表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

37/80

36

「私はここで寝るのよ。早く荷物を持って来て!」


ヴィナディスは頓珍漢な発言をするイズを勢いで追い出しイズの部屋に篭ってしまった。

イズ、スノトーラ、リフィは追い出されて顔を見合わせる。


「まずはヴィナディス様に認めてもらえる王都の淑女にならないといけないのかな?直接教えてもらうって恐れ多い?」

「相手の悪意さえも感じられないほど頭が沸いているのですか?」


イズに冷たい目をスノトーラは向けて言い放つ。

久しぶりに数日一緒に過ごしていたらイズに気を遣う必要性はないと思い出していた。


「え?今のが?どこが?」

「ここの主人の部屋を奪うなどありえないです」

「あれぐらいのおもてなしをしなきゃならなかったんだね。領地に帰ったらフリーンと相談しなきゃ」


どうやら前提が違う。


「でも、困ったよね。あの部屋は私の為に旦那様が用意してくれたのに…」


イズは困ったなと表情を曇らせる。

問題にする点は違うがそれでもいい。

スノトーラはその感情を揺さぶる方向に決めた。


「それを奪われているのですから返していただかないと」

「う~~ん」


イズは目を閉じて何かを考え込む仕草を見せる。

それがスノトーラを余計に苛々とさせる。


「あ、リフィ、ごめんだけどヴィナディス様の荷物の移動だけ手伝ってくれる?」

「部屋を交換なさるのですか?」

「まさか」


イズはおかしな冗談でも聞いたかの様に笑った。

スノトーラはイズがとんでもないことを言うのではと警戒していた。


「でも、ヴィナディス様をあの部屋から出すにはなかなか時間がかかりそうだもの。もう夜なのに大掛かりになるわ」


イズは穏やかな優しい笑みを見せる。


「今は言う通りにしておく方がいいでしょ?私の荷物はそのままで、はやく寝たいっていう私の我が儘よ」


スノトーラもリフィもそれ以上は何も言えなかった。

二人とも目の前の人物の我が儘を我が儘だと思っていない。

ーー何を考えているのだか…

スノトーラはため息を吐く。

考えても理解できないイズの思考に呆れながらも、決して主導権を他人に渡していない現状を受け入れるしかなかった。






ヴィナディスの荷物が運び終わり、寝静まった後、屋敷の中を忍足で歩く男がいた。

その男はある人物の部屋まで行くと、軽く扉をノックした。

その部屋の主人は男を待っていた様で直ぐに扉を開き男を出迎える。


「遅かったわね」


ぷっくりとした唇で美しい円弧を作り男を出迎えたのはヴィナディスだった。

男性が好む様な魅力的な美しい笑みを見せる。

彼女は自分の見せ方をよく分かっている。


「お嬢様が夜遅くまで使用人を使うからですよ…」


男ーーローゲがやらしい笑みを見せる。


「あら、あの女に私の存在を知らしめないとね」


ヴィナディスは自慢げに言った。

ローゲもそれに笑みを返す。


「でも、荷物を置いて行ったからあの女のことを探ろうとしたけど…用心深くクローゼットには鍵までかけちゃって……。貴方、この屋敷に国宝級の宝石類が山ほどあるのでしょ?」


