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「テュール……?」


ティッタは呆然としてヴァンディル卿に問いかける。


「私の妻は彼女だけだ」

「どうして…全部嘘なの?あの魔法石もテュールのだけど、無理やり取られたんだよね!だって私にはこれをくれて…ね?」

「…」


ヴァンディル卿は何も言わずただティッタを見つめていた。

その目はあまりにも真っ直ぐで、どこまでも感情がなかった。


「ねぇ…テュール?」


それが酷く恐ろしい様でティッタは固まる。


「失礼ですが、貴方の縁談は旦那様は断った事などございません」


十分な説明をしないヴァンディル卿を見かねたオセルが説明をする。


「最初はまだ時期的に早いと大奥様が断られていましたが、ここ2年の貴方の縁談状は直接貴方の手元に渡る様に手配しているはずです。…どうやら、誰かが横槍を入れた様ですね。下手したら、ヴァンディルの名に傷がつくとは思わないのでしょうか?」


オセルはローゲに冷たい目を向ける。


「っ…」


ローゲは真っ青な顔で俯く。


「奥様がここにいらっしゃらなかったのも必要がなかったからです。それに貴方の髪飾りも奥様が選んで私が手配したものです。…貴方が勘違いするように情報操作がされていたのは分かります…私もそこまで管理できなかったのは失態でした。ですが、全て嘘です。今貴方は、ここの使用人に過ぎないない事を忘れないでいただきたい」


淡々とオセルは述べる。


「……この屋敷を畳むのも?」

「はい。報告する時期はもう少し後の予定でしたが、料理長達が言ってくれた様に本当のことです。旦那様はこの3年間王都での仕事を終わらせ、領地での仕事に専念される為準備されてきました。この倉庫部屋を提供していたのは先代の頃からでしたよね?旦那様はその名残で許可されていただけです」


オセルの言葉にティッタが顔を俯かせる。


「使用人の数が減ったのも休暇を機に他の職場への紹介をしていたからです。決して奥様の浪費ではございません。寧ろ奥様用の予算が有り余って、『他の予算に充てて?』だなんて…しかも突き返したら丸ごとどこかの支援活動に寄付しちゃって……」


オセルは事実を述べるだけのはずなのに次第に遠い目をし始める。

どうやら彼もイズという人間を身をもって経験した様だ。


「本当なの…、私、全部違うの……?」


ティッタは顔を悲しそうに歪める。

そんなティッタにヴァンディル卿が言った。


「私は其方を……」


何かを言いかけてヴァンディル卿は考える素振りを見せた。

強面の顔が何だっけと言いたげな表情を見せる。


「旦那様?」


何を言いたいのだろうとイズはヴァンディル卿の顔を覗き込む。

黙り込んだヴァンディル卿は首を傾げる。


「………」


そして少し考えが纏まったのか、ヴァンディル卿は少し表情を歪ませながらゆっくりと口を開く。


「妹……?……ぐらいにしか思った事はない」


それは決め台詞になるものだったが、「?」が入ってしまっている。

何とも締めくくりが悪い。


「…旦那様、何故疑問形なのですか?」


オセルが何故ここで決めないと言わんばかりの表情でヴァンディル卿に訴える。


「実際、私には妹がいたことがない。本当に同等の扱いなのか判断がつかない」

「……そこまでクソ真面目に答える必要などありません。伝わればいいのです。旦那様が彼女に恋愛の『れ』の字もないと言ってしまえば全て収まるのです。ニュアンスですよ。ニュ・ア・ン・ス!」

「…」


ヴァンディル卿はオセルを見ながらどうも納得のいっていない表情を浮かべる。


「〜〜〜っでは何と?」


負けたオセルが頭を抱えて問いかける。


「両親が愛情を注ぎ、私自身もそれなりに情のあった人間」

「それを『妹の様だ』というのです!『様だ』ですからね。比喩!比喩ですから!」

「なるほど。だが、比喩は自分の感覚の中で一番近い状態で表現するものだ。まず、『妹』の感覚を知らない」

「いや、だから!一般的にで考えてくださいよ!」


オセルは泣きそうになりながら訴える。

この3年間の疲れが彼から溢れ出していた。

頭の固い彼は心底納得しないと受け入れてくれないのだ。


「ちょっと待ってください」


納得し、もう一度言い直そうとしたヴァンディル卿を止めたのはイズだった。


「旦那様は以前に、私には躊躇いもなく『妹みたい』って言いましたよね?」


イズはグイッとヴァンディル卿に顔を寄せて言った。


「ティッタの髪飾りを選ぶ時です」


その目は疑いの眼差しだった。

ヴァンディル卿は何故そんな目をされているのか理解できずゆっくりと頷く。


「…あれは、オセルからの指示だ」

「ヘぇ〜、指示があったら思ってなくても言えちゃうのですか?」

「それが一番妥当だとオセルがーー」

「でも、旦那様は妥当だと思ってませんでしたよね?あれ?私と話す時に何故オセルさんの指示がいるのですか?もしかして私と腹を割って話したくないと?」


ヴァンディル卿は一瞬ウッとなったが眉を顰めて言葉を続ける。


「……そうではない」

「さっきの間は何ですか?」


イズは唇を尖らせて尋ねるが、ヴァンディル卿は些か気まずそうにそれから目を逸らした。

その仕草にイズはむすっとして鼻の穴を膨らませた。


「よ〜〜〜〜っく、分かりました!」


イズは拗ねた様にヴァンディル卿からプイっと顔を背ける。


「待て、それは其方がーー」

「皆さんがいる前ではっきりさせましょうね。はっきりしないからこんな事になるのです」


ヴァンディル卿はまずいと思ったのかどうか弁解を始めようとすると、イズはそれを遮って言った。

自分の胸元にあるヴァンディル卿の魔石を外し、それをギュッと握ってヴァンディル卿に突き出す。


「旦那様、私と離縁なさりますか?」


満面の笑みでイズは言ってのけたのだった。

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