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「申し訳ございませんけど、それを引き受けるのは反対です」


イズは険しい顔で勢いよく頭上にいるヴァンディル卿を見上げた。

ティッタではなく、ヴァンディル卿を相手にしてイズは言った。


「旦那様、私は嫌ですからね」


イズはしっかりとティッタの意見を拒否した。

何かを決意した表情のイズを見てヴァンディル卿はフッと目を細めた。

そしてゆっくりと頷いた。


「テュール!私はテュールと話しているの・・・、テュールの意見をっーー」


その光景を見ていたティッタがすぐに口を挟んだ。

イズには関係ないと言わんばかりだ。


ーーそっか


イズはその姿を見て自分が何故ここまでティッタが残る事が嫌だと思ったのか理解できた。


ーーこの子が私を見ていないんだ…


イズはヴァンディル卿に夫婦ならお互いの家族を大切にするべきだと言った。

それがお互いの大切なものを幸せにする一番の方法だから。

だから迷った。不安にもなった。


ーーそれはお互いがお互いの幸せを願ってる前提でしかない


そうだ。

例えば、今回のスノトーラの様な行動は、仕組まれた事でもスノトーラのイズに幸せになって欲しいと言う思いがあってのことだ。

だが、ティッタは違う。

大切なものは彼女にはあるが、彼女は彼らを自分の幸せがある事を前提にして大切にしようとする。

話の根本が全く異なっている。

だから彼女はこの話にイズは関係ないと言ってのけれるのだ。


ーーだから私は『嫌だ』と思った


イズは初めての感情に驚いていたが何故それを抱いたのか納得した。

イズの性格上、自分の思いは相手が不快に思わない限りある程度言ってしまう。

だから嫌な事も嫌と言える。

だが、あまりにも溢れ出しそうな拒絶にも似たこの嫌悪感に戸惑ってしまった。


ーーこれが腸が煮えくり返るって事なのね


ヴィナディスもイズを目の敵にしていたが彼女とはたちの悪さが違う。

ただ傲慢な人間より、善人だと信じ切っている傲慢な人間の方が厄介だ。


「ぷっ」


そう一人で納得してウンウン頷いていたイズの後ろでヴァンディル卿は吹き出した。


「テュール…?」


ティッタはそんなヴァンディル卿に戸惑いを隠せないでいた。

吹き出した彼を見たのも初めてだった。

イズももう一度ヴァンディル卿を見上げた。

ヴァンディル卿とイズの目が合うと、彼は唇の端をクイッとあげてニヒルな笑みを見せた。


ーーお?


珍しい笑みを見たイズも驚きながら微笑む。

そしてヴァンディル卿は、一旦イズから体を離すと、イズをグイッと自分の横に引っ張って移動させその腰に腕を回した。


「そうだな…」


ヴァンディル卿は考えている様に呟いた。

彼のあの笑みは一瞬で消えて、いつもの無表情な顔に戻っていた。


「テュール…私、本当に貴方の側にいたいだけで…」

「無理だな」


ヴァンディル卿はティッタが言い終わる前に言った。

静かでよく響く声はティッタの耳にもよく聞こえた筈だ。

迷いのない否定にティッタは固まる。


「君の次の勤務先は父上達の所と決めていた。直ぐに支度をし向かえ」


淡々とヴァンディル卿は指示を出す。

そこには何の感情も見られない。

妹に対する愛情も見られない。


「何で…そんな事を?その人がいるから?そうなの?」


ティッタはヴァンディル卿を真っ赤な目で見つめる。

きっと多くの男性はこれで虜になってしまうかもしれない。


ーーあぶな


イズは女性だが、その一人だった。


「前から考えていた事だ」

「何で…」

「君が私に想いを寄せていると言ったからだ」

「私何も求めてない…ただ側に…」

「ダメだ」

「何で…」


ヴァンディル卿はティッタの質問に淡々と答える。

ティッタはどうにか縋ろうとする。

庇護欲のそそる外見も仕草もヴァンディル卿には響くものではないようだ。

ただ、イズを安心させるかの様にヴァンディル卿はイズを自分の体にもたらせる。

再び密着し感じられる温もりにイズはいつもの調子を取り戻していた。


「イズの為だ。私が彼女に通す筋だ」


ヴァンディル卿は真っ直ぐに答える。

迷いのない声が彼の本心だとイズは思えた。


「その人なの?その人がいるから…」

「あぁ、私の妻だからだ。それ以上の理由はない」


あっさりとヴァンディル卿は言ってのける。


「君の気持ちを知ってしまった以上、私は今までの様に接する事は出来ない」

「っ…」


ヴァンディル卿の一言でティッタは顔を俯かせた。

肩が震えていた。


「っ…そ、その人さえいなければ…」

「彼女を選んだのは私だ。イズのいない事はありえない」


イズが顔を上げるとやはりヴァンディル卿の顔には感情がなかった。

だからこそイズはほっとし、あたたかい気持ちになる。

それだけ言った事が彼の中で当然のことなのだ。

迷う必要のない彼の根本で揺るがないものなのだ。


「テュール…、わ…、わた…」


真っ青な顔を上げたティッタは視線を彷徨わせる。

彼女の希望が完全に消えた。


「早く支度をしろ」


ヴァンディル卿はその言葉をティッタに残すと、イズを部屋に引っ張って扉を閉めて仕舞った。

イズは扉が閉まる直前、呆然としているティッタの顔を見たのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] し、心臓に悪かった… 良かったー! イズがいつものように「イイヨ!」って言うかと思ってました。 旦那様もまあ良いか〜で終わるのかと。漢で良かった! スノトーラも報われましたね。良かった良…
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