60
こんばんは。
お久しぶりです。
しーしびです。
長らく私情により更新を止めていました。
本当に申し訳ありません…
しーしびも書きたいという欲を抑え込み、我慢していました…
なんとか投稿が出来る状態になって来たので、ゆっくりと更新を開始していこうと思います。
まだまだ至らぬしーしびですが、どうぞこれからも宜しくお願い致します。
イズがヴァンディル卿の部屋で目を覚ます頃には既に12時を回っていた。
「あ゛ぁ…」
イズは起き上がるとすぐに奇妙な声を発しながら今度は前に倒れ込む。
性格的にもイズはあまり恥ずかしさを感じるタイプではないが、この恥ずかしさは流石のイズでも耐えきれないものがある。
しかもこの時間まで誰もこの部屋を訪れていないとなれば、先に察された可能性が高い。
そして、夜ならまだしも昼にだ。
「うっう゛ぅ…」
イズは恥ずかしさを少しでも体外に出そうと息をするが、妙な呻き声がだてくるばかりで恥ずかしさは高まるばかりだ。
そこに追い討ちをかける様にイズの体に残った感覚も現状が現実のものだと訴えてくる。
「どうした」
既に目を覚ましていたヴァンディル卿がそんなイズを静かに眺めながら声をかけて来た。
イズはハッとして隣にいる大きな物体に目を向ける。
「だんっーーー」
イズは瞬時に攻めようとして言葉を詰まらせた。
ヴァンディル卿は立派な上半身を露わにしてイズを見つめていたのだ。
ーーなんて格好を…
イズはすぐさまヴァンディル卿から目をそらしてシーツを抱き抱えた。
彼女も簡単にヴァンディル卿を非難できる姿ではなかった。
イズはシーツの隙間からちらりとヴァンディル卿を覗き込む。
「ん?」
イズの子供の様な行動にヴァンディル卿は目を細めて甘く微笑んだ。
まさしく幸せな朝を迎えた小説の主人公そのものの表情を浮かべているヴァンディル卿をイズは責めるに責めれない。
「あぁーあ…」
イズは流された自分も悪いのだと頷きながら、シーツから顔を離しわざとらしく残念そうな息を吐く。
そしてヴァンディル卿の方へ向き直し、顔に力をいれ険しくさせた。
「その顔私以外にしちゃダメですからね」
覚悟を決めてヴァンディル卿を見ればなんとかイズは逞しい胸板を耐え抜く事が出来た。
ーーいや、やっぱり危ないかも…
一瞬胸板の方へ目を向けそうになったイズは意識的にヴァンディル卿の瞳だけに注目する。
だが、それは逆効果だった。
「しようと思っても君以外には出来ない」
イズの思いなど知らないヴァンディル卿はそう言葉を続けると柔らかく美しい唇の間から白い歯を覗かせる。
瞳だけを見つめていたイズは立派な男性なのにどことなく少年の様な眩しく初々しい輝きを放つその純粋な彼の瞳にどうしようもない感情がこみ上げる。
ーーこれが惚れた弱みってやつ?
