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「南部の国境部隊と言えば、ほぼほぼ監獄の中の様な厳しさなんだよ」


ゲラゲラと笑うラドが理解できていないイズとスノトーラに補足する。


「24時間徹底的に管理されて一度入ったら生きて戻れないとも言われていますね」


オセルも補足をしてくれた。

それにヴァンディル卿が頷いている。


「生きて帰れないって、働きに行っているのですよね?辞めることだってーー」


スノトーラがそう言うと、3人が同時に首をふった。

そして代表してラドが説明する。


「辞める気力さえ奪われるんだ」

「「!」」


イズもスノトーラも驚きを声に出せないでいた。

お互いに顔を見合わせて険しい表情になる。


「実際、辞職している奴らはいるが、大体の人間は聖職者になってるぜ」

「人間、ある限界を超えたら何かを悟ると言うのは本当の様ですね」


ラドの言葉にオセルが頷きながら答える。


「きっと30歳超えている年齢では普通の兵士よりキツイでしょうね」

「すぐに根をあげちまうだろうな」


どうやらローゲの処分は実質監獄行きというわけなのかもしれない。


「なら、ローゲも出て来る時には聖職者になるから、旦那様はそこにローゲを送ったの?」

「違う」


イズの質問にヴァンディル卿はすぐに否定した。


「あいつを南部の国境部隊に送り届けた時に一つだけ情報を渡してやった」


何だろうと全員がヴァンディル卿を見つめる。


「『お前が借りている奴らが何故かお前がここいると知っている様だ。ここから出るとなれば奴らが見張っているかも知れない』とな」

「そりゃ、なかなか親切にしてやったんだな」

「彼がお金を借りていた所はかなり荒い人間が多い様です」


ゲラゲラと笑うラドにオセルが説明を重ねる。

つまり彼らの話からいくと、ローゲにとっては出ても地獄、出ないも地獄の状態だ。

だが、最低でも命を奪う目的でない国境部隊の方がマシなのかもしれない。

だとしたら、ローゲは死ぬまでそこで働く運命になるはずだ。


「成る程。彼もヴァンディル卿の慈悲に涙しているでしょうね」


スノトーラは納得したのか満足げな表情を見せている。


「いやいや!重いよ!罪が重いよ!」


初めてツッコミ不在の状況で声を荒げた。


「そんなの終身刑みたいなものじゃん!」


自分の望んでいたものではないとイズは主張する。


「我が妻を冒涜したのだ。当たり前だ」

「そうです。お姉様を侮った罰です」

「我が妹よ。神を冒涜したら普通は死刑だぞ?」


ヴァンディル卿とスノトーラが真顔で語るのに合わせて、ラドもふざけて言っている。

イズはそんなラドは無視しながら、本気な2人にあわあわとする。


「スノちゃん!人間の心を取り戻そうよ!旦那様も!!」


何か危ない橋を2人は渡っている様だった。


「何を言っているのですか。お姉様に絆された時点で私たちは悪魔に魂を売っています」

「君の為なら悪魔に魂を売るくらいなんてこともない」

「スノちゃん!旦那様は冗談が通じないタイプだからね!!目を覚まして!!」


イズはバシバシとヴァンディル卿の頬を叩いた。

だがヴァンディル卿はそれが嬉しいのか、少し口の端が上がっている。

この夫婦は2人しておかしいのかもしれない。


「奥様、大丈夫ですよ。実際にはローゲの居場所は誰にも明かしていませんし、南部の警備部隊とも5年で契約しているだけです。彼の歳を考えればそれ以上いては本当に命を落としかねませんからね」


