝撃だったが、完全アウェイの立場だったので、「あ、そっスか」程度の反応で終わった。その後も老婦人の昔話が続き、それを聞きながら、スーツ姿の若者は、羊羹を毎度大きさを変えて口に放り込み、緑茶との割合の最適解を模索していた。
P1: ……それで、その息子さんは今お幾つに成られました?
>老婦人が、お茶と羊羹で、一息つき、再開しようと口を開いたが、言葉が出てこなかったところを、パンツイッチョマンが継いだ。
おハル: えーと……五十……三かね。
>「五十」と聞いたところで、スーツ姿の若者は思わず顔を上げた。話の中では、小学生を卒業するまでに二回も怪我で入院していた子供が、現在自分をはるかに超える年齢だと言われて驚いたからだ。しかし、考えてみれば当たり前のことだった。そういう年齢関係だという事実を意識していなかっただけだった。
P1: 次は、君が生い立ちについて話してみるか?
>突然話を振られて、スーツ姿の若者は戸惑う。というよりむしろ、拒否する。
スーツ姿の若者: いや、そんなのムリッスよ。……特に話す事もないし。
>しかし、いつものとおり、パンツイッチョマンはマイペースだ。言い方を変えれば、聞く耳を持たない。
P1: 幼すぎては思い出せないだろうから、小学生の頃ではどうだ?
スーツ姿の若者: えっ!?
>「このおっさん、話聞いていたのかよ!」とスーツ姿の若者は心の中で思ったが、今回も口に出さなかった。部屋に入ってからも、座らず、スーツ姿の若者の後ろでフロントラットスプレッド風の姿勢を維持し続けている半裸の男は、有り体に言うと、気持ち悪く話しかけづらい。が、そう感じると同時に、一つのエピソードが浮かんで来た。サッカーをしていた時の一場面だ。今まで思い出した事がなかった場面だったが、湧き上がってくるとハッキリと情景が思い浮かぶ。
スーツ姿の若者: じゃ、じゃあ……
>そうして会話は続き、羊羹と緑茶は、おかきと麦茶に変わり、羊羹ほどの衝撃ではなかったが、おかきの塩気を洗い流す麦茶にもスーツ姿の若者は感心した。あまりに手間取っているので、元締めからの電話があり、スーツ姿の若者は、パンツイッチョマンの指示に従い、「大丈夫ッス。長話に付き合わされているだけですから」と流し、続く催促にはスマホの電源を切って応じた。
>パンツイッチョマンは、スマホを掛けてきた相手に興味を示し、スーツ姿の若者は、その事務所を教えた。元締め側は、知られていないと思っているだろうが、報酬なく切り捨てられることを警戒し、スーツ姿の若者は保険代わりに、尾行して場所を確かめていたのだ。それを聞くと、パンツイッチョマンは出て行った。怖い存在が居なくなったスーツ姿の若者は、もう自由の身だったが、すぐに立ち去る気は失せていた。もう急ぐ必要がなかったからだ。
>いつの間にか二時間近く過ぎていた。それくらいの時間で、スーツ姿の若者の性根が変わったわけではない。未だに彼は、二度と会わない保証があれば、ツレから金品を掠め盗っても、心が痛まなかった。だけど、もう、目の前にいるハルさんからお金を騙し取れなかった。何十年と掛けて貯めたお金だと知ってしまったからだ。いや、貯金というものはそういうものだと彼は知っていた。できなくなったのは、ただの金と思えなくなったからだ。思い出を聞き、山あり谷ありの人生を経て、手にしたお金だと背景を知ってしまった。一言で表すなら、情が移ったのだ。
>スーツ姿の若者は、そう自覚すると驚いた。自分でも、情に流されるキャラなどと思っていなかったからだ。「らしくないぞ」と言い聞かせたところで、萎れた騙す気は戻ってこない。むしろ、「俺もこういう家庭に育っていたら、変わっていたかもな」という憧れが滲み出てしまった。
スーツ姿の若者: やっぱ、オレ……自首した方がいいですか?
