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イズとスノトーラが馬車から降り、屋敷に入ると騒がしかった。
何やら揉めている様で、誰もイズ達を迎えに来ない。
ただ、奥の方で騒がしい声が聞こえる。
「どうしたんだろ?」
イズは首を傾げ、スノトーラに尋ねたが返事は返ってこない。
振り向くと、スノトーラの顔は強張っていた。
「急ぎましょう!」
スノトーラがイズを通り越して騒ぎのする方へ向かう。
その焦った様子を不思議に思いながらイズもそれに続く。
少しだけ胸騒ぎがした。
ーー何があるの?
そう思って、足を進めた。
「これが何よりの証拠よ!」
「そんな……」
「やめて下さい!奥様はそんな方ではありません!」
騒いでいる場所にたどり着くと、そこには屋敷にいる人間が多く集まっていた。
その人混みの中で、ヴィナディスとティッタ、リフィの声が聞こえた。
「何事ですかっ!」
真剣な表情のスノトーラが大声をあげる。
ざっと人々の注目がスノトーラ、そしてその後ろからついて来たイズに向けられる。
彼らの顔はどこか緊張と焦りが見える。
「もう帰ったの?」
ヴィナディスはイズの姿を見ると一瞬驚いた顔をしたが、直ぐに元の表情に戻す。
「奥様…」
挑発的なヴィナディスの目の前で泣きじゃくっているリフィがいた。
イズの中で何かが波打つ。
「あらあら、犯罪者のお帰りかしら?」
目を細めてヴィナディスはイズを煽る様に言った。
ーー犯罪者?
イズはその発言の意味は分からないが、早くリフィの元へ行かねばと足を進める。
「リフィ、どうしたの?」
「奥様…」
リフィの元へ行くとリフィは縋るような顔でイズを見つめる。
イズはただ困惑する。
ーー何があったの?
その疑問をスノトーラに訴えようと顔をあげるが、スノトーラは険しい顔でヴィナディスを見ていた。
「どうかしたの?ですって、本当貴方には騙されたわぁ〜」
ヴィナディスがねっとりとした声で言った。
イズは直ぐにヴィナディスを見つめたが、そこにティッタが割って入って来た。
「酷いです!」
ティッタも目に多くの涙を溜めて、必死に訴える。
その悲しげな表情は誰もが守ってあげたくなるような健気さがある。
「私が何をしたって言うのですかっ!何故このような事を…」
ティッタが耐え切れない悲しみに襲われた様で顔を手で覆った。
周りの人たちは複雑な表情を浮かべる者もいれば、どこか冷たい表情をした人がいた。
イズはなんの事か分からず、ぽかんとしていた。
「奥様ではありません!」
今度はリフィが叫んだ。
もうイズには何が何やらだ。
「ごめんなさい。何の事か本当にわからないのですが?」
イズはキョトンとして言った。
そんなイズをヴィナディスは鼻で笑う。
「白々しい…貴方の部屋からこれが見つかったのよ!」
そう言って取り出したのは、鍵だった。
「これが出て来たのよ!しかもあの部屋に行ったら、ひどく荒らされていたわっ!本当に酷い人よね!」
なんの話だかイズには分からない。
「え?お部屋を荒らしているのはヴィナディスお姉様では?何かが割れたと聞いたのですが?」
イズはキョトンとしていた。
確かに他の下女からそんな話を聞いたと思い出す。
この状況でなんの話かまだ分かっていない。
「荒らされたのはわたくしの部屋じゃないわよ!!」
ヴィナディスは顔を真っ赤にして反論する。
「あの倉庫の事よ!!」
ヴィナディスが指を指した先は、リフィにヴァンディル卿の倉庫部屋だと教えてもらった所だ。
「あぁ!さっきの鍵はここのだったのですね!」
理解できたぞとイズはポンと手を打つ。
イズのその様子に、先程まで緊張気味だった周りの雰囲気が緩む。
「そう言ってるでしょ!」
ヴィナディスはキレ気味で言った。
「貴方の部屋の棚からこれが出て来たの!貴方がティッタに嫉妬してやったのでしょ!?」
「え?」
イズには全く心当たりのない『嫉妬』と言う言葉に目を丸める。
ティッタは相変わらず悲しそうな表情で、まるで悲劇のヒロインだ。
「とぼけても無駄よ。証拠がちゃんとあるんだからね!そこの貴方だって、私がこの女の部屋の棚から見つけたのを見たでしょ?」
いきなり指を差されて、一人の下女が体をびくつかせる。
人の視線が集まり緊張しているのか、顔色がよくない。
おどおどと視線を彷徨わせている。
「あっ…そ、その…」
暑くもないこの国で彼女はだらだらと汗を流す。
体も少しばかり震えていたが、ヴィナディスを見ると思いっきり目を瞑って叫んだ。
「み、見ました!」
その発言を聞いてヴィナディスは満足げな表情を見せる。
「ほらね?」
「そんな……っ、あの部屋を…私の大切なものをあんな風にしてっ!」
ティッタは酷いと叫んだ。
あの倉庫部屋がティッタには大切なものだとはなんとなく分かったが、いまいちイズには理解できない。
ーーえ?私の部屋に鍵があって、鍵はあの部屋のもので、あの部屋が荒らされていて…
言われた言葉を一つずつイズは整理する。
ーーつまり…
ツルツルの眉間にうっすいシワを寄せると、思いついたのかハッと顔をあげる。
ーー疑われてる!?
やっとまともな思考回路をイズは手に入れたのだった。




