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ローゲは顔を真っ青にして震えていた。


「どういう事だ!?何故この屋敷を畳む!聞いてない!私は聞かされてないぞ!!」

「ローゲ?どうしたの?」


ヴィナディスは状況がわかっていない様で、ローゲの荒れる様子に顔を顰める。


「は?知るわけないだろ?俺たちは内密でって執事から聞いただけだ。だろ?」


料理長はじっちゃんに声をかける。


「そうじゃ。2年前、この屋敷専属の執事が辞めた時、屋敷を畳むから後任を付けない事を、あの若造…オセルだったか?あいつに聞かされたんだ」

「は?わ、私は…?」

「知らぬが、伝える必要はないと言われたぞ?」

「そ、そんな……」


どうやらローゲには初耳だった様だ。

頭が追いつかない様で混乱がよく顔に現れていた。

リフィに聞いて少し引っかかっていたイズにとっては納得できるものだ。

ーーずっとオセルが両方を管理するのは無理があるもんね

呑気なイズでもそれぐらいは分かる。


「ちょ、ちょっと待ってください!あの執事は年齢のせいでの退職じゃなくて…事実上首切りだってのは?」


一人の使用人が声を荒げた。


「そ、そうよ。奥様の無駄遣いで上級使用人を雇う余裕が無くなったって聞いたもの!」

「え!?私!?」


いきなり飛び込んできた自分の悪口にイズもカウンターを喰らう。


「いやいや。それはありえないって!」


イズは勢いよく訂正する。


「この国随一のお金持ちなヴァンディル伯爵家が使用人の賃金で困る様な財政じゃないよ?私の実家みたいな貧乏貴族じゃあるまいし。ね、ヴィナディスお姉様?」

「え?…え、えぇ」


ヴィナディスは状況を把握しない内にイズに問いかけられ反射的に頷く。

イズも恥ずかしげもなく自分の実家を貧乏だと断言してしまっている。

上級ではない使用人達が貴族の財政状況など知る由もなく、そうなのかと頭を捻らせる。


「おいおい、お前ら、何言ってんだ?あの人が辞めたのは持病の腰痛が痛くなったからだろ?」


料理長が使用人達の記憶を蘇らせる様に説明を付け加える。

だが、誰もそれを思い出せない。

それでも話をまとめれば使用人が聞かされていたその話は嘘だったと言う事になる。


「なんじゃ?嘘の噂ばかりに振り回されよって…」


じっちゃんはため息をついた。

確かにイズの『悪女』説、ティッタの『想い人』説、さらには使用人の解雇説…

噂と言っても悪質過ぎる。


「じゃ、じゃぁ、あれは!?他にも何人か辞めたのは?」


一人が少しでも自分達の疑問を晴らそうと質問を重ねる。


「そういえば、お前の弟子の何人かがどこかに行ったの」

「あいつは只の腰抜けだったんだよ。もう一人は、他国の貴族に気に入られちまってよ。速攻お持ち帰りされたんだよ!」


料理長はふてくされながら言った。

その言葉で使用人達の顔色が変わった。


「な、なら、あの結婚や妊娠で辞めていった子達は?」

「そうよ。休みを取ろうとしたら、ダメってあっさりクビだって…だから人が辞めても人員を増やさないって…」

「は?何人か招待状を持って辞めて行った奴は知ってるが、クビを切られたってのは知らないぞ?お前らの受け入れ先も確保しているらしいから近日中に報告するとオセルさんが言っていたな」

「わしもじゃな。最初から見ず知らずの場所で働くよりはとリフィを旦那様に頼んで一時的に雇っていただいたが」

「「「「…」」」」


何かがおかしい。

使用人達の中で気づき始めていた。


「なんなの!?そんなのどうでもいいでしょ!?」


ヴィナディスは話の逸れている彼らに声をかけるが、誰もそれを聞いていない。


「ま、待てよ…。この話っていつから出来たんだ?」

「この話があったから私たちも奥様の散財が本当なんだって思ってたし…」

「…3年前?」

「でもはっきり聞く様になったのはあの執事さんが辞めてからだから2年前?」

「普通に辞めたと思ったらそんな話聞いた…かな?」

「俺も本人から聞いてないぞ?」

「私も」


ーーおっと?

イズも変わり始めるその空気に気付く。

結論の見えない疑問がまた飛びかっていた。

只、誰もがはっきりとした答えを探そうとしていた。


「みんなは誰から聞いたの?」


イズが純粋な疑問を彼らに問いかける。

ーー誰から…

それぞれが辿り始めた。


「私、あんたから聞いた」

「俺はあいつから…」


噂の出所探しを始める。


「え!?でも俺はーー」

「待って、だって、この話をする時っていつも教えてくれたのってさ…」


一人の下女の一声でそれぞれが一つの答えに辿り着く。


「え…」

「それは…」

「確か…」

「「「「……」」」」


皆の視線が一点に集まる。


「ちょっ!ちょっと何よ!」


全員の視線はヴィナディスの後ろにいたローゲに向かう。

ローゲは自分に視線が向かっていると気づくと、体を硬直させ汗をだらだらと流す。

使用人達は疑惑の目をローゲに向け続ける。


「なっ!なんなのだ!わ、私を疑うってのか!?」


ローゲが開き切った目で叫ぶがそれは誰の耳にも届かない。

流石のヴィナディスも何かを感じた様でハッとする。


「なによ!別に全部嘘でもいいでしょ!?兎に角!この女が盗みを働いたのよ!」

「あの!!」


自分の思う方へ話を戻そうとしたヴィナディスは全てを蹴散らかして目的だけをこなそうとした。

だが、それを遮ったのは先程、イズの部屋から鍵が出てきたと証言した下女だ。


「ちょっと!貴方!何をっーー」

「わ、私、嘘をつきました…、私、ローゲさんから言う事を聞けば、もっと待遇が良くなると言われて……実家の方も援助して貰えるって…だから、ヴィナディス様の望む様にティッタが毒を盛ったとか、奥様の部屋から鍵を見つけたとか言えって…これはそのお礼の一つだって……」


彼女はポツリポツリと言いながら掌を開けて指輪を見せる。


「それはっ!お父様がお母様にあげた婚約指輪!!」


ティッタが声を上げる。

彼女が探してたのはこれの様だ。

ーー不審者じゃなかったのね…

イズはホッとしながらも先程の下女の証言を思い出す。

ーーあれ?ヴィナディスお姉様が言えって?

流石のイズでもここまでくれば誰が怪しいのかはっきりしていた。

ヴィナディスに目を向けると、彼女もローゲと同じ様に嫌な汗をだらだらと流し始めていた。

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