>問いかけたハルさんは、微笑んだだけで答えてくれなかった。しかし、もうこの時にはスーツ姿の若者にも、ハルさんの気持ちがある程度わかるようになっていた。「そんな必要ないよ」と言ってこなかった時点で、「そうすべきだ」と思っているのだろう。自分でも「そうすべきだ」と、頭ではわかっていた。でも、勇気が出ない。こういう時は、尻を叩き出すくらいの勢いをつけてもらった方が動きやすい、と思って、出て行った半裸の男が思い浮かんだ。
スーツ姿の若者: そういや、あの、ハダカの男の人って……。
>ハルさんも、言葉を途中で止めたスーツ姿の若者の意図をある程度読めるようになっていた。
おハル: さあ? 私は良く知らない人なんですよ。
>スーツ姿の若者は目を見開いた。変態に見えるけれど、老婦人の保護者なのだろうと思っていたが、そうでもなければ……見た目どおりヤバい変質者だ。
おハル: でも、悪い人ではないわね、きっと。
>ハルさんに、同意を求められるように見つめられて、スーツ姿の若者は改めて自問する。自然と、頷きが出た。ヤバい奴とドン引きしかけたが、ヤバいのは格好だけで、中身はまともな気がした。むしろ、スーツ姿の若者は自分の方が中身はヤバいという自覚があった。「恰好がヤバくて、中身がまともな奴。反対に、格好が普通でも、中身がヤバい奴。どっちがよりまともなのだろう」スーツ姿の若者は束の間考えた。……個人的に、私は、外見も内面もまともな人であるべきだ、と思うぞ。悩む場所がちょっとズレているかな。
おハル: そういえば、パンツイッチョマン、と名乗っていたわねえ。
スーツ姿の若者: パンツって……それ、マジっスか?
>笑いながら、スーツ姿の若者が聞くと、ハルさんも「ホントね」と口元に手を当てて、クスクスと笑った。スーツ姿の若者は、年上のお婆さん相手にも、「カワイイってあるんだ」とちょっと衝撃を受けてから、急に恥ずかしくなって目を逸らした。
スーツ姿の若者: あ、パンツイッチョマンっスね。
>スーツのポケットからスマホを取り出し、電源を切っていたのを思い出して、イライラしながら待ち(その間、カニ風味のおかきを食べて、少し落ち着いた)、ようやく起動すると、ネットで「パンツイッチョマン」を検索する。すると、例の花見で暴れている動画が引っ掛かった。
スーツ姿の若者: これかな? ……あ、ヤベっ、これ、マジヤバいやつだ。……あ、ハルさん、さっきの人、動画に出てましたよ。
>そう言って、スマホの画面を老婦人に見せるスーツ姿の若者。ちなみに「ヤバい」と言っていたのは、「逆らうとヤバかった」という感想だ。ハルさんは、目を細めてそれを見るが、よくわからなかった。衰えた視力でもハダカっぽい人がいるのは見えるが、そもそもスマホで盗撮した画像は遠くて、よくわからないのは無理もない。「メガネ、どこに置いたかしら?」と言うと、ハルさんは立ち上がって眼鏡を探し始める。その間、スーツ姿の若者は、他の動画も確認し、よりはっきり映っているものがないかを探す。
おハル: その映画、テレビでも見れないかねぇ。大きくて助かるんだけど。
>スーツ姿の若者は「いやぁ、ムリっしょ」と思ったが口に出さずにいた。敬意からだ。しかし、ハルさんの次の言葉で考えを変える。
おハル: なんか、インターネットも見られるって息子がやってくれたんだけどねえ。
スーツ姿の若者: ネットに繋がるなら、いけますよ。 え、やっぱ、アマ――
>実在の企業名についてはバッサリ切る!
>ハルさんが老眼鏡を探している間に、スーツ姿の若者は、いわゆるインターネットTVの設定を整える。確かに、ネットに繋がる環境はできており、あとは入力しにくいリモコンとソフトウェアキーボードで検索するだけだ。
>ほどなく、老眼鏡は見つかり(お出かけバッグに入っていた)、検索で拾えたパンツイッチョマンの活躍動画がテレビ画面に映る。「あら! ほんと、あの人だわ!」歓声を上げるハルさん。「でしょ? ハンパないっスね」喜ぶスーツ姿の若者。しかし、素人のズーム撮影は手振れが酷く、動きの速いパンツイッチョマンをまともに捉えられない。当然、アクションの仔細はわからず、クルクル回ってよけるパンツイッチョマンの周りを、群がって来る酔っ払いが勝手に倒れているように見える。この動画は数十秒で途切れた。
スーツ姿の若者: あ、他にもあったんで。ちょっと待っててください……。
>そうやって三つほど流した後、スーツ姿の若者が呟く。
スーツ姿の若者: これって、やっぱり、ヒーローなのかなぁ?
