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イズとアルヴィング夫人は談笑を続けている。

彼女達は話題が尽きない様で次から次へと話が始まる。

そうしている内に時間は直ぐにやって来た。


「そろそろ帰るわね」


アルヴィング夫人は伸びをしながら立ち上がる。

背の高い彼女が伸びをすると余計に大きく見える。

だが、彼女の爽やかなシトラスの香りはそれを威圧的なものに見せない。

アルヴィング夫人はさっさと支度を始めて、玄関に向かう。


「見送らなくて良いわよ。そんな堅苦しい事をする仲でもないでしょ~」


アルヴィング夫人はそう言うも、流石にしない訳にはいかない。

イズは「まぁまぁ」と言いながらついて行った。


「ここらへんの地域は元々そんな堅苦しい文化ないのにさ、南の方のキル教なんて変な物が浸透しちゃって」


アルヴィング夫人はイズの見送りを受け取りながらぶつくさと呟く。


「色んな地位の貴族が生まれて、しかも変に分家なんてするから偽物貴族も出てくるし、礼儀やら作法やらもっと大雑把で良いじゃない!形ばっかりで気持ちのないものなんて何よ!心の底では牽制しちゃって、全然楽しくない!身分がなんだ!生まれが良くても低能な奴らばっかじゃない!」


遠征によって大きな収穫を得る様になってこの国は異文化を前向きに取り入れて来た。

蛮族と呼ばれて土地を奪う事によってなんとか生活を維持していたこの国は様々な進歩を遂げ、正確な物ではなかった決まりやしきたりが明確化し、法や文化がこの国の絶対的なものへと変化した。

文明的な発展が著しい他国の考えは、主に腕っ節のみの実力主義でやって来たこの国には堅苦しく感じる点は多い。


「男どもは金や食糧以外に厄介な物を持って帰って来てくれちゃって!あなた達が遠征してる間、それに苦しめられているのは私達女なのにね!勝手に遠征に言って、「すごいだろ?」って自慢げにーー」


ーーこれはお義父様と喧嘩したなぁ~

愚痴の止まらないアルヴィング夫人を見ながらイズはなんとなく察した。

それで今日はいつもより長居をしてたのだ。

ーーきっと、プチ家出ですね

日が沈みそうな時間帯だ。

この国では他の国よりも女性の地位が高い。

男性が遠征に行っている間に国を守るのは女性の務めだったからだ。


「あ、そう言えば、旦那様が最近遠征に行かれない理由を知ってますか?」


イズは思い出してアルヴィング夫人に問いかける。

スノトーラと話していた事だった。

既に上り詰めた地位にいても戦場に赴いていた彼が、ぱったりとやめた理由をイズは知らない。


「あれ?イズちゃん知らないの?」


アルヴィング夫人は不思議そうな表情を浮かべる。

ーーあれ?本当に理由あるんだ。

大した事ではない様に思っていたイズは、アルヴィング夫人に答える様に首をこてんとさせる。


「あのね、それはーー」


アルヴィング夫人が何かを言いかけたところで、誰かが遮った。


「おば様!もう帰られるのですか!?」


ティッタだった。

アルヴィング夫人が帰ると聞いて慌てた様だった。

ーーお義母様が本当にお好きなのね

イズはアルヴィング夫人に駆け寄るティッタを眺めながら思う。


「せっかく久しぶりに会えたのに…」


しゅんと分かりやすくティッタは凹んでいる。

それは演技には見えない。

本心から彼女がアルヴィング夫人を慕っていると感じる。

確かに並んでいると優しい笑みのアルヴィング夫人とキラキラとした目で彼女を見つめるティッタは親子に見えてくる。


「同じ王都に住んでるのだからまた来るわよ。ティッタも休暇になったらいらっしゃい」


肝っ玉母さんの様にアルヴィング夫人は寂しげなティッタを励ます。

先代の伯爵はヴァンディル卿に爵位を渡してから領地ではなく、この王都で暮らしている。

長年王都に住んでいる先代の夫妻にとってはその方が良かったのだ。

ーー話す時間がなかったし…気を遣って、時間を作るべきだったかな?

イズはなんだか独り占めして申し訳ない気分になった。

ーー近々ティッタに休暇をってオセルに伝えとこうかな

これだけ慕っているのだと知ればどうにか手を貸したいと思うのは自然だ。

ティッタと別れの挨拶を終えると、アルヴィング夫人は馬車に乗り込む前にイズに耳打ちした。


「イズちゃん…ティッタがここにいたの嫌だった?」


イズが驚いて顔を離すと、アルヴィング夫人が申し訳なさそうな表情を浮かべる。

彼女なりに気を遣ってのことだ。


「正直そんな馬鹿な噂をする奴なんていないと思ってたんだけど…ちゃんと前もって説明するべきだったわ。働き慣れたところだからって思ってたけど、ティッタに相談してこっちの屋敷に来てもらう様にしようか?」


アルヴィング夫人はどうするべきか迷っている様だ。

それぞれを思っての事だからこその迷いだ。

イズはそれだけ彼女の中で問題視する点ではなかったのだと理解した。

考えを汲み取ったイズは、アルヴィング夫人に悪戯な笑みを見せる。


「噂如きにこの私は潰せませんわ」


偉ぶった話ぶりだが全く馴染んでいない。


「この3年間を潰せるのは旦那様、本人以外ではありえません」


そのイズの返答にアルヴィング夫人は柔らかい笑顔を見せる。

そして切り替えて、イズと同じ様な悪戯な笑みを見せた。


「やっぱり、あの子の嫁にはイズちゃんしかいないわね!」


豪快に笑ってイズの肩を叩いた。

ヴァンディル卿の母だっけあってその威力はなかなかだ。

イズは少しだけヒリヒリする肩を摩りながら、笑顔を返す。

ーーやっぱりそうだよね

イズは確信した。

こっちに来てからイズの思いを確信に変えてくれるものはなかった。

だが、義母であるアルヴィング夫人がここまで言ってくれるのなら胸を張るしかない。


「私も、お義母様の娘で嬉しいです」


イズはそう言って弾けた様に明るい笑顔を見せる。

何か吹っ切れた様にも見える。

アルヴィング夫人もそれに嬉しげな表情を返した。


「…素敵な方ですね」


スノトーラが去っていくアルヴィング夫人を見ながら呟いた。


「ん?」


イズは伸びをしながらスノトーラに聞き返す。

スノトーラは幾分柔らかい表情をしていた。

いつも冷静に見つめようと引き締めている目尻が下がっている。


「お姉様が自信を持つ理由が少し分かった気がします」

「本当?なら、帰る?」


イズは全て解決だなと言わんばかりに嬉しそうな声をあげる。

ーー旦那様に会いに行ける!

直ぐに船を手配しようと目を輝かせる。

だがそんなイズを見たスノトーラはいつもの冷静沈着な表情に戻る。


「帰りません。まだ確かめる点は残ってます」


素早くはっきりとスノトーラは言った。


「まずあの鍵の件はまだ解決できません」

「昔のよしみでなんとかなりませんか?」

「なりません」

「…」


イズは分かりやすくむくれた。

ーー旦那様にささっと聞いて全部解決なのにぃいい!

スノトーラも中々しぶとい。

考えを曲げる事をしてくれない。

平和ボケ家族をどうにかするには時には強引さも必要だ。

だが、その強引さも更なる嵐が来れば緩む。


「お~い!不審者だぞ~!」


大声を上げてこちらに向かってくる人物がいた。

まだ玄関に入っていないイズ達はそれに振り向いた。


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