オセルがその場を鎮めようと補足する。


「それぐらいあれば、きっと大丈夫だわな。神様の存在を知った罪は精算するだろうさ。あとは自分でまた悪循環に身を投げ出すか、聖職者として生まれ変わるかのどっちかだ」


ラドがあっけらかんと言う話を聞いてイズはホッとする。

自分の夫が極悪人にならずに済んだのだ。


「それで、ヴィナディス様は?」


スノトーラは話を変えた。


「あー、ヴィナディス様はね」


今度はイズが苦笑いを浮かべる番だった。

多くの人々と話し合った結果、ヴィナディスは数日間の謹慎だけで全員が納得した。

彼女の性格が今回の件を引き起こした原因であるものの、あの時にヴィナディスが怯えていた姿を見ていた全員が彼女に対して大きな罰を与える事を望んでいなかった。

既に彼女はイズから罰を与えられていたからだ。

何よりあの時の彼女が離縁しようとしたイズを止めた行動を皆が見ていたのだ。

それに今も彼女は大人しく部屋に篭っているらしい。

彼女の処分を求める必要性は誰も感じなかったのだ。

だがそれでは格好がつかないとヴァング公爵は「それではダメです!修道院に入れるか、領地で監禁いたします!」とまで申し出た。

まさかの罪を犯した本人よりもその親に手こずる事になろうとは誰も思わなかったはずだ。


「いや〜、ヴィナディス様のお父様なだけある!勢いがある!」

「流石彼女の父親だ…」


一緒に対応したはずのイズとヴァンディル卿は正反対の表情をしていた。

イズはいい汗をかいたと言わんばかりの清々しい表情だが、ヴァンディル卿がげっそりとしていた。


「で、どうやってヴァング公爵は納得したのですか?」


スノトーラは問いかける。

イズは少し恥ずかしそうに笑う。


「それは、ちょっと言ったら、号泣されてさ…」

「号泣?何を言ったのですか?」


姉に向ける目とは思えないほど疑いに満ちた瞳をスノトーラはイズに向けた。

イズがへらりと笑うとそれにヴァンディル卿が温かい目を向けていた。

彼の目尻のシワを見れば誰もがイズの言葉が何かを救うものだったのだと理解できる。

実際にイズが言ったのもそんな失礼な事ではない。

どうにかしてヴィナディスに罰を与えてくれと懇願するヴァング公爵にイズは拗ねた様に言った。


「公爵様は私からヴィナディス様と仲良くなる機会を奪うおつもりですか?」


イズはまるで何か大切なものを盗むのかと言わんばかりにヴァング公爵に訴えた。


「もしヴィナディスお姉様が誰かと結婚して、子供を産んでそして子供が結婚して孫までできて、そんな孫達が楽しそうに庭園でかける姿を見ながら『私達も歳をとりましたねぇ〜』『そうね。あの出来事が昨日の様だわ』『ヴィナディスお姉様はあの頃と何も変わりませんね』『嫌だわ恥ずかしぃ…』ってできないじゃないですかっ!」


念願の姉にイズの想いが溢れ出す。

少々拗れているのだが、イズのそんな熱い語りに感動したヴァング公爵は豪快な男泣きを披露することとなった。

そして彼は何度もイズに感謝を伝える。

目から鼻から出せる水分を存分に出しながらヴァング公爵は想いが止まらず言葉を永遠と続けていた。

彼の感謝は中々収まる事もなく、彼が帰る頃には屋敷中がぐったりしていたのだった。


「ってな事で、まぁ…めでたしめでたしってね」


イズが笑って言うと、ヴァンディル卿が遠い目をして続ける。


「流石彼女の父親だ…」


ヴァンディル卿の表情は少しげっそりしていた。

彼も謝罪と感謝の繰り返しのヴァンディル卿に何日も対応していたのだ。

疲れを感じるのも無理はない。


「本当に、ヴィナディス様に似て可愛らしい方ですね」


イズはそんなヴァンディル卿に微笑みながら返す。


「可愛い?あの金豚がか?」


ヴァング公爵がいないのをいい事にヴァンディル卿はムッとした表情で言った。

容赦ない『金豚』にイズは吹き出す。

ラドも理解したしたようでゲラゲラとまた笑い始める。


ーー黄金の豚様!


イズはそう思うとヴァング公爵家の紋章にそっくりだなとまたコロコロと笑った。


「えぇ、可愛い方です。身なりはかなり煌びやかでちょっとクセがありそうな方なのに」

「確かにあの見た目のインパクトは凄かったです…」


スノトーラは苦笑いで頷いた。

今でも光物を見るだけであの親子の残層が視界に浮かぶほどだ。


「一般論ね。いい方なのはすごく滲み出てるからね。家族思いで義理堅い方で、それに猪突猛進の猪様にそっくり。素敵な方!」


イズが言うとヴァンディル卿はまたしても顔を顰めさせた。


「…」

「どうしました?」


あからさまに無言になったヴァンディル卿をイズが覗き込もうとすると、プイッと顔を背けられた。


「旦那様?」

「…」


イズがもう一度彼の表情を見ようと追いかけると、今度は不機嫌な顔を上に向けてわざとイズと目を合わせない様にする。

イズよりもかなり背の高い彼に上を向かれてはイズもなす術がない。

ヴァンディル卿はムスッとしたまま口を開く。


「…君はああいう人間が好みなのか?」

「え?」


大柄な大人がすねた子供の様に呟く。

大の大人が…と思われるが、彼の場合相手がイズなのだ。

イズだからそんな馬鹿げた態度も素直にできる。


「あれがいいのか?」


ヴァンディル卿がもう一度呟くとイズも流石に気づいた様にだんだんと顔に嬉しさを解放していく。


ーーあぁもう!!


これが可愛いと思ってしまうのだからイズも重症だ。


「旦那様が一番ですよ?」

「……気を使わなくてもいい」



ヴァンディル卿はまだすねている様でむっつりとして言う。


「本当です。私の言うことが信じられないのですか?」


イズはヴァンディル卿のそばに椅子ごと近づいて彼の顔を覗き込んだ。

ヴァンディル卿は急に近づいたイズの顔に顔を赤め少し視線を外す。


「いや…」

「何ですか?」

「……」


結局折れるのはヴァンディル卿の方だった。


「…すまない」


そう言って彼は人前であることなどどうでもいい様で、イズの目ともに口付けをした。

イズもそれに嬉しそうに頬を染めて笑う。

ヴァンディル卿の表情もさらに柔くなる。

2人にとって幸せの連鎖が次々と生まれる。

だが、その連鎖で全員が幸せになるとは限らない。


「何だあれ…」


ラドはぽかんとして2人の様子を見ていた。

熱いカップルの様子など周りにしてみればただの地獄だ。


「ラド兄様、ガン見する方が邪道ですよ」

「お二人が幸せで何よりです」


スノトーラとオセルは完全に受け入れた様で平然とした様子でその場を過ごすのだった。


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