おハル: ヒーロー?
スーツ姿の若者: はい。……正義の味方っスね。
おハル: ああ、正義の味方! ……そうね、きっとそうよ!
>軽く手を叩いて喜ぶハルさん。その無邪気な姿に思わず微笑むスーツ姿の若者。と、突然、ハルさんの両手が止まる。
おハル: あら、大変! 私ったら、あの人の事を、変質者として通報しちゃった!
スーツ姿の若者: えっ? ……でも、まあ、それは……仕方ないんじゃないっスか。
>しかし、ハルさんは「訂正しなきゃ」と警察に電話を入れる。ちなみに、ガラケーではなく、自宅の固定電話だ。「昼間に通報した変質者ですが、ちゃんとパンツをはいていました」という、結局アウトなんじゃないかと思える内容だったが、ハルさんはこれでスッキリした。ついでに、という感じで、スーツ姿の若者も詐欺集団の事務所について報告した。自首についてはあやふやにし、またハルさんに受話器を戻し、「本当にそこにお金を盗られそうになったんですよ」という被害者として訴えた。結果、警察は変質者の通報があった時より本格的に動くのだが――あ、別に、警察が事件の質によってやる気が変わっているとか主張しているわけではありませんよ。えーと、投入する人員の規模についての話です。……ともかく、この通報がパンツイッチョマンにとって、大きな影響を及ぼすのだが……それについては次回――あ、ウソです。まだ、それほど押しているわけじゃないですから。……でも、想定時間より遅れているのは事実です。以後は巻きで参りましょう。
>物部邸から、立ち去ったパンツイッチョマンがどこへ行ったのかは、私にもわかりません。ただ、詐欺集団の一員と老婦人を残していくことで、強盗事件に発展しかねないのかな、という心配はなかったのか、気になります。……今までのパンツイッチョマンの行動を見ていると、そんな心配などしていないでしょうね。自分が思った事を実行するだけで、相手の気持ちについて考えていない傾向がありますから。例えば、前回登場の桜ちゃんは、振り回してぶん投げられた事にかなり怒っていましたね。……あ、そっか、視聴者の皆さんには未だ、第三話の後の外伝が届いていなかったのですね。最勝寺先生がいつか出力してくれるのを待ちましょう。ただ本人は「書く暇ねえぞ」とボヤいていましたが……おっと、巻きでしたね。
>パンツイッチョマンが去ったのは昼下がりでしたが、次に私がパンツイッチョマンを捕捉できたのは夜です。午後八時から九時といったところかな。深夜感は未だありません。この間何をしていたのか? 一つ考えられるのは、例の唐草模様の風呂敷(ふろsき)の回収でしょう。脱いだ服を――あ、ここは、「変身」と言った方がいいんですかね? 一応。では、変身前に着ていた服を風呂敷に包んで、どこかに隠していると思われますが、ずっと置きっ放しというわけにはいきません。偶然誰かが見つけて持って行ってしまうかもしれませんし、人が見つけにくい心理的死角となる場所に隠していても、妖怪『黒猫ニャーン』が咥えて持って行くともかぎりません。なので、持っていかれる前に風呂敷の回収の時間が必要でしょう。その後は、着替えた方が目立たずに目的地に移動できます。……にしても、掛かりすぎですねえ。一旦、仕事場や家に戻っていたのでしょうか? そのあたり、私からでも秘密のヴェールに遮られて見ることができません。
>ともかく、パンツイッチョマンは夜になってから、詐欺集団の事務所が入っている雑居ビルに現れた。別の階では学習塾やヨガ教室などが占めていたが、対象の三階は事務所が複数入れるように仕切られていた。引く手数多の物件ではないようで、空室も多い。だが、詐欺集団が拠点とするには目立たない場所だった。その三階に、階段からやって来たパンツイッチョマン。小さなエレベーターもあり、普通はそちらが使われるのだが、階段で良かったと私は思う。だって、想像してごらんなさい。五階の学習塾へ行こうとした中学生の後から、パンツイッチョマンがエレベーターに乗りこんできた場面を。正解は「すぐ箱から出る」なのだが、急に動いて刺激するのは良くないとか考えてしまうかもしれない。単に驚きから動けないこともありうる。そうしてモタついている間に、パンツイッチョマンに「閉」ボタンを押されてしまうのだ。パンツイッチョマンの目的の三階に着くまでの時間がどれほど長く感じるであろう。そういった被害を出さないためにも、今後もパンツイッチョマンには是非とも階段の利用をしていただきたい。
>と言っている間に、パンツイッチョマンは受子の若者から聞いた部屋の前で立ち止まる。
P1: むっ!?
