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「えぇ!?どうなっているのですか?」


イズの話を聞いていたリフィは目を丸めて問いかける。

それにイズはケラケラと笑って答える。


「まぁまぁ、この先があるんだよ」

「まだあるのですか?」

「そ、ちょっと長いけどね」


イズは意味深に笑って見せると、リフィは興味がだだ漏れのキラキラした表情でイズを見つめ返す。



◇◇◇◇◇



オリビアの発言でイズは完全に呆然としていた。

ーーふぇ?どうなっての?

全く掴めない状況に混乱する。

ーーオリビアは違うって言うし…ヴァンディル卿は言ったって言うし…

どこがで浮かんでいる疑問があるのだが、決定打が全くない為なんとも言い難い。

ーーなんか…物語みたい

人生初めての体験にイズは呆然と立ち尽くしていた。


「イズ、どうかしたのかい?」


そこにエプリ伯爵が通りかかった。

酔いが回っているのか頬は赤く、目はとろんとして人のいい顔というよりはヘラヘラ笑っている様に見える。


「あ、いや。なんか混乱しちゃって」

「混乱かい?」

「あー、うん」


この状況をどう説明すべきかイズは悩む。

ーーいや、それよりも…

イズは思い出しエプリ伯爵に問いかける。


「あのさ、例えばだけど」

「うん」

「婚約するかもなぁーって2人がいて、女の人の方は別にその相手の人に特別な感情がなかったの」

「感情のない結婚も世の中にはあるからねぇー」


エプリ伯爵は見た目ほど酔っていない様だ。

イズの話にしっかりと相槌を打つ。


「うん。でもその婚約話もいきなり生まれたものみたいで、多分、お互いにないはずなの」

「そうか」

「でね。その女の人の知り合いに実はその婚約相手の事を好きな人がいてね」

「それは、人気な方だね」

「そう、人気なの。とってもとっても人気で、女の人は平凡なのにおかしな婚約なの」


イズは真顔でエプリ伯爵に伝える。


「それでね。女の人は、知り合い…ん〜、ややこしいから友達ね。友達から実はその人のことが好きだったって告白されちゃうの」

「それは困ったね」


イズの少し感情のこもった説明にエプリ伯爵も眉を下げて表情を作る。


「この場合、その女の人ってどうするべき?お家の事だし、女の人、本人が断れは済む話なのかな?断っちゃえばいいの?」

「う〜ん、そうだね…」


イズの質問にエプリ伯爵は困った顔をした。

イズもその表情と同じ心境だった。

ーーどうするべき?

どれが正しいのか見えないのだ。

恋という感情にどう判断を下すべきか分からない。

ーーそれに…

何故かはっきり出来ない自分がいる。


「その女の人はどうしたいのかな?」


エプリ伯爵の問いかけにイズはしばらく考えて、顔を横にふった。


「分からない」


イズは暗い表情で答えた。


「女の人はよく分からないって。…相手の人の事を何も知らないけど、このまま関係がなくなってしまうのは寂しくて、でも、このまま知らんぷりするのも変で…」


何がしたいのか自分でも分からない。

どうしようもないと一旦オリビアの要求を断ってしまったが、なんとなくオリビアはとても苦しい思いをしているのではないかと思ってしまうのだ。


「いつも気持ちのままに動いてきたけど、そうしたらすごくわがままな感じがする。それに友達の事を放っておくのも話してくれたのに、責任な気がして…」


いつも選ぶべき道と感情は一緒だった。

迷わず正しいと思える道に元気よく突き進めた。


「それは難しい話だね。きっと友達も同じ様に辛いと思うから、その人は余計に悩むのだろうね」

「あ…うん」


その通りだ。

オリビアの気持ちが分かる様で決断がうまくいかない。

最初に話を聞いた時と今ではイズの感情が全然違うのだ。

そんな複雑な心境のイズに、「そうかい」と優しく頷くエプリ伯爵はその穏やかな声のまま言葉を続ける。


「だけど、私は人の為に自分が犠牲になるやり方は嫌いだね」

「え?」


イズには意外な話だった。

人が困っていたら自分の事を犠牲にしてでも手を貸す様なエプリ伯爵がそんな事を言うとは思ってもいなかったのだ。

驚いたイズを見たエプリ伯爵は何が面白いのやら爽快に笑う。


「ははっ、言っておくがね、イズ。私は自分をそこまで犠牲にしたことがないよ?なんだって私には守べき土地も、領民も家族もいるんだ。そう簡単に自分を犠牲にすることなんて、それこそ無責任じゃないかい?」