ヴィナディスは目を輝かせてローゲに尋ねた。

ローゲはそれに頷く。


「何度か運ばれて行くのを見ました」

「はやく見たかったのに…」


ヴィナディスは悔しそうに親指の爪を噛む。

彼女はまだ光源に近づこうとしている様だ。


「……まぁいいわ。直ぐに私のものだもの」


だが、ヴィナディスは直ぐに余裕の表情を見せてローゲに振り向く。


「それで、いきなりこちらにいらした理由はなんでしょうか?お嬢様の姿を見て驚きましたよ」


ローゲは少し困った様な表情を見せる。

だが、どことなく愉快そうだ。


「あら、分かってないわね。今がチャンスだって言ったでしょ?」


ヴィナディスはニタリと笑う。


「ヴァンディル卿は不在で、あの子が王都にいるの。またとない機会だもの。面倒なやり方はやめて、一気に片を付ける方が賢いでしょ?」


目を細める彼女はやはり蛇の様だった。

そしてイズがいた事が嘘の様に、その部屋にはヴィナディスのバラの濃い香りが充満している。


「貴方が直ぐに報告しに来てくれて助かったわ~」


決して大声にならない様にヴィナディスはローゲの耳元で囁く。

イズ達が到着して直ぐ、ローゲは昼食の給仕をリフィに押しつけヴィナディの元に向かっていた。


「お褒めに預かり光栄です」


ローゲは自分の主人を見つめているかの様な目でヴィナディスを見る。

ヴィナディスもその表情に満足げだった。


「それでこれから何をなさるつもりで?」


ローゲはヴィナディスに問いかける。

ヴィナディスはソファに腰を下ろすと、お得意の扇子を取り出す。


「まぁ、『ティッタをあの女から守る為』でしょ?」


何が愉快なのか、ヴィナディスは嬉しそうに声を上げる。

ローゲもその冗談に軽く声を出して笑う。


「ティッタは驚いている様ですが、まだ奥様を悪女だと思い込んでいます。昼に大奥様が来たのですが敵対心剥き出しでしたよ?」

「貴方があの子の信頼を勝ち取ってくれたから、あの子を使うのがかなり便利だわ」

「お役に立てて何よりです」


ローゲはニタリと下心のよく見える醜い笑みを見せる。


「あの子は所詮平民だもの。駒の役割が終われば後はいらないもの」


ヴィナディスはご機嫌そうに鼻で笑う。


「使えそうな下女は誰?その子を買収して」

「買収ですか?」


ローゲはなんだと表情を歪める。


「そうよ。その子に証言してもらうの『ティッタが奥様の食事に何かを入れてるのを見ました』ってね」


そう言ってヴィナディスは袋をローゲに渡した。

ローゲがそれを開けると、何かしらの瓶が入っていた。


「明日の朝の料理に混入させて。勿論、あの女の料理によ」

「毒殺なさるのですか?」

「まさか下剤よ。本当はあの子から出て行って欲しかったけど……」


ヴィナディスは顔を険しくさせる。


「私の目的を知ってるのかどうか…あの女の考えは読めないもの……」


今までヴィナディスが出会って来た女性はあるポイントさえ押さえておけば簡単に揺さぶれた。

なのに、イズと話すと全く思う様に事が進まない。

逆にヴィナディスが転がされている様な感覚さえある。


「はやく決着させる方がいいわ…」


社交界に出ないイズの正体はヴィナディスにとっても未知のものだった。


「貴方は大騒ぎして場を混乱させて。医者はこっちが手配してるから彼を呼んで。それで彼があの子を診断すると言うの。『伯爵夫人は子が為せないお体です』ってね。私はあまりにもかわいそうなあの女の為にたくさんの方に事情説明するわ。『ヴァンディル卿にお子さんがいないのは夫人のお体に問題があるからって。しかもローゲが選んだ下女は噂好きで言い回るかもしれないわね?」


ヴィナディスはニタリと笑う。

だとしたら、この国の護り人であるヴァンディル伯爵の血をこのまま絶やしてはならないと他の貴族が躍起になるはずだ。

なんの後ろ盾のない夫人はさっさと退場させられる…と言うのがヴィナディスの考えだった。

ヴィナディスの計画を聞いたローゲはそれに頷く。


「……わかりました。……約束を破らないでくださいね?」


ローゲは不安げにヴィナディスを見つめる。

ヴィナディスはそれにいい笑顔を見せる。


「えぇ、勿論よ」


そんな会話をしているとは知らず、イズは幸せな寝顔を見せながらぐっすりと眠っているのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