>廊下は暗かった。このフロアの利用者がもう居ないため、照明がオフになっていたのだ。非常出口の緑の光があるため、真っ暗ではないが、サングラスを掛けているパンツイッチョマンには厳しい暗さだろう。普通の人ならまともに歩けないはずなので、やはりパンツイッチョマンには見えているようだ。とはいえ、事務所の扉の様子がおかしいのは近づくまでわからなかったようだ。
>事務所の扉は封印されていた。映画やドラマで見る、立ち入り禁止と書かれたテープを張られ、入られないようにされていた。いや、正しくは、入ろうとすれば跡が残る状態にされていた。賢明な視聴者の方々なら既に気付いているとおり、ここは警察の手が入った後だったのだ。
男の声: やはり来たか。パンツイッチョマン。
>背後から声を掛けられて、パンツイッチョマンが振り返る。五メートルほど離れた場所に、男が立っていた。どうやら、階段を降りて現れたらしい。エレベーター扉もその近くにあるので、パンツイッチョマンは見事に退路を断たれていた。
謎の男: おい、タカ。今から例の現場に来られるか? ……ああ、面白い物を見せてやる。
>電話で誰かと話した後、男は電話を切った。スマホから漏れていた明かりが消え、また薄暗い非常灯の光のみになる。
P1: 何者だ?
謎の男: ハン! それはこっちのセリフだが、一応礼儀だ。答えてやろう。
>そこで、その男は壁に手を伸ばし、廊下の照明を点けた。電灯の下に姿を現したのは、黒メガネの男。あの銀子先生に似顔絵を書かせていた刑事だ。ちなみに、黒メガネのレンズ部分はかなり大きい。かつて、お昼の情報番組のメインを張っていたギネス記録保持者が、昔掛けていたサングラスくらい大きい。……時代遅れ、とは言ってはいけないぞ。今の時代にも、それを愛用している人はいるし、「売れる」と思って作っているメーカーさんもいる。だから……あ、でも、脳内なら、いくらでも文句言っていいから、やっぱり、自由な感想を述べても問題ありません。
黒メガネの刑事: 警察だ。貴様を捕まえに来た。
P1:罪状は?
>これに黒メガネの男は笑って答える。
黒メガネの刑事: 自覚がないのか? 戸羽公園で散々暴れただろうに。 しかも、そんな姿で、文明の守護者などと名乗っているそうだな。笑わせるぜ。
P1: パンツを笑う者はパンツに泣く。 パンツがなければ、文明も発展しない。
黒メガネの刑事: そこが俺には、大いに異論がある。
>黒メガネの刑事は、片足を一歩前に出すと、そちら側の手を伸ばして、パンツイッチョマンを指差す。指差すというと、パンツイッチョマンのポーズの一つとして印象深いが、パンツイッチョマンは手の甲が平行になるように指差しているのに対して、この黒メガネの刑事は手の甲が垂直になるように指差している。……え、今頃、そんな詳細を告げられても、脳内のパンツイッチョマンは手の甲を垂直にしていましたか? だったら、それでもいいですよ。些細な差ですから、いっそ、二人とも一緒のポーズでも構いません。
黒メガネの刑事: 高度に発展した文明には、もはやパンツなど不要!
# バーン!
P1: なにぃ!?
>効果音は、黒メガネの刑事の威圧感を示したのか、はたまたパンツイッチョマンの動揺を示したのか。いずれにせよ、あっちの現場では緊張感が高まりつつあった。
P1: いや、パンツがなければ、人類も獣同様。獣との一線を画す誇りがパンツという象徴なのだ!
黒メガネの刑事: 古い、古い。それは、人類が獣から分かれていく最中での話。パンツができて何千年という今、人類にはもはやパンツは必要ではない!
