2.王女は望まない
それはある王女であった。彼女の母親の妃は、平民出身だった。妃は陛下が何かの視察に行った際に出会って、気まぐれのような寵愛を受けた。
故に後ろ盾がなく、立場が弱かった。しかも、一度子を成したら陛下の興味を失い、後宮の隅の方で生きていた。
生まれた子も後を継がない娘となればいよいよ忘れ去られる。かといって、一応王の血を引いているため、放り出すわけにもいかない。後宮の隅でひっそりと生きていた。
しかし、知らぬうちに、妃はなくなり、王女のみとなっていた。
王女の世話をする侍女も一応いるものの、気味が悪いだの体調が悪いだの何だのかんだのと囁きあい、最低限のことしかしなくなる。
親の立場が高い姫であれば、豪奢なドレスや装飾品が山ほど贈られて、それを着飾り、公の場に出ることもあったが、彼女は、帰る場所もないため、ただただひっそりと生きていた。
部屋から出れば気まぐれのように、他の姫や侍女からも嫌がらせを受け、時には命に関わるようなことも起こる。が、出ていく先もなくそこで生きるしかなかったのだ。
一日のほとんど暗く狭い部屋で過ごす。
正直、王女はたくさん居すぎて何人目かもわからない状態だ。将来や嫁ぐ先など、考える者すらおらず、やがて、存在すらも忘れ去られていた。
常に動向を見張られ、出入りの自由を奪われ、罰を与えられるかのような様は、つまり牢獄のようなものだった。王女といえば華やかだが、見に覚えのない咎でほぼ永久に捕らえられたような囚人のようなものだ。
そんな環境ならばさぞかし恨めしく、さぞかしつらく、さぞかし濃厚な負の感情を抱いていることだろう。
悪魔は、期待をして、彼女に会いにいく。
しかし、彼女はブラックな王宮の生活に慣れきっていて、ひどい目にあってもそれほど堪えていないようだった。
話を聞けば、母親が「平民であった時のことを考えれば、命があり、心配をすることなく食が得られることはありがたいことなのである」と。
「故に、今生きていられることに感謝しかない」と言う。本音を言えない者たちが口先だけでいう言葉のようだが、それが本当であるということは、悪魔が一番よくわかっていた。その感情には、仄暗さの欠片も得られなかった。
「これより良い暮らしを望まないのか」
と訪ねると、異国の言葉を聞いたかのように首を傾げる。
そもそも、より良い暮らしなど想像もせず、求めることすら諦めているようだった。