4.人々は知らない
が! その魂胆を知らない無能どもが、台無しにしてくるのだった……
ある日、いつものように王女の部屋を尋ねる。
しかし、いつものような反応が得られなかった。
「何かありましたか」と理由を問うが答えない。
「言わなければ何もわかりませんよ」と問い詰める。
何度かその問答を繰り返すと、やがて、王女は静かに首を振る。
「何もおわかりにならなくて良いのです。いずれ、終わることですから」と。
そこに漂っていたのは負の感情ではなくただの虚無。それは、深い諦観だった。
決して、彼に対する信頼が育ったわけではないのだと悪魔は知る。
内心舌打ちしたい程であった。
どういうことなのか、一体何があったのか、配下に探らせればと、ある者達が暴言を吐いていたことが発覚する。
悪魔と呼ばれるほどに、人に対して冷酷な彼だが、王女だけは溺愛するかのごとく、優しく甘く接していた。
彼は、一応容姿は整っていて、高い地位にもいたため、幻想のような思慕を抱く女性達がいた。悪魔は彼女たちに気にも止めていなかった。
が、彼女らは、嫉妬に駆られ、王女へ助言と呈して、侮蔑の言葉を投げていたようだった。
「あの方は悪魔のような人、何か目的があるに違いないのだ。」
「どうせ、あなたなんて後に捨てられる運命なのよ。」
「この娘のどこがよいのか。悪魔の考えることはわからない。」
「調子に乗って後で痛い目をみないことね!」
みたいなことを何度も吹き込まれていたのだと。
それで、今の優しさは一時的なものだと王女は受け入れていたらしいと、悪魔は知る。
これでは台無しだった。
揺らぐことのない信頼があってこそ、裏切られた時の反動が大きいというのに! 余計な疑念を植え付けるなど!
イラっとして、半ば八つ当たり気味に適当な罪でしょっぴいて拷問をすれば、心地よい負の感情が…… そんな……わたくしが……まさか……こんな目に……と、恐怖……怯え……悲しみ……憤り……これこれと食卓の料理の皿を眺めるように、負の感情に浸る。
彼女らのは、ありふれた安い宿屋の料理並みの負の感情だったが、王女の負の感情ならさぞかし、大切に熟成させた美酒の如き味わいだろうと想像する。