>えーと、一応、訂正しておきますが、「パンツができて何千年」という部分は誇張だと思います。実際にどれくらいの年月が過ぎているかどうかは、パンツ歴史学に詳しい学者先生に聞いてください。
黒メガネの刑事: 実際、今の俺はパンツをはいていない!
P1: な、なにぃ!!
>もちろん、黒メガネの刑事が下半身丸出しというわけではありません。灰色のスラックスの下にパンツをはいていない、という事でしょう。これが事実かどうか、私は確かめることはできるのですが、映像情報として入手してしまいますので、確かめたくありません。
黒メガネの刑事: そう、貴様がパンツイッチョマンなら、俺はさしずめ、ノーパンマン! いや、ノーパン刑事だ!!
♪ ジャン、ジャカジャカジャカジャジャン
>突如、かき鳴らされるギータ音。これは、向こうで流れているわけではなく、スタジオで挿入した曲だ。一応、タイトルに「ライバル」とあったので、名乗りに合わせて音を入れた方がいいだろうというSEさんの配慮だ。そうそう、SEはサウンド・エフェクト、つまり効果音の略称です。
P1: ノーパン……刑事。
>警戒し、両手をハの字に構えるパンツイッチョマン。少なくとも、パンツイッチョマンはライバルと認めたようだぞ。
ノーパン刑事(以下、「NPD」と表す): 思えば、俺はずっとノーパンの精に呼ばれていた。しかし、それに答えられなかったのは、常識に縛られていたからだ。だが、貴様が「パンツ、パンツ」と言っているという話を聞き、心の底から反発する何かが沸き上がった。そして、パンツを打ち捨て、一皮剝けた。ふふふ。「ノーパン健康法」という言葉を聞いたことはあったが、この解放感。確かに気持ちが良いぞ。
P1: しかし、トイレの後の被害を緩衝してくれる存在を失うことが本当に正しいのか?
NPD: ん? しずくの事を言っているのか? それは、慌ててしまうのが悪いのだ。 キチンとプルプルするなり、チョンチョンするなり、しずく切りをしてから収めれば、ズボンを汚すことはない。むしろ、それはパンツをはいていても必要な大人のマナーだろう。
P1: なら、お腹を下した時の放屁事故はどうだ? あれはパンツという存在が大惨事を防いでくれている。
NPD: ははは、それは筋違いな話だな。そもそも体調管理を万全にしていれば、下痢などにはならない。その言いがかりは、事故になるから自動車を運転するな、という話と同じだ!
P1: いや、事故についての備えがあってこその文明人だ。ズボンが汚れた場合とパンツが汚れた場合――
>えー、当人同士は白熱した議論を続けているようですが、第三者からするとどうでも良い、というか、むしろ汚い話ですね。代わりに音楽でも流しましょうか。
>映画『ハタリ!』より、ヘンリー・マンシーニ作曲の『子象の行進』、枚鴨交響楽団の演奏です。
♪(ズンズンチャチャズンズンチャチャズンズンチャチャズンズンチャチャ)
♪テーテレッテテッテッテッテッジャンジャン(ズンズンチャチャズンズンチャチャ)テーテレッテテッテッテッテーーーテレーーテレーレ(ズンズンチャチャズンズンチャチャ)テーテレッテテッテッテッテテッテ、テテーレーレレテレーレーレレレレーレレーレーレレレレレーレレレ(ズンズンチャチャズンズンチャチャ……)
(略)
>お、どうでも良い議論が、終わったようですね。ちょっと終わった直後に巻き戻してから、再開しますので、頭出しまでしばらくお待ちください。……しかし、曲を流すのは楽しいですね。時折、パンツイッチョマンたちの手ぶりが曲とシンクロするところがあって、まるで指揮を執っているかのように――あ、視聴者の皆様には、そこは見えない。……そうですね。音楽と実況を同時に流せないのが、この仕様の弱点です。……あ、準備できましたか。では、繋げますね。
P1: どうやら、平行線のようだな。
NPD: では、どちらが正しいか。実力で示すしかないな。
>ノーパン刑事が、両手をスーツのポケットへと突っ込む。服装が違えば、西部劇の決闘直前のガンマンのようなポーズだ。
P1: ぬっ!
