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イズは衝撃で驚く。
ーーえ?なんで?そんな事してないし…
だが、イズの脳は混乱する。
こんな事態に陥ることは初めてだ。
ーーてか、あの部屋って…
何故荒らされてそこまでティッタが取り乱しているのかイズには理解できなかった。
それが彼女の責任感の強さなのか首を傾げる。
「返してっ!父の遺品をっ…返してください!」
悲痛の叫びでティッタはイズに訴える。
だが、イズはその発言に全く心当たりがない。
「遺品?」
「どこに持って行かれたのですか!?」
ティッタはイズを掴んで叫んだ。
細いティッタには意外と力がある様にイズはティッタの叫びと共に揺さぶられる。
「?」
揺さぶられながら、イズは訳が分からず顔をキョトンとさせる。
ーーえぇ???全然理解できないのに??
誰も何も詳しく話してくれない現場にイズは不思議の国に迷い込んだようだ。
「おやめなさい!」
スノトーラは無理やりティッタをイズから引き離す。
そろそろ首が限界に近づいていたイズにはありがたかったが、ティッタはまさしくヒロインの様に哀しみの目を真っ赤にしていた。
「あれは父と母の思い出の品なのにっ!父が描いた絵をめちゃくちゃにするだけじゃ満足できないのですか!?」
ティッタは哀しみの全てを曝け出す。
「もう私にはあれしかないのです……お願いです…返して……」
ティッタはその場に崩れ落ちて訴え続ける。
これでは完全にイズが悪者だ。
「あらあら?父親の形見を無くして可哀想に…」
ヴィナディスがわざとらしい声を出しながら言った。
「あの部屋は、わざわざヴァンディル卿がティッタが家族の思い出をとっておける様にって貸していた部屋なのにねぇ〜…あぁ、可哀想に…嫉妬でそれをめちゃくちゃにするだなんて…」
その話を聞いて動いたのはスノトーラだった。
「失礼します」
荒らされたと言われるヴァンディル卿の倉庫の部屋に向かうと、扉を開けた。
「「!?」」
スノトーラ、そしてその後ろから部屋を除いたイズの顔には驚きが広がり、固まる。
その部屋はまさしく倉庫に相応しい埃の匂いがする。
夕陽に照らされ、その部屋の埃が舞っているのもよく見える。
だが、それよりも完璧に荒らされたその部屋にイズもスノトーラも驚きを隠せない。
いくつかのキャンバスだったと思われるものがバラバラになって床に散りばめられている。
他にも様々なものが壊れた状態で散乱していた。
「これは…」
流石の状態にイズもスノトーラも言葉を失う。
イズは完全に放心状態だった。
窃盗する者でもここまで荒らさないはずだ。
その部屋からは完全にその場を破壊しようとした意思が見て取れる。
「ここに、あなたの父の遺品が?」
スノトーラはいつまでも哀しみに浸っているティッタに尋ねる。
スノトーラの顔色はだんだんと悪くなっていた。
「そうです…私の…父の遺品が…」
そう言われてスノトーラは部屋を見渡す。
よく見れば金目の物はほとんど無い。
イズは驚きながら、床に落ちていたキャンバスの一部を拾い上げる。
ナイフで刻まれた様で、布地は綺麗な断面で破れていた。
ーー…ティッタ?
幼い少女の顔の一部があった。
僅かに見える髪の色と目はティッタトと同じだ。
顔の一部しか無いがその少女の美しさは感じられる。
ーーエワズ・ラド…
端のサインでそれがティッタの父親の作品であることはすぐに理解できる。
「…ラド商会が芸術品にも力を広めようとしているって聞いた事がありますね」
スノトーラが横から覗き込んで言った。
ーーなるほど。本人が美術を嗜んでいたのか…
そんなことをぼんやりと考えていたイズは、現状をゆっくりと整理する。
すると、イズは我に返りすぐに叫んだ。
「大変!すぐに警備兵に連絡しなきゃ!」
「「「「!!」」」」
イズの発言に他の全員が目を丸めた。
「他の部屋は!?大丈夫!?不審者がこの屋敷に入ったのかも!」
イズは使用人達に確認する。
「あ…はい。他の部屋は何もありませんが…?」
反射的に使用人の一人が答えた。
「そう…よかった。だけど、旦那様不在の時を狙われたのかもね。すぐに対処しなくちゃ!また被害が出るかも!ティッタ何を取られたのかは知らないけど、大切な物なのなのよね!すぐに取り戻す様掛け合ってみる!心配しないで、少しだけ宝物とは離ればなれになるだけだから」
イズは泣き崩れていたティッタの手を握って、元気付ける様に言った。
そして「大丈夫よ」と優しい表情を見せる。
ティッタも涙で濡れた目を丸めて固まる。
流れ始めたイズの波を止めたのはヴィナディスだった。
「何を言ってるのよ!これをしたのはあなたでしょ!?」
地団駄を踏みながらヴィナディスは言った。
何故こうもイズとの会話は流れ通りにならないのかと苛立ちを見せる。
「え!?しませんよ!?」
イズは驚きで慄きながら答える。
のほほんとしたイズでも驚くことはあるのだ。
「あなた以外誰がいるの!?」
「え!?不審者かもしれませんよ!?」
「あなたの部屋からこの倉庫の鍵が出てきたのよ!?」
「え!?でも、ヴィナディス様だって私の部屋を使ってましたよね!?」
「わたくしじゃないわよ!」
「えぇ!?私もですよ!?」
「あなたなのよぉおおお!」
なかなかイズを折れさせれない現状にヴィナディスは声を荒げる。
まるで小さな子どもの癇癪の様だった。
「え、ちょっとよく分かりません…」
イズは大の大人の癇癪に少し引き気味に言った。




