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それからイズはなんだかんだと王都に滞在していた。

領地の侍女であるフリーンの息子について気になっていたが、ヴァンディル卿に勧められて送った薬草が随分効いたようですっかい体調が良くなった様だ。

イズはフリーンの手紙を読みながらホッとする。


『こちらの事は気にせず、王都でゆっくりなさってください。

 折角ですから、お二人で観光しながらお戻りになって下さいね。』


彼女の手紙の最後にはそう書かれていた。

イズは微笑みながらそれはいいかもしれないと思う。

ーー旦那様とゆっくりって、だらだらするぐらいしかなかったものね

イズは旅行もいいかもしれないと想像を膨らませる。

ーーデートだ

そう思うと胸が跳ねる様に嬉しくなる。


ちなみにスノトーラは一昨日、イズの実家に帰って行った。

イズはこのまま一緒に王都にいようと勧めたのだがスノトーラは首を横に振った。


「あの家には誰も冷静な人間がいないのです。長く空けていると、実家が空に浮かんでいるといけないので」


スノトーラは眉一つ動かさず、真剣な面持ちで言った。


「もう、スノちゃんたらっ」


イズはそれを冗談だと思って笑って吹き飛ばしていたが、その横にいたヴァンディル卿は真顔で頷いた。


「…ありえる。すぐに帰った方がいい」


ヴァンディル卿はそう言うとすぐにスノトーラの帰る支度を手伝い始めた。

多くの手土産をスノトーラに渡すとーー


「何かあったら連絡をくれ」


真剣な表情でそう言って、スノトーラを最後まで心配そうに見送っていた。

イズは仲良しだと思いながらその様子を見守っていたが、使用人達の中ではイズの家族についての謎が深まるばかりであった。


そんなスノトーラが帰ってしまうと、ヴァンディル卿が出ている間イズの相手役にラドが居座る様になった。


「ラド兄様、お仕事は?」


毎度毎度、屋敷に長時間に渡って居座るラドにイズが問いかける。


「あ?何でか知らないけど、やる事がなくてよ。する仕事が全部終わってんだわ。不思議だろ?」


摩訶不思議だと呑気にラドは言っている。

イズは流石にそれはないだろと不安になる。


「…兄様、職場の方に信頼されてます?」

「何を言っている。信頼のラドだ」


ラドは不満でもあるのかと言いたげだ。


「う〜ん。だってラド兄様って昇進のきっかけも旦那様のおこぼれだったんだよね?」

「あぁー、あれな。あれはラッキーだったなぁ〜」


ラドが呑気にそんな事を言う。


ーーやっぱりそうだったんだ


イズはスノトーラの情報は正しかったのだなと確認する。

だが、やっぱりラドらしいとイズは爽快に笑う。


「お、馬鹿にすんなよ?俺のお陰で今があるんだからな?」

「お兄様が昇進した事?」

「いや、お前達の結婚だ。俺がいなきゃお前らの結婚はなかった」


ラドがドヤ顔で言い放つ。


「もしかしたら出会っても無かったかもしれないなぁ〜」


少し意地悪な言い方をするラドにイズはムッとする。

ーー何よ…

イズは珍しく頬を膨らまし、反論する。


「ラド兄様がいなくても私と旦那様は出会ってました!運命よ」

「お前…よく、運命だなんて恥ずかしげもなく言えるな」

「運命はあるわ。神様がちょちょいと赤い糸を結んでくださったの」


ゲンナリした表情のラドにイズはこれでもかとメルヘンな話をお届けする。

嫌な事を言ったラドにイズなりの嫌がらせだ。

ラドはその話を聞くなりすっと真顔になると、口を開く。


「お前、知らないのか?神は死んだんだぞ?」

「…」


その一言で何故か燃え上がっていたイズの熱もさっと冷え切るのだった。


それからイズとラドがグダグダとしている間にヴァンディル邸に訪問者が現れた。

リフィがイズ達の部屋にそれを伝えに来た。


「奥様…ヴァング公爵家のヴィナディス様が…」


リフィが気不味そうに声を発する。

イズはその突然の訪問に目を見張る。


「ヴィナディス様が?」

「…はい。奥様に会いたいと…」

「謹慎は解けた頃だろ。あっという間のゆるゆる謹慎」


ラドはまたしても揶揄いながら言う。

イズはそれに下唇を突き出して対抗する。

ーーでも、何の用なの…

そうすぐに性格が治るわけでもないとイズは分かっている。

あれから改めて謝りにくる様な人間ではないだろう。

ーーあれから時間も経っ手落ち着いたし、プライドがどんどん前に来て…

どこかで罪悪感を感じていても彼女が謝罪を口にする事はないかもしれない。

そう考えるとイズはヴィナディスっぽいなと笑みが溢れた。


「謝りに来たのかもな」

「ではない、と思う」


イズがラドに断言する。

ラドも同じ事を思ったのか吹き出す。


「まぁ、会えよ。なんだかんだ公爵の家の人間だからな」


ラドはどこまでもお気楽モードだ。


「あの…ここにお呼びしますか?」


リフィは戸惑い気味にイズに問いかける。

イズはラドを振り返る。

ラドは行ってこいと手を振る。

イズはそれもそうだなと思う。


「応接間にお願い」

「はい」


リフィは返事をすると部屋を出るとすぐに出て行った。

ーーうん、少しドキドキする

イズは胸に手を当てて呼吸をする。

これが最後のチャンスだろうなとイズは思う。

ーーいい思い出になるかどうか

そうなる事を願いながらイズは応接間に足を進めた。


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