>議論の最中、構えを解いていたが、また両手をハの字に構えるパンツイッチョマン。ノーパン刑事が、ポケットから両手を出す。その手は握られていた。拳の中に何か隠しているようだ。
NPD: 最後にもう一度だけチャンスをやろう。大人しく投降しろ。そうすれば、痛い目はみなくて済むぞ。
P1: 断る。警察に首紐を付けられては、守れないものも出てくるからな。
NPD: ならばっ!
>ノーパン刑事が僅かに両腕の角度を広げた。一見すると、動きがあったのはそれだけだった。しかし――
P1: むっ!?
>パンツイッチョマンは身を捩り、虚空に平手を払う。
♯ カツン!
>金属が何かにぶつかった音がした。音の具合からすると、小さく硬い何かだ。
♯ カラカラカラ………
>カメラがズームして捉えたのは、廊下に転がる小さな金属製の球。……あ、これはあれだ。あーあ。……転がっていたのはパチンコ玉。
>もちろんですが、小さなお子さんは、いや子供かどうかに限らず、パチンコ玉を投げて遊ぶのは危険だから真似しないで下さいね。……しかし、これで、パチンコ業界の方がスポンサーになってくれる可能性は潰えましたね。はぁ……。そもそも、パチンコ玉の持ち出しは禁止なのに、ノーパン刑事はどうやってそれらを――おっと、第二波の攻撃だ。しかし、これもパンツイッチョマンはスピンムーブと仰け反りで躱した。
P1: 飛び道具……指弾か!
>指弾。その漢字のとおり、指で何かを弾く戦闘手法だ。近接戦で、この技をぶつけられた場合、直接のダメージは低いが、大いに気が逸れる。その隙を生み出すための牽制技なのだが、ノーパン刑事の指弾は、弾が速く、私の目では追いきれない。
NPD: なかなかの動体視力だな。しかし、連続では対応できるかな? そら、そら、そら!
>ノーパン刑事は、握った拳の親指を使って、パチンコ玉を弾いていた。右手と左手をほぼ同時に弾いた後、握った三指から人差し指に次弾を転がり出して装填する。そうして放たれた六連発を、パンツイッチョマンは身を翻して回避する。しかし、的確な射撃を避けるので手一杯なせいで、ノーパン刑事との間合いは詰められない。ノーパン刑事は握った拳からパチンコ玉が無くなると、ポケットへと手を入れ、いわばマガジンリロードする。
NPD: 貴様が疲れ果てるまで続けても良いが、俺には獲物をなぶる趣味はなくてな。
>ノーパン刑事が次弾を放つ。しかし、その軌跡に、パンツイッチョマンの動きが一瞬止まる。慌てて身を捩るが間に合わず、肩に一撃、それでまた動きが止まったところに、一発が頭部へ向かう。あわや、バイザーが割られるというところで、パンツイッチョマンの手の平が間に入り、バイザーの破壊は免れた。しかし、これもまた被弾一だ。……何が起きたのか、スローで確認してみよう。ノーパン刑事が放ったパチンコ玉――ちっちゃくてわかりづらいですねえ。スポーツ中継の解説のように、手描きの円を重ねてみますね。はい、これです。これが、ずいーっとこちらへ飛んで……。なるほど、パンツイッチョマンへ向かわず、壁へと向かっています。そこで、跳ねて……それがパンツイッチョマンを襲っていますね。直接向かってくる攻撃は避けられても、反射してくる攻撃は躱しにくいわけですね。……たかだかパチンコ玉が当たっただけだとお思いの視聴者もおられるかもしれませんが、当たり所が悪ければ、失明等の重大な障害を残しかねない危険な攻撃です。加えて、ノーパン刑事の指弾は、極めて速度が大きく、威力も普通にパチンコ玉を投げつけられたのに比べればずっと大きいのです。ニュートンの第二法則からわかるとおり、質量が二倍になればエネルギーが二倍になるだけですが、速度は二の二乗すなわち四倍となるのです。……ま、難しい話はさておき、……えーと、その辺りズームしてもらっていいですか? ……ほら、見てください。あのパチンコ玉は壁に当たってへこみを作るくらいの威力があるのです。
>はい、では、映像を再開してください。おおっ、パンツイッチョマンは、ギリギリではなく、大きく移動することで攻撃を避けようと方針を変えたようです。前転、側転、捻りバク宙と多彩な技を繰り出します。それに対応して、ノーパン刑事も回避先への攻撃、いわゆる偏差撃ちへと手法を変えました。たまらず、柱というか、少し出っ張った壁の裏へと避難するパンツイッチョマン。しかし、そこは元より半身しか隠せない厚みしかなく、反射攻撃をしてくるノーパン刑事にはそもそも明確な死角などない。……だが、そこを起点に行ったり来たりをする事で、被弾確率は下がりましたね。……なるほど。出っ張っりのすぐ向こう側は反射面に使えないから、攻撃方向を限定できるんですね。
♯ パリーン
>パンツイッチョマンの奥にある、廊下の突き当たりの窓が割れた。どうやら、ノーパン刑事は反射角を瞬時に把握して攻撃をする事はできるが、それが避けられた時の予測までは間に合っていないらしい。そこに動揺が生まれたのか、ノーパン刑事の猛攻が一旦止まる。そこに、半身を隠したパンツイッチョマンが語りかける。
P1: そういえば、詳しく聞けていなかったが、私をどういう罪状で捕らえるつもりだ? 暴行罪か?
