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「…」

「…」


あたたかい雰囲気に包まれている屋敷の一つの部屋で緊張した空気が流れていた。

様々な事があった一日だったが、夜を迎えるとすっかり落ち着きを取り戻し、いつも通りの静かな夜だった。

そんな夜、1ヶ月ぶりの再会を果たした夫婦はベットの上で座って向き合っていた。


「…」

「…」


甘い空気とは程遠い重い沈黙が続く。


「旦那様」

「…なんだ」


やっとイズが口を開いたが、その声色から感情は読み取れない。

ヴァンディル卿はゆっくりと返事をした。


「子どもは4年待ってくれとはこれだったのですか?」


イズはヴァンディル卿に問いかける。

この声もやはり感情が見えない。

イズにしては珍しい。


「…」


ヴァンディル卿はダンマリをきめている。

それが肯定だとイズには分かっていた。

ーー旦那様なりに何か考えていると思っていたけど、いたけどね!

イズはそう思いながら言葉を飲み込む。


「なんでそれを先に言って下さらなかったのですか?」

「…」

「まさか、この後に及んで恥ずかしいとは言いませんよね?」


びくついたヴァンディル卿の表情は「何故分かったんだ!」と言っていた。

完全に彼の思考はイズにお見通しだった。

イズはむすっとした表情を見せる。


「それを先に言ってくれれば…こんな迷惑な事態にはならなかったのに…」


イズはため息を吐いた。

まるでヴァンディル卿がダメな子の様だ。


「理由は…それだけではない」


ヴァンディル卿は顔を顰めて口を開く。


「…2人の生活をまだ満喫していない」

「……」

「まだ君を取られたくない」


ヴァンディル卿は眉を更にひそませる。

頬はほのかに赤く、耳は湯気が出そうなほど真っ赤だった。

少し不安げな美しい瞳がイズの方へ向けられる。


「ん゛!」


その表情を見た途端、イズはヴァンディル卿から顔を逸らし、何かを堪えるように口元へ手を置いて唸った。

その間もヴァンディル卿はイズを見つめ続ける。

なんとか立ち直りかけたイズは不自然にならないように口を開く。


「旦那様…」


イズは息を吐きながら声を出すが、耐えきれず俯いた。

ーーあぁ゛!旦那様、可愛すぎ!!

きっとこの世界に『萌え』と言う言葉があればイズはその言葉を叫んでいたかもしれない。

そこまで文化が進んでいないこの国では彼女の沸き起こってくる感情を適切に表してくれる言葉は見つからない。

悶えそうなヴァンディル卿の魅力にイズは耐え抜くしかないのだ。

だが、これを忘れてはいけない。

ヴァンディル卿は美形ではあっても、強面の大男だ。

男のロマンには溢れていても、愛を語るには些か迫力がありすぎる。

ーーいやいや、だからと言ってだめよ

イズフィルターがかかっているが、イズは顔を引き締め直す。


「旦那様、今回の事、私たちだけの問題じゃありません。私の家族を不安にさせたのです。私も至らなかった所はありますが、私が大切なものは旦那様にも大切にしてほしいです」


ーーうん。言えた

これが言いたかった。

スノトーラやイズの家族、それにフリーンやリフィ…大切な人は沢山いる。

その人達に幸せにいて欲しいと思う。

勿論、イズはヴァンディル卿にも幸せであって欲しい。

だが、彼は他の人とは違う。

共に歩みたい夫で、一緒に築き上げたい、同じものを共に背負いたい人だ。


「…すまなかった」


ヴァンディル卿はそれがよく分かっている様で大人しく頷く。

やはりあの目は寂しげに揺れる。

ーーあぁ…もう…

そんな顔をされるとイズの気分は揺れる一方だ。

怒っている気持ちと許してしまいたい気持ちが両方押し寄せる。

ーーいやいや

イズがなんとか気持ちを振り切っているとヴァンディル卿は言葉を続けた。


「利己的だった」

「うん」


ーー嬉しいのだけどね

イズはなんとも言えない気持ちだ。


「配慮に欠けていた」

「うん…」


ーー私もね


「…君とは話し合うべきだった」


ヴァンディル卿はじっとイズを見つめて言った。

透き通るようなその目からは誠実さが窺える。

イズはやっと笑顔を溢す。

ーー聞きたい言葉が聞けた。


「私もごめんなさい」


イズは謝った。

責めてばかりの話じゃない。

2人の話なのだ。


「私も旦那様と一緒にいるべきでした」

「…そうか」


旦那様も嬉しそうに笑う。

硬い表情が一気に柔らかさを帯びる。


「…ありがとう」


ーーあぁ…もう…

イズは思う。

この人には敵わない。

この笑顔は狡い。


「それは私のセリフです」


腹立ちの収まったイズも笑顔で言った。


「来てくれてありがとうございます」


イズが笑うと、ヴァンディル卿は顔を真っ赤にして顔を背けた。


「…ん」


イズはその横顔を見ながら好きだなと思った。


「私は信じてましたよ」

「?」


ヴァンディル卿はまだ赤い顔をイズの方に向けた。


「旦那様を信じてましたよ?」

「問い詰めに来たのにか?」

「それは私の家族の為です」


イズは得意げに語る。


「来て正解でした」


イズはヴァンディル卿を見て笑った。

ヴァンディル卿もそれに釣られる。

イズも笑い返す。


「あの像について、きちんと聞かないといけないので」


笑顔のイズは次のお題をはじめた。

久しぶりの夫婦で共にする夜は色気など皆無の状態でただ長くなるのだった。

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