愛というものはなあなか手強いものだとイズは思った。
支えや強さにもなるがそれは弱みにもなる。
またしてもイズはため息を吐いた。
ヴァンディル卿がいて嬉しいのに悩みが増えた気がしてくるのだ。
「宝物は誰にも見つからない様に仕舞っておくおべきなのかも」
「宝物?」
「なんでもないです」
聞き返すヴァンディル卿の顔をイズは倒れながら両手で包んだ。
ヴァンディル卿は一瞬驚きを露わにしたがすぐ様表情を和らげてイズの手に自分の手を重ねる。
大きな彼の手は簡単にイズの手を包み込んでしまう。
「旦那様」
イズはその温もりを感じながら目の前のヴァンディル卿をじっと見つめた。
柔らかい優しい香りがイズの鼻腔をくすぐる。
ーーきっとこれが幸せの匂いね
ずっとこの匂いを感じていたいのに、なぜか勿体無くも感じてしまう。
「これからどうしましょうか?」
イズはそれでも幸せに溺れながらヴァンディル卿に尋ねる。
「1日部屋にいるか?」
「それだけはダメです」
ヴァンディル卿の甘い提案をイズはすぐに却下した。
「今日はやる事があるはずです」
後処理は肝心だ。
イズは今度は流されてたまるかとヴァンディル卿に添えた手でそのまま頬をつねった。
それでも彼は嬉しそうに表情を柔らかくしている。
犬なら嬉しそうにブンブンと振る尻尾でも見えそうだ。
ーーほっぺをつねられて喜ぶ人だ
イズもつい頬が緩みそうになる表情をなんとか引き締めていた。
だが、元から笑う筋力しか持ち合わせていないイズの表情は完全に緩みきっていた。
完全に漏れている微笑みのイズにヴァンディル卿は腕を回した。
イズがしまったと思った時には既に遅かった。
完全にイズはヴァンディル卿の腕の中に収まっていた。
あの幸せの優しい香りと共にすっぽりと彼に包まれてしまったイズはそのまま黙り込んでしまう。
ーー勿体ないって思っちゃうんだよね
こんな自分が悪いと思いながらも結局幸せに溺れようと流される。
こうなってしまうと恥ずかしさはどうでもよくなってしまうのだ。
イズはつくづく自分を律する事のできる人間を尊敬した。
「旦那様」
「ダメだ」
イズが何かを言ってしまう前にヴァンディル卿か却下した。
「何を言うか分かっているのですか?」
「離せというのだろ?」
「残念。違います」
イズはヴァンディル卿の固い胸板をツンと指で突いてみる。
やはり固い。
「1日部屋にいちゃいましょうか?」
イズは悪戯な笑みを見せながらヴァンディル卿に問いかけた。
自分の腕からひょっこり顔を出して問いかけるイズにヴァンディル卿は微笑みを返す。
笑っていても眉間のシワが深い。
「やる事があるのだがな」
低く柔らかい声を出しながらヴァンディル卿は名残惜しそうにイズを抱きしめた。
苦しいのに幸せという不思議な感覚だった。
「それは残念です」
イズもへらりと笑って言葉を返す。
ヴァンディル卿はそれに頷くと素直にイズを解放した。
「…早めに片付ける」
そう言ってイズの額に唇を落とした。
これからヴァング公爵と会うのだろう。
「お待ちしております」
イズもそう言って彼に微笑み返した。
それからイズは少し遅めの昼食をとった。
スノトーラは既に済ませていたが、付き合ってくれた。
だが、あえて時間について何も言わないスノトーラと、嬉しそうに微笑み続けているリフィを目の前にするとイズは居た堪れない気分になり食事に集中していた。
「お姉様、夕食の事もありますからあまり食べ過ぎない方がいいかと」
「あ…うん」
イズはいつもの調子がどうも戻ってこない為、スノトーラに歯切れの悪い返事をする。
クスッ
居心地の悪そうなイズを見てリフィが猫でも愛でているかの様に微笑んだ。
イズが部屋から出てきてずっとこうだ。
どの使用人達もイズとヴァンディル卿の仲を再確認し安心したとでも言いたげに、安堵と祝福のやけに優しい視線を送ってくるのだ。
そして何よりその視線を全く気に求めていないヴァンディル卿が恨めしい。
ーー私だけ気にしてるみたいじゃない…
王都の屋敷にきて一番の失態の様に感じる。
ーーもっと大人になるとこれぐらい平気なの?
そう考えつつもイズは羞恥心を忘れた人間はどうなのだろうと更に疑問が浮かんでくる。
ーー今日はスノちゃんに付き合ってもらって、気を紛らそう
イズはそう考えながら食事を進める。
そんなイズを横目で見ていたスノトーラはお茶をすすりながら微笑んでいた。
カップに隠れてイズには見えていない。
ーー本当に心配する事じゃなかったのね
スノトーラは会うと同時に謝罪してきたヴァンディル卿を思い出す。
イズのいう様に気を揉む必要はなかったのだ。
スノトーラはカップを置くとイズに顔を向けた。
「お姉様、ご結婚おめでとうございます」
「へ?」
いきなりの祝言にイズは食べ物を口に入れたまま間抜けな声を上げる。
「結婚したのは3年前だよ?」
「分かっています。言いたかったのです」
スノトーラはそれだけ言うとそのまま満足げな表情でまたお茶を啜るのだった。