NPD: もちろん、そのつもりだ。
P1: ならば、逮捕状を持っているのだろうな?
NPD: 逮捕状、だと?
>その答えに揺らぎを感じ取ったのか、パンツイッチョマンが陰から姿を現す。
P1: どうやら、逮捕状、取れていないようだな。それなら、私を逮捕するのは、現行犯になるが、それも暴行罪で押し通すつもりか? むしろ、一方的に暴行を働いているのは君のようだが……。
>パンツイッチョマンは、ノーパン刑事に人差し指を伸ばし、その腕を直角に曲げる。さらに、体の向きを九十度変えると、指先は背後の廊下の突き当たりを示す。
P1: そして今しがた、器物破損の罪が重なったようだが……。
NPD: 捜査、逮捕の上での事故だ。書類を書いて、罰金を払えば済むことだ。
>どうやら、ノーパン刑事はこの手の被害について常習者、というか、もうむしろ常習犯のようだ。開き直っているが、同時に、良くない自覚はあるようで苛立っている。
P1: 器物破損はそれで済むとしても、私に対する暴行は消えていないぞ。警察の信用を失墜させうるスキャンダルになるのではないか?
NPD: 煩い! 貴様をこの場で捕まえれば、マスコミにタレ込む時間もない!
P1:だから、その根拠となる罪状が不足しているというのだ。
NPD: なら、公務執行妨害で逮捕してやる。
P1: ほほう。公務執行妨害か。確かに、逮捕権を行使しているのに従わないなら、公務執行妨害といえる。が、現行犯逮捕が通らないなら、君の要求はせいぜい任意同行を求めている程度になる。それに対して、例えば私が君を突き飛ばして抵抗したなら、公務執行妨害と訴えられる。しかし、現状はどうだ? 私は君に近づいてさえいない。
>ノーパン刑事はしばらく黙った後、両手をポケットから出して、大の字に腕を開く。
NPD: ならば、貴様が俺を殴れ。一発二発なら、抵抗せず殴らせてやるぞ。
P1: ハハハ。こうも明白な罠に乗るほど私もバカではない。
>ノーパン刑事は無抵抗の構えを解くと、肩を怒らせて、パンツイッチョマンを睨む。もちろん、その目元は見えない。見えているのは皺の寄っている眉間だ。対するパンツイッチョマンは、例のフロントラットスプレッド風に胸を張る。
NPD: ちっ! 意外に小賢しいやつだな。 ……しかし、法律がどうとかは、それに詳しい後輩が駆けつけてから決めればいい。今は、お前を倒し、捕まえられればそれでいい。俺はお前のパンツ思想が気に入らないのだ。
P1: ふむ。そこは合意に至ったな。私も君が気に入らない。
>ノーパン刑事は再びポケットに両手を入れてから直ぐに出す。握り直した両手からは「ジャラリ」とパチンコ玉が擦れる音がした。睨み合う二人。……二人の変人。変人だが、漲る緊張感は、西部劇の早撃ち勝負と同じだ。
>その時、エレベーターが三階に着き、「チン」とチャイムが鳴った。それを合図に二人が動く。両の親指を弾くノーパン刑事。対する、パンツイッチョマンはそれを屈んで躱し、壁際に置かれていた消火器を手にする。ノーパン刑事の第二射は、パンツイッチョマンが放り投げた消火器に阻まれる。
♯ バン!!
