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「ほうほう。なら、あの豚姫様はその『想い人』の援護にきたと?」


事情を説明すると、ラドはなんとか理解できた様でイズに似た呑気な声をあげる。


「あれが?」


ラドは首を倒しきりながら不思議そうな顔をする。

彼の疑問は真っ当だった。



それは、あの後、時間的にも食事となった時のことだ。

ラドはどこからかイズ達が王都に来ていると聞きつけて会いに来ただけだったが、折角だからと彼も食事に招待した。

勿論、ヴィナディスも誘わずにはいられない。

そしてイズ達が食卓に向かうと、そこにいは既にヴィナディスが座っていた。

しかも、彼女が座っていたのはイズが座るべき場所だ。


「ようこそ」


ヴィナディスは赤い唇をゆったりと上へ持ち上げ意味深な笑みを見せる。

普通、客人は後からやって来るのがマナーだ。

わざと屋敷の主人が十分なもてなしができる様に時間をずらすのだ。

なのにヴィナディスは当然の様にイズの席に座り、イズ達を迎え入れた。


「さぁ、座って?」


まるで自分が女主人であるかの様にヴィナディスはイズ達に声をかける。

その余裕げな声はどことなく刺々しい。


「ヴィナディス様、それはーー」


スノトーラは堪らず言いかけたが、それをイズが止めた。


「まぁまぁ、席なんてどこでもいいじゃん」


イズはそう言ってへらりと笑ってみせる。

スノトーラにとってはヴィナディスに馬鹿にされるのではと不服だったが、イズは全く問題にしない。


「確かにな!さっさと食べようぜ」


しかもラドも豪快に笑って適当な場所に座る。

イズも適当な場所に座っていた。

マナーも何も無い座席だ。

これではヴィナディスがわざわざ女主人の席に座っている意味がなくなってしまった。

カオスな食卓にスノトーラは目眩がしたが、視界の端に険しい顔のヴィナディスを捉えた。


「今日は仕入れたばかりの豚肉ですって」

「お、いいなぁ!やっぱ力を付けるには肉だよな!」

「昨日はおいしいお魚料理だったのです。ラド兄様にも食べていただきたかったです」

「もしかして来る日を間違えたか?」

「でも、ここの料理長の腕は凄いので乞うご期待です」


ヴィナディスの対応を2人は全く気にも留めていない。

楽しく兄妹の談笑をしている。

イズに加わりラドがいては、ヴィナディスの思い通りには中々いかない。


「さ、さぁ。ローゲ、食事を始めましょう」


ヴィナディスがローゲに声をかけると各々にワインが配られた。

ローゲと共に給仕をしてくれているリフィの表情は冴えない。


「さぁ、今日という1日に乾杯」


ヴィナディスは当たり前の様に挨拶を始めてしまった。

イズもラドもそれに構わず「かんぱ~い」と嬉しそうに声を出した。

その後も何かとヴィナディスはここの女主人を気取った態度をし続けたが、イズもラドもお構いなしに食事自体を楽しんでいた。

全てがヴィナディスのペースなのにそうでは無いというなんとも言えない空気感だった。

スノトーラはそれを冷静に眺め続けるだけだった。

会話は完全にイズとラドが回していたのだ。

ヴィナディスに話を振った時やいきなり放たれた嫌味も完全に宙に浮いていたのだった。

イズとラドだけが食事を楽しんでいた。




「あれが、その『想い人』やらを守る態度か?」


なんとなくそんな気まずい食事を終えたイズ達は兄妹だけで食後の談笑をしていた。


「お姉様を煽るというのでは理にかなっています」

「ん?そうか?」


やはりラドはイズに似ている。

なんとも言えない様に表情を曇らせて、説明のつかない何かを探っている様だ。


「なんていうか…あいつ見てると胃もたれしてきて…」


説明できない思いをなんとかしようとラドは手をわしゃわしゃと動かす。

だが、先程のヴィナディスを思い出したからか、何かを振り切る様にワインを一気に煽った。


「後援部隊として待機している時にそんなに飲んで大丈夫なのですか?」


スノトーラは冷静に注意する。


「あ?まぁ大丈夫だろ?」


ラドはお気楽モードでケラケラと笑う。

彼に責任感があるのかスノトーラは不思議だった。


「…胃もたれしていた割にはよく食べてらっしゃいましたが?」

「そりゃ、食事は美味しく食べないとだろ?な?」


ラドがイズに振る。


「うん。料理長がさ頑張って作ってくれたものだしね。楽しく食べなきゃ勿体無い」


イズもウンウンと力強く何度も頷く。

スノトーラはまた2人の謎理論が来たのではと構えた。


「食事は大切なんだぞ~?しかも、いろんな人が頑張ってくれたものだからな」

「そうそう。わざわざ、嫌な空気で食べる事ないって」


イズとラドはそう言ってお互い笑っている。

それを見ながらスノトーラは昔を思い出す。

昔からイズの実家の食卓は賑やかだった。

決して豪華な食卓ではない。

だが、常に笑顔が絶えなかった。

両親に怒られたり、兄弟で喧嘩した時だって、食事の前は必ず笑っていた。

考えてみれば、あの空気感を作り出していたのはこの2人がいたからかもしれない。


「ま、あの豚姫様はちょっと苦手だよなぁ~、いい噂聞かないしよ」


ラドは首を回しながら言った。

あまり女性社会はラドには向かないものらしい。


「大体『想い人』ってなんだ?お前浮気を黙認してんの?」


ラドはキョトンとしてイズに尋ねる。

イズは勢いよく首を振った。

そして悪い表情を見せる。


「そんな事するお馬鹿さんに見えます?」


ーー見えます

というスノトーラの思いはなんとか飲み込んだ。


「本当だったら、絶対に許しませんよ」


イズは刺々しい言葉を出しながらも、何もなかったかの様にいつもの様にのんびりした表情でワインを飲み始めた。

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