その言葉にイズは納得してしまう。

確かに助ける事を諦めない父であったが、そのせいでイズ達が苦労をしてきた事などない。

寧ろ、エプリ伯爵に対する感謝がイズの方まで流れ込んでくるのだ。

大きな犠牲を払わずにここまできて来れたのは、彼の力とそして人柄だ。


「私はね、少しの努力で私の大切なもの達が幸せで入れることが大好きだよ」


そう言ってエプリ伯爵はイズに笑いかける。


「大切なものを大切にできる人が一番だ。私はそんな人間になりたいね」


彼の理想はどこまでも甘く、そして優しい。

イズもその世界が大好きだ。


「うん」


イズもそれに頷いた。

ーー結局、自分がスッキリする方法しかない

イズは顔をあげた。

大切なものを大切にする方法は知っている。

まず、イズが自分を大切にする事だ。

だとしたらイズはこのもやもやした気持ちを全て解き放つしかないのだ。


「さ、私はそろそろ行かなくてはね。皆が待っている」


イズのやる気の満ちた表情を見届けたエプリ伯爵は優しく笑うと会場に戻って行った。

まだまだ大きな背中にイズも笑いかける。

ーー頑張るね

イズはそのまま家の外に出て深呼吸を始めた。


「何がもやもやしているのかだよね」


まずは自分のモヤモヤを解明しなければと考えてみる。


「最初、オリビアの話を聞いた時はそっか〜って思っただけなんだよ」


イズは一つずつ思い出す。

オリビアには同情するが、こればっかりは仕方ないとそれで片付けた。


「でも、今日は…」


イズは今日の出来事を朝から一つずつ思い出す。

フィンのイヤイヤ病は予想外だった。

だけど、そのおかげでヴァンディル卿は緊張すると難しい顔になる事が分かった。

後、少し臆病だった。

嫌われる事をどこか怖がっていた。

それがどこか可愛くてーー


「わぁーーーー!」


ヴァンディル卿のあの表情を思い出し、イズの中にブワッと溢れてくるものがあった。

それがやけに恥ずかしくこそばゆくて、イズは叫ばずにはいられなかった。


ガザッ


イズの叫びに反応した何かが、イズの背後で音を立てる。

イズが振り向くと、そこにはヴァンディル卿が驚いた表情でこちらを見ていた。

ーーうわ、驚いていてもイケメン

イズは場違いにそう思うと、再び先ほどの感情を思い出し、顔に熱が上がってくるのを感じた。


「あっ、わ、おぉーー…」


言葉にならず、イズはわちゃわちゃとする。


「…すまない。驚かせてしまった…」


ヴァンディル卿は驚いているイズを心配する様な表情を浮かべて言った。


「あ、いえ。こちらこそ…」


ーーあれ?なんでここに?

イズは謝りながら、先ほどまで会場にいたヴァンディル卿を思い出す。


「もしかして、お父様達がご迷惑を?」


イズが申し訳ない気持ちで言うと、ヴァンディル卿は首を横に振る。


「いや…少し夜風に当たろうと…それに……」


ヴァンディル卿は弱々しく微笑んだ。


「君の姿が見えたから…」


ーーう、うわぁ…

イズは自分の胸を掴んでそのまま崩れ落ちそうになる。

ーーイケメンやばい

顔面の威力を思い知るイズだった。

ーーどれだけ私をドキドキさせるのか!

このまま裁判にでも持って行こうかとイズはふざけた事を考える。

ーーあ…

ふと気がついたイズは顔をあげた。

その表情は先程よりも少し引き締まっていた。


「あの、ヴァンディル卿」

「なんだ?」

「ヴァンディル卿はこの縁談、どう思っていますか?」

「どうっ…とは…」


イズの率直な問いかけにヴァンディル今日は言葉を詰まらせた。

顔は案の定真っ赤だ。

一瞬その表情にホワッとしかけたイズだったが、今はそれどころではないと自分を正す。


「はい。私とこのまま縁談を進めることに何か不満な点はありますか?正直に話してください。とっても重要なのです」


イズは戸惑うヴァンディル卿などお構いなしにグイグイと迫っていく。


「あっそ、それ、それは…」


タジタジになりながらもヴァンディル卿はなんとか答えを口に出す。

イズはそれをジッと見つめ続けていた。

しばらく慌てていたヴァンディル卿だったが、幾分かするとイズの真剣さが伝わったのか咳払いをした。


「私は…」


そしてゆっくりと口を開く。

イズも緊張してそれを見つめる。

ヴァンディル卿も真っ直ぐな目をイズに返す。


「できることなら、このままこの縁談を進めたい。不満はないが…その…君が嫌ではなければの話だが…」


ヴァンディル卿は口下手な様で、うまく言えているのか不安そうな表情を浮かべる。

それでも、必死で伝えようと頭をフル回転しているのだろう。


「そうですか…」


イズは一生懸命な彼を見て、安堵しながら声を出す。

彼には不満はなくても不安はあるのかもしれない。

『君が嫌でなければ』はきっとイズに対して彼が優しい気持ちを持っている証拠だ。

彼がイズに誠実にあろうとしてくれている。

そしてイズを選んでくれる。

それだけでイズの気持ちは固まってしまった。


「ありがとうございます」


イズは勢いよくヴァンディル卿に頭を下げた。


「すみません、このまま失礼します!」


イズはそう言うと、そのまま自分の出てきた道を戻って会場へ向かう。

ヴァンディル卿はそれに何かを返答する時間さえなかった。


「ど、どういう事だっ…」


流石の彼も確かめずにはいられなかったのか、そのままイズを追いかけるのだった。


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