>ノーパン刑事の怒りの籠もった指弾は、高い内圧を支えている消火器の分厚い外装を打ち抜いた。爆発音と共に周囲に吹き出す消化液。その勢いに吹き飛び、廊下を跳ね回る消火器。
若い刑事: アニキ!?
>エレベーターに乗っていたのは、銀子先生からの供述をパソコンに打ち込んでいた若い刑事だ。扉が開くと同時に、小さい爆発音がし、白い泡が撒き散らされている状況は、彼にとって、もちろんすぐ理解できるものではなかった。
NPD: クソッ!
>悪態をつくと、ノーパン刑事は、開いたエレベーターに一旦避難した。跳ね回る消火器は、白い泡が撒き散らされる視界不良の現状では、ノーパン刑事も追えなかった。追えたとしても、向かってくる消火器を避けられる自信もない。しかし、逃げ去ることまではせず、エレベーターの扉の「開」ボタンを押し続ける。
NPD: 例のパンツ野郎を見つけた。お前は近づくんじゃねえぞ。
若い刑事: え!?
>驚くが、スタンガンを抜く若い刑事。時間(字数)の都合上、省かれてしまったが、詐欺集団を捕まえる際に銃撃戦が展開されていた。その後だったので、武装は解除していなかった。このコンビは、名目上、詐欺集団の残党が戻ってくるのを見張っていたのだ。
NPD: よし、行くぞ!
>消火器が跳ね回る音が小さくなったところで、エレベーターを出るノーパン刑事。若い刑事が後に続く。開放時間が長いことで、不満の警報を鳴らしていたエレベーター扉は閉じるとようやく沈黙した。廊下は消化液の泡が舞っており、電灯の一部が割れて消えてしまった事から、見通しが利かなくなっていた。直ぐに、ノーパン刑事は細身の携帯電灯を点けて、様子を窺う。物音はしなかった。後輩に留まって階段付近を守るよう、手ぶりで指示し、ノーパン刑事は廊下の隅々まで照らして進むが、どこにもパンツイッチョマンの姿はなかった。となると――
NPD: 逃した、か……。
>ノーパン刑事は、自身が割った窓から外を眺めた。隣の建物が近くに迫っており、眺めは決して良くない。しかし、壁が近いだけに、パンツイッチョマンが移動する余地があった。視聴者の皆様もご存知のとおり、パンツイッチョマンは壁を蹴り、その反動を利用して対面の壁に取り付くという芸当が可能なのだ。それを繰り返すと、壁登りは難しくとも、降りていくのはできそうだ。その能力は知らずとも、ノーパン刑事は、パンツイッチョマンがここから立ち去った事を確信していた。自分が割った時と違い、今はガラスがほとんど残っていなかったからだ。
若い刑事: え!? ここ三階ですよね?
>若い刑事は言われなくとも、先輩の読みを理解していた。しかし、常識がその考えを呑み込むのを阻む。
若い刑事: もしかして、H案件ですか?
NPD: ああ。だが、変態のHだな。
若い刑事: ぐふっ。
>豚の鳴き声のようにも聞こえたが、くぐもったように若い刑事が笑った。
NPD: おう、タカ。あのハダカ男を捕まえるのに、暴行罪は適応できないのか?
若い刑事: うーん。法的には、暴行を働いた時点で有罪なんですけど、実際は被害届や診断書などがないと難しいですねえ。
NPD: つーことは、見つけても捕まえることは難しいか。
若い刑事: また別の何かがあれば別ですが、戸羽公園の件だけじゃ厳しそうですねぇ。
NPD: ん? でも、被害届が無ければ、っていうなら、アイツが何も言わなければ、俺も罪には問われないか……。
若い刑事: ……アニキ、またやらかしたんですか?
NPD: ん? まあ、今回は問題なさそうだ。
若い刑事: 今回は、って、じゃあ、次はダメな事する気なんでしょう?
NPD: 次か……。パンツイッチョマン、次まで勝負は預けてやるぜ。
>ノーパン刑事はそう言うと、ニヤリと笑った。
==次回予告==
幸せはじけるウェディング
誓いに水差す横恋慕
意固地で無粋な乱暴者は、
気合いの張り手で目を覚ませ
次回、第五話「ウェディングベルと黒パンツ」
パンツを洗って、待っときな。




