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そして次の日の朝がやって来た。


「御機嫌よう」

「…おはようございます」


スノトーラが朝食に向かうとそこには昨日と違ってヴィナディスが本来座るべき席に座っている。

ーー改心した?

スノトーラはそう思いかけたがそんな訳ないと考えを振り払う。

用心深くヴィナディスを観察しながらスノトーラは席に座った。

それでも主人より先に席についているのだ。

嬉しそうなヴィナディスはスノトーラにとって不審だった。


「あら?伯爵夫人は?」


ヴィナディスが辺りを見渡す。

確かに2人で1つの様に行動していたから、彼女には不思議だった。


「えぇ…もうすぐ来るかと」


スノトーラの曖昧な返事にヴィナディスは顔を顰める。

ーーあぁ、もう!はやく終わらせたいのに!

ヴィナディスは焦る気持ちをなんとか表に出さない様に努めたか、親指をガジガジとかじり始める。

まだローゲもここに居ない。

ーーいや、焦らないの。ここで不審に思われたら大変。ここで取り仕切るのは私だもの…

ヴィナディスは自分を落ち着かせる。

彼女の中でのシナリオは完璧だった。

なんとか落ち着いたヴィナディスは嬉しそうな笑みをし始めた。


バンッ


そこへ慌てた様子のローゲがやって来た。


「?」


ヴィナディスは顔を険しくさせる。

ローゲの様子は何かあったと察するには十分だった。


「どうしたの?」

「それが…あっ…」


ローゲはスノトーラがその場にいることを確認すると言葉を詰まらせる。

スノトーラはどこか遠い目をしていた。


「何?」

「いや…その…」


ローゲは慌てた様子で視線を彷徨わせる。

すると直ぐにその後ろの方からなんとも呑気な声が聞こえてくる。


「おはようございます!朝採り野菜のフルコースですよぉ〜!」


大きなザルにたんまりと野菜をそのまま乗せてイズがセッセと運んで来た。


「はいは〜い!こちら、王都の新鮮野菜です!取れ立てなので直ぐにお召し上がりください」


イズがトングを使って、それぞれのお皿に野菜をそのまま並べていく。

トマトにきゅうりにパプリカ、青菜など様々な野菜がそのまま皿に盛られていく。

ヴィナディスはその光景を呆然として見ていた。


「はい。各自ナイフで切るなり、そのまま齧るなり好きに食べてください。綺麗に洗って、冷やしているので美味しいですよ!後、塩と朝から料理長と共同開発した特製ソースをお好みで付けてお召し上がり下さいね!」


イズは晴々しい笑顔とともに次々と並べていく。

リフィもそれに続いて野菜を運んで来た。


「こ、これは…一体なんのマネなの?」


状況が理解できないヴィナディスは自分の皿の上に乗っているそのままの野菜を見つめていた。

イズはヴィナディスの戸惑いなどお構いなしに自慢げな表情を見せる。


「昨日ヴィナディスお姉様に言われて、最高のおもてなしについてめちゃくちゃ考えました」


イズも自分の席について丸ごと野菜を持ち上げる。

どうやらイズには自分のもてなしが不十分だった事に悩んでいた様だ。


「それで思い出したのです。領地で菜園を作っていたのですが、旦那様が帰って来た時に取れたて野菜を振る舞ったらめちゃくちゃ喜んでいただけてーー」


イズはその当時を思い出す。

暇を弄んでいたイズは野菜作りに興味を示した。

一回作ってみるかと領地の菜園の一角を借りて挑戦してみたのだ。

最初にできた時は喜びで、ヴァンディル卿とともにその場で齧り付いたのだ。

少しためらい気味だったヴァンディル卿だったが、一口食べると目を輝かせ、黙々と完食したのだ。


「『うまかったご馳走様』って言っていただけました」


イズはその時が目の前に見えているかの様に嬉しそうな表情を浮かべた。

まさにその表情は恋する乙女そのものだった。

呆れていたスノトーラはそれを見ながら一瞬姉の言う通りなのかもしれないと思った。

ーーこんな表情…見た事ない


「あ、でも『野菜とは形だけで判断できぬものだな』って…私の作った野菜ってどれも不格好で……」


イズは頭を掻き照れながら言った。


「それで、それを思い出して、私の思いつく最高のおもてなしだって閃いちゃいまして、朝起きて、近くの菜園にお願いして、これを取りに行って来ました。庭師のじっちゃんのお知り合いの所らしくて、快く引き受けてくださいましたよ」


そう言って、イズはトマトを一口食べる。

イズはただでさえ抜けた顔を更にとろんとさせて至福の表情を見せる。

その表情を見ているとゴクリと唾を飲み込みたくなる。

スノトーラは先日のデジャブを感じていた。

そんな事などお構いなしにイズは食事を続ける。

ーーあぁ美味しい!

イズは満足げな表情を見せて、食事を堪能していた。


「なっ…なっ…」


その頃ヴィナディスは目の前に置かれていた新鮮な野菜を眺めながらどうしようもない苛立ちを抱えていた。





「どうなってるの!」


食後にヴィナディスはあの部屋でローゲに声を上げて叫んだ。


「なんで、下剤を混入させなかったの!」

「あんな丸ごとの野菜に液体を混入できません。それに奥様一人で仕切られていて…どの野菜が誰に配られるかもわかりませんし…」


ローゲは慌てていた。


「なんとかしなさいよ!」

「で、ですが…」

「貴方、いいの?使えない人は要らないのだけど?」


ヴィナディスが冷たい目をローゲに向ける。

ローゲはハッとして背筋を伸ばした。

悪魔と一度契約してしまった彼に逃げ道は残されていない。


「分かっているのね…なら、今日の昼に絶対、ね?後、買収した下女も連れて来て」


ヴィナディスはさっさとローゲを持ち場に戻してまた爪を噛み始める。

何故こうもうまくいかないのかヴィナディスの苛立ちが募る。


「あぁっ!もう少しなのに…」


計画を焦るヴィナディスは誰を相手にしているのか、イズがどんな人物なのか全く分かっていなかった。


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