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「ふふっ」


イズはまだ薄暗く夜の匂いの漂う部屋の中で笑みを溢した。

隣でぐっすりと眠っているヴァンディル卿の横顔を眺めていた。

彼は深い彫りの顔だが、目元の影はそれによるものではない。


ーークマまでつくって…


久しぶりに会うと必ずあるその印の意味を理解したイズは余計に口元を緩ませる。

お腹の底がむず痒くてイズは大きな枕に顔を埋めた。

だが、じっとしてい続ける事もできなくてチラリとヴァンディル卿を枕の隙間から覗く。


ーーやっぱりかっこいい


イズは自分には勿体ない人物を目の前にして熱っぽいため息を吐く。

結局あの後、今までの事をひたすら話しただけだった。

イズが屋敷でどう過ごしたのか、ヴァンディル卿がどうやって国王と話をつけたのかなど色々と話した。


「父上が王都で暮らしているのだ。王家はヴァンディル家を従えていると印象付けるのは十分だ。わざわざ私が王都に住まいを置く理由はない」

「でも、陛下は旦那様のお力添えを望んでいるのでしょ?いいのですか?」

「前国王派の勢力を気にしての事だ。今はーー」


ヴァンディル卿が振り向くとイズはうとうとし始めていた。


「もう寝よう」


ヴァンディル卿はイズをゆっくりと横にして、布団を掛けた。


「…まだ…聞きたいのに…」


今日はイズにしてはなかなか活動的な1日だった。

疲れが来てもおかしくはない。


ーー折角、会えたから…


イズはこのまま寝てしまうのは勿体ないように思った。

だが、眠気は待ってくれない。

睡魔から抵抗しようとするイズの目に大きなヴァンディル卿の手が被さる。


「明日もある」


低く優しい音色をした声と共に、イズの腹部を優しく叩く温もりがあった。


ーー子どもじゃないのに


まるでヴァンディル卿にあやされているようで少しだけ不服に思う。

自分とヴァンディル卿が釣り合っているなどと思った事は一度もない。

足りないものばかりで見上げ続けるのも疲れるくらいだ。

だが、イズはこのあたたかさに埋もれたくなる。


「…だって…今…聞き……たい」


現に、睡魔と彼のぬくもりにもう落ちる寸前だ。


「…寝よう」


ヴァンディル卿はもう一度優しい声で言った。

そしてイズの額に唇を落とす。

軽い音を立てながら彼の唇は離れる。

イズは完全に閉じてしまう前に目の前の男の表情を確認する。


ーーやっぱり……好きだな……


自分にだけ向けられた穏やかな微笑みを見てイズは満たされた気分になる。

彼も眠気を誘われたようで、軽くあくびをした。

その仕草が強面の彼には些か似合わない。

だが、どことなく愛嬌も感じられる。


「おやすみなさい」


イズはそれを眺めながら呟く。


「おやすみ…」


イズは眠る中で優しく呟かれた言葉を聞いた。

彼女が安心して眠るには十分な幸せだった。


ーー先に寝ちゃったけど、旦那様の寝顔が見れてラッキーだったわ


イズは触れるか触れないかの距離でヴァンディル卿の鼻に指をちょんとした。


「ん…」


少し何かを感じたようでヴァンディル卿は顔を一瞬しかめたが、すぐに柔らかい笑みに戻る。


「ふふっ」


それさえも愛おしく感じるイズは笑いを堪える方が大変だった。


ーーあーあ、旦那様が悪いからね


イズはそんなヴァンディル卿を見ながら思った。


ーー私も旦那様を手放したくないって思っちゃたからね


イズの中で新たなものが確立し始めた。

焦る気持ちはない。

ただ信じていたものをより深く思うようになっただけだ。

そう思えるのさえも幸せに感じる。


コンコン


イズが幸せに浸っていると控えめに扉を叩く音が聞こえた。


ーーこんな時間に誰かしら?


ヴァンディル卿はイズよりも早起きだが、まだ起きる時間には早すぎる。

それにかなり疲れが溜まっていた様で眠りは深そうだ。


ーーオセルさん?…ではないよね


イズはそう思いながらベッドから降りて、扉へ向かう。

許可が来ないからか、扉はまた鳴る。

イズはヴァンディル卿を起こさない様にゆっくりと扉を開けた。


「…はい」


イズが扉を開けた先にはーー


「ティッタ…」


イズも驚いていたが、ティッタもヴァンディル卿の部屋から出てきたイズを驚いた顔で見つめていた。


「こ、ここはテュールの部屋…です」


イズは不意に言われた言葉が分からず首を傾げた。


「そうよね?」


ーーだからなんだろう…

イズが不思議に思っているとティッタが言葉を続けようと口を開く。


「だからっーー」

「どうした?」


ヴァンディル卿がいつの間にかイズの背後にいた。


「旦那様っ!」

「っ!」


イズもティッタも驚くが、何よりティッタは前をはだけさせているヴァンディル卿に目を見開く。

生娘らしく、顔を真っ赤にして彼から背ける。

寝起きのままの姿では流石に直視するのはイズでも難しい。

ヴァンディル卿もティッタの存在に気づき眉を潜める。


「…何の様だ」

「テュール…あのーー」

「呼び方」


ヴァンディル卿は顔を顰めて言った。


「いい加減直せ」

「…幼馴染みである事も許されないの?」

「話が違う。君の選んだ道だ。筋は通せ」

「…」


ティッタは顔を歪める。

美しい顔が台無しだ。


「…私、考えたの」


どうやら言葉遣いは変える気はないようだ。

そのままを話し始める。

ーー意外と根性ある

イズはそう思いながら、これを根性というべきなのかと頭を悩ます。


「確かに、テュールの事は好き……ずっと思ってきたの」


ティッタが先に石を投じて来たのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] スノちゃんも報われて イズと旦那様の朝の風景にほのぼのしてたのにーーーー! テイッタ!!やっぱりキタ!なに、なにを言うつもりなの? うわー続きが気になります… しーしびさん、いつも悶…
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