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「わっ!私はっ知らないわっ!なんの事!?それは貴方達が勝手にやった事でしょ!?私に媚を売ろうとっ!!」


ヴィナディスは叫び声を上げて、ローゲを指差した。


「なっ!?」


ローゲはあっさりと切り捨てられた。


「貴方が私に言ったんだ!ヴァンディル伯爵家のあるべき姿を取り戻そうと貴方が私に言ったんだ!」

「ちょっ!何を言ってるのよ!私知らないわ!」

「それに私を執事にも家令にもしてくれるって!私がこの屋敷を担うべき人材だって!だから協力しろって貴方が言った!」

「だからなんだって言うのよ!本当でしょ!?」


わちゃわちゃと2人が言い争いを始める。

それを全員に聞かれているだなんて忘れてしまっている。


「あんな無力な田舎娘がヴァンディルの名を語るのよ!?私の方が相応しいに決まっているわっ!!」


言い切った後にヴィナディスはハッとする。

どうやら煽られやすいタイプの様だ。

あっさりと告白してしまった。

慌てて周囲を見渡す。

ジトっとした目がヴィナディスに集中する。

やってしまったと、どう取り繕うか思考が纏まらないうちにヴィナディスはばかりを動かす。


「何よっ!本当の事でしょ!その目をやめなさいよ!私の方がヴァンディル夫人にふさわしいわっ!ローゲだってそう思ってたじゃない!だからっ…」


どんどん温度ばかりの下がっていく現状にヴィナディスの心は限界を迎えた。


「あんた達なんか全員クビよ!クビなのよ!全員この屋敷から出て行きなさい!」


思考回路がパンクしてしまっている様でそんな言葉を口走る。


「ヴィナディスお姉様!お座りです!」


イズが倉庫部屋から引っ張ってきた椅子をトンとヴィナディスの膝に当てて、無理やり座らせた。

先程まで怒りと焦りのままに言葉を発していたヴィナディスはいきなりの事に驚きぽかんとする。

イズはヴィナディスの目の前に来ると怒ってますよと言わんばかりに腰に手を当てる。


「落ち着きましたか?」


イズはヴィナディスに問いかける。

ヴィナディスはぽかんとしていた表情を止めると、イズをキッと睨んだ。


「何よっ!謝れとでも!?あんたなんかに謝らないわよ!!」

「貴方が謝るべきなのは私ではありません」


イズはゆっくりと言った。


「それも分かりませんか?」


イズは哀れむ様な目をヴィナディスに向けた。

水色の瞳は寂しげに揺れる。


「よく、この状況を見てください」

「…」


イズに言われて、ヴィナディスは辺りを見回す。

泣き崩れていたリフィやティッタ、買収された下女、敵意に満ちた目をする使用人や悔しそうに顔を歪める者、呆然とする者もいた。

そこに満ちていたのは負の感情ばかりだ。


「ヴィナディスお姉様…いえ、もうお姉様とは呼びません。ヴィナディス様、貴方のせいでこれだけの人が傷ついたのです」

「っ…この者達が悲しもうともわたくしには関係ない!こいつらの代わりなんていくらでもいるもの!わたくしが気にすることではないわっ!」

「それを本気で思ってますか?」


イズは哀れみの目を向けながら尋ねる。


「当たり前じゃないっ!」


ヴィナディスは座ったまま叫ぶ。


「っ!」


そして顔を上げイズの顔を見るとヴィナディスは息を呑んだ。

ーーなんでそんな目で見るのよ…

ヴィナディスはギュッと胸元を掴んだ。

ーーそれじゃ…まるで……

イズのその目は、ただ憐憫の情を含んでいるのみだった。

そこには同情も少し含まれている様で、ヴィナディスはその目に見つめられるだけで自分が哀れで不憫でーーどうしようもない惨めさがこみ上げる。

ヴィナディスの唇は白く色を無くし、震え始める。


「ヴィナディス様は本当にご理解できないのですね」


イズは残念そうに言う。

その目から次第に同情の色が薄れていく。

それが酷く恐ろしくヴィナディスには感じられた。

ーー謝らないと。はやく謝らないと…

そうしないといけないと気が焦り始めた。


「わっ…わたくしは……」


ここままではいけないとヴィナディスは感じた。

だが、謝ろうにも喉が閉まってうまく声が出ない。

この先に向かったら自分は終わりなのではという恐怖があった。

この惨めさに自分が喰われてしまう。


「私は意味のない言葉は嫌いです」


イズは静かに言った。

その顔に穏やかさは全くない。


「わ…わるかっーー」

「感情のない言葉なんて欲しくありません。感情があるから意味のある言葉なのです。いい言葉も嫌な言葉もぶつけ合って、その先があるから意味があります」


イズの声はヴィナディスの根本に話しかける様だった。

その人の中に何があるのか見定めようとしているものだった。


「ヴィナディス様の言葉にはそれがありますか?」


ヴィナディスは頷けなかった。

ただ頷けばいいものではないと感じる。

だが、このままではダメだなんとかしないとーーと焦る気持ちによってヴィナディスの口は再び動き始めた。


「わっ、わたくしはっ…わたくしの為だけじゃないわ!わたくしがっ…ここに嫁入りすればっ、ローゲだって……そうよ……。きっと…全てが、皆の為になるからっ…そうよっ!あるべき形になるだけっで…」


つっかえながらヴィナディスは言葉を続ける。

だがその声に迫力はない。

怖さで足は震えて椅子から立つことが出来なかった。


「これはわたくしの為だけじゃない!全ての人の為でもあるのよっ!」


ヴィナディスは最後にそう叫んだ。

どこまでも自分勝手な言い分だった。


「それは知ってたのに……?」


イズは驚いた顔をした。

だが、その表情はすぐに読めない表情に変わる。


「でも、完全にダメです。ヴィナディス様はやり方が間違い過ぎです」


イズははっきりと言い切った。

その目の温度から同情は全く無くなっていた。


「あっ……あぁ……」


ヴィナディスは何か手放してはいけない何かを手放した様で色のない顔でイズの足元を見つめていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] たんに自分が妻に成りたかっただけの嫉妬物語だったのか(汗) 家や親にバレたら終わりだわな……
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