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「どういう事だ…」

「あの旦那様が…自分の子供の為に…?」


使用人達は呆気にとられて呟く。

彼らの知るヴァンディル卿とはかけ離れすぎているのだ。


「……私自身、父の遠征の度に忘れていた様だ」


ヴァンディル卿は渋々言った。

どうやらイズの話は本当の様だと、使用人達は気付き始める。

そしてそれをイズはお見通しだった。


「………1ヶ月でも君に会いたくなるのだ。それがーー…」


何かを想像したヴァンディル卿は目頭を押さえ込んだ。

険しい顔つきだが、何かに苦悩しているのは分かる。


「…考えたくもない」


苦悩を耐え抜いて顔をあげたヴァンディル卿の目は気持ちばかり赤い。

だが、イズは容赦なかった。


「そんなわがままでこの方達を解雇しちゃダメでしょ!男らしくもない!」

「!」


イズの言葉にヴァンディル卿は衝撃を受けた様な表情を見せる。

ヴァンディル卿は表情を変えないと思っていた使用人達はコロコロと様々な感情を見せる。

それを動かしているのはイズだった。


「旦那様、甘いだけではダメです!私もいけませんでしたが、旦那様もダメですよ!この結果、繰り返したいのですか?」


イズが言うと、ヴァンディル卿は無言でシュンとなる。

あれだけ大きく見えていたはずの彼の背中が今では支えてあげなくてばと思えてくるほどだ。


「旦那様、誰も一人でここにいろだなんて言いません。さっきも言った様に、私も王都に参ります。これからは旦那様と行動を共にします。もちろん遠征は行きませんけどね」


一瞬パッと表情を明るくさせたヴァンディル卿だったが、最後の一言でまたシュンとする。


「旦那様、もし子供が自分の為に父が期待されている任務ができなった事を知ったらどう思います?旦那様はお父様が遠征で活躍されたりする姿を見てどうでしたか?」

「…」


イズに言われて、ヴァンディル卿は昔を思い出す。


「嫌だと思いました?」


ヴァンディル卿はイズの問いかけに首を横に振った。


「誇らしかったですよね?」


コクリと頷く。


「私たちの子は貴族として生まれるのです。この子達が誇らしく思える旦那様でいてもらいたいです。なんと言ってもこの国の剣なのです。なのに、この子が育つ国を疎かにするおつもりですか?今までどうりとは言いません。私だって心配ですからね!でも、無理に仕事を放棄しないでください!」


まるで子供を叱る母親の様だ。

イズにしてはまともな話だった。


「私たちの子…」


ヴァンディル卿は嬉しそうに呟く。

一応、イズの話は聞いているがヴァンディル卿は違う言葉に感動している。


「分かった」


だが、それが彼の励みになったのか力強く頷く。

少し寂しそうだった彼はもう元気にみなぎっていた。

生き生きとした表情だった。

使用人達もその力関係を感じながらも、彼の世界がイズで完全に染まっているのだと理解した。


「我々が仕える旦那様と奥様」


彼らがそれに自然と誇りを持てる光景だった。

どこまでも優しく幸せな世界が広がる様な感覚があるのだった。




「ーーーって事があったの」


イズは嬉しそうに語る。


「そうだったのですね…」


ベッドに横になりながら聞いていたスノトーラは何故か気が抜けた様な表情を見せる。

ーー私の心配って…

何か無駄の様にも感じる。

結局スノトーラは魔力の使いすぎだった。

一眠りしてしまえば直ぐに体調は改善されたが、まだ万全ではない。

イズの語る事はにわかに信じ難いが、それでも本当だとスノトーラは感じた。

屋敷の空気感が明らかに違うのだ。

イズが作り出すあの独特の柔らかい空気感がこの屋敷には流れ始めていた。

これがイズの才能だ。


「まぁ…よかったです」


スノトーラはふかふかのクッションに体を埋まりながら長い息を吐く。

最悪の事態にならなかったのならそれでいい。

むしろ最善の状態なのだが、何故か話に締まりがない。

聞いているだけで気が抜けてくるのだ。


「ごめんねスノちゃん」


イズはスノトーラに謝った。


「みんなにも謝ったけど、スノちゃんにも謝らないとね…確かに危機感を持つべきだったね」

「…」


スノトーラは自分に謝る姉を見ながらなんとも言えない顔をする。

イズは苦笑いを浮かべながら語る。


「結局原因は私がしっかりしてないからだったからね。本当にごめんね」

「…いいですよ」


スノトーラはため息を吐いてから言った。


「別に危機感がないのはお姉様のいいところでもあります。まぁ…本能的な感覚もお姉様は持ってますしね…」


そう言った意味ではイズもラドに負けないくらい運がいい。

信頼に足る人間を本能的に分かるのだろう。


「まぁ・・・ヴィナディス様も思っていた人間ではない様ですね」


もっと食ってかかる人間かと思っていたがそうではないようだ。

ティッタにイズが必要以上に接触しないものその勘が働いたのかもしれない。


「…スノちゃん」


イマイチ褒められてはいないが、イズは感無量とでも言わんばかりに口元に手を置いた。


「スノちゃんっ!本当にありがとう!」

「ちょっと!お姉様!」


イズはスノトーラに抱きついた。

まだ病み上がりのスノトーラにはその重みが少し辛い。


「だって私の為に力使ってくれて…」


イズは目元を潤ませながら言った。

その様子にスノトーラはうっとなる。

スノトーラはこういう事に弱い。


「…お姉様が信じると言ったからですよ」


スノトーラは観念した様に言った。

表情は納得してないのかむっつりとしている。


「お姉様がヴァンディル卿を信じると、大丈夫と言ったからです。私はそれが本当だと仮定して行動したまでです」


スノトーラは現状を伝える為のものだったが、ヴァンディル卿が引き返してくれていて幸運だった。

一気に片付いてしまった。

いやイズが片付けてしまった。


「…信じてよかったです」


スノトーラは付け加えて言った。

イズはその反応を見てより一層嬉しそうに笑う。

彼女の笑顔は太陽さえも惹きつける様だった。


「ありがとう!信じてくれて!」


イズの笑顔はそれで十分だと教えてくれる。

満たされるのだ。

ひたすら姉妹の絆を感じたイズはスノトーラの部屋を出る瞬間にいきなり真顔になった。


「旦那様にもきちんと謝ってもらうからね。ちょっともういっちょ夫婦の話し合いしてくるね」


そう言い残し、イズはスノトーラの部屋を出て行った。


「…面倒事にはなりません様に」


スノトーラはなんとなく嫌な予感がして、そう祈るのだった。


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