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ーーヴィナディスお姉様…大丈夫かしら?

ヴィナディスを見つめながら、イズは心配になった。

見てはいけないものを見てしまった気分で茫然としていたイズは助けを求めようとスノトーラに目を向ける。

スノトーラは先程よりも顔色も悪く、更に緊張したように体が強張っている様だ。

だが、ヴィナディスを睨む様に見つめていた。

ーー…

その姿を見たイズは深呼吸する。

ーースノちゃんにあんな顔させちゃダメだ


「とにかくはっきりさせる為にもすぐに警備兵に報告をしなきゃ。旦那様にもしましょう。手紙を書くから、用意をーーー」


イズにしては珍しくテキパキと指示を始める。

こういうのは早く動くに越したことはないとイズは分かっている。


「だからあなたでしょ!?わざわざ報告しなくてもいいのよ!!」


ヴィナディスは頭に響く声を出しながらイズの動きを妨げる。

もう美しい妖艶な容姿は意味がないほど荒れている。


「ですから、奥様はそのような方ではありませんっ!」


過呼吸になりそうな程息を荒げてリフィはイズを守ろうとする。

まだ幼い彼女がこれだけ慕ってくれている事は素直に嬉しい。

ーーこの状況はダメ

リフィを見て感じた波が大きくなる。


「でも、貴方ってティッタとここで争っていたのでしょ?きつい物言いをしたって聞いたけど?」

「それは劇でっーー」

「あなたいちいち生意気なのよ!」


ヴィナディスが叫んだ。


「あんたはクビよ!邪魔なの!さっさと出て行って!」


邪魔の入る現場に苛立ちが抑えられず彼女は叫んだ。

リフィはその言葉に驚き、周りもざわつき始める。

ヴィナディスは一瞬やってしまったかと慌てたが、直ぐに強気になる。


「ヴァンディル卿の許可もなくあの部屋に入って荒らすような人が、このまま伯爵夫人としていられるとでも?大切な幼馴染みのティッタを悲しませるような卑劣な人間にはこの家のどこにも居場所なんてないわよ?」


イズだけでなく周りの恐怖を煽る様な言い方だった。

リフィの動揺で幾分落ち着いた様で、粘っこい声を出し始める。


「そんな田舎の無力な貴族よりもヴァング公爵家のこの私の立場の方が上なのはよく分かっているのでしょ?」


周りをねっとりと眺めた後、ヴィナディスはイズを見据えて嘲笑う。

ざわりとイズの中にまた波が寄せる。


「あなた達も身の振り方を考えなさい。こんな犯罪者に加担するなら、この国で生活するのは難しいかもね。この子みたいにね。ほらさっさと出て行きなさいよ!!」

「ヴィ、ヴィナディス様……?」


先程まで哀しみに浸っていたティッタもヴィナディスの荒れように驚きを隠せない。

彼女にとってはイズの行動には怒っていても、リフィへは同僚の同情があるのかもしれない。


「リフィは勘違いしているだけです。そこまでしなくても…」

「リフィはここを辞めませんよ」


リフィを庇おうとしたティッタを遮ってイズがあの穏やかな声で言った。


「私があなたの言うとおり罪人だろうと、今はまだ旦那様の妻です」


イズはいつもよりもっとゆっくりとしっかりした声で言った。

表情は微笑んでいる様ないない様なよく分からない。


「なので、リフィがここで働くかどうかの権限は私にあります」

「何?まだここに居座るつもり?」


ヴィナディスはイズを責め立てる様に言った。


「本当に図々しい方ね。流石、身分も弁えずに楯突く使用人の雇い主ね!ヴァンディス卿はこんな奥様がいてさぞ悲しいでしょうねぇ〜」

「リフィが叫んだのはごめんなさい」


イズはあっさりと頭を下げた。


「おっ、奥様!?」


リフィはそれに慌てるが、それにイズは構うことはなかった。


「あら、謝ることは知っているのね?」


ヴィナディスは頭を下げるイズを見下げて、ぷっくりとした赤い唇で美しい円弧を描く。

満足げなヴィナディスに対しもう一度顔をあげると、あの透き通った真っ直ぐな水色の瞳を向ける。


「でも、やっぱりリフィをどうするかは私が決めることですよ。それに旦那様が恥ずかしいかどうかは気を遣って頂かなくても、私から確認するので大丈夫です」


はっきりと言った。

それはあたかも当然のことを普通に言っているだけだった。

聞いただけではその中に怒りは感じられないが、イズの心の中の波は収まっていない。

イズの言葉にヴィナディスはあからさまに顔色を変えた。


「は?貴方、立場を分かってないわね!貴方はわたくしの言ったことを断る権限なんてないのよ?『私の判断で決定します』だなんて、そんなので満足するとでも思っているの!?」


感情が高まりすぎたのかヴィナディスは持っていた扇子を地面に叩きつけた。

イズはそれに全く動じない。

そして困ったなとでも言いたげに首をこてんと傾げさせる。


「どうすれば満足されますか?昨日からヴィナディスお姉様の満足することを懸命に考えていますが、全く思いつかなくて…」


そう話すイズはいつもの呑気な調子に戻っていた。


「は?」


ヴィナディスは顔を歪めたが、何かを思いついた様で今までよりも嬉しそうな笑顔を見せた。

先程の癇癪が嘘の様だ。


「そうね…なら、貴方が、ここを出ていけば?」

「私が?」

「えぇ、この子を見逃してあげるから出て行きなさいよ」


ヴィナディスは挑発的な表情で言った。


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