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その後、イズとアルヴィング夫人は応接間で談笑する事となった。
ティッタは仕事に戻ったが、親を独り占めできなかった子供の様な寂しそうな表情を浮かべていた。
スノトーラは2人の談笑に招待された。
「まぁ、スノちゃんも美人さんね」
「ですよね!」
イズは自慢げに語る。
「スノちゃんはモテます!」
「知的だから、奥様方に人気になりそう!」
「スノちゃんの加護は知の女神です」
「あら、賢女スノちゃんね」
何故人々は直ぐにあだ名をつけたいのだろうかと思いながら、スノトーラは落ち着いて2人の会話を聞いていた。
そして理解した。
ーーこの二人は同じタイプ
世の中には珍獣が多い事をスノトーラは学んだ。
そして類は友を呼ぶ事を実感していた。
相変わらず会話を楽しむ2人は昔からの親友の様だ。
「あ、そうだ」
イズはワインを飲み一息つくと思い出した。
「私、旦那様に『想い人』がいるって聞いたのですげど、お義母様知ってます?」
「え?」
「ゴホッ!」
先程まで冷静さを醸し出していたスノトーラがその勢いにお驚き喉に何かを詰まらせた。
「スノちゃん!?」
その隣にいたイズは驚いた様で急いでスノトーラの背中をさする。
アルヴィング夫人も同じでワインの入ったグラスを差し伸べる。
「大丈夫?これを飲みなさい」
2人の素早い対応で、スノトーラは直ぐに落ち着いたがまだ話は終わらなかった。
「それでさっきの話だけど…」
アルヴィング夫人が不思議そうにイズに聞き直す。
「旦那様に『想い人』がいるって言う噂があるみたいです」
「え?ん~、聞いた事ないけど…」
アルヴィング夫人は困った様な表情を浮かべた。
本当に分からない様で何かの記憶を辿り始める。
「あぁ!もしかしてイズちゃんのことじゃない?」
分かっちゃったと言わんばかりにアルヴィング夫人は嬉しそうに言った。
「もうイズちゃんったら、惚気るためにそんな遠回りな言い方しなくてもぅ~」
アルヴィング夫人はニタニタして言った。
ーーえ?これが普通なの?
デジャブを感じたスノトーラは衝撃でまたむせそうになる。
「いや~私もそうだと思ったのですけど、なんだか違うみたいなのです」
イズは頭をかきながら笑う。
どう見ても旦那の不貞を知った妻の顔ではない。
「それが、ティッタみたいらしくてーー」
イズはわざとらしい神妙な面持ちで囁く。
それに合わせる様にアルヴィング夫人も耳を寄せて真剣な表情をしていたが、顔を勢いよくあげた。
「うっそだぁ~、それならティッタと結婚するじゃない」
酷い冗談を聞かされているかの様にアルヴィング夫人は豪快に笑う。
「ですよね~」
「そうよ。あの子が浮気?ないない」
アルヴィング夫人はゲラゲラと笑って大きく手を振った。
「そんな器用な子なら、もっとうまく人生を謳歌してるわよぉ~」
アルヴィング夫人が断言した。
イズがその話を信じてないと分かっているかのような話ぶりだ。
自分の息子の不貞を聞かされるのなら、不快に思うはずだ。
「あんな像を手作りするなんて、不器用な愛情表現する子よ?」
その言葉にはとてつもない説得力がある。
「そうですよ!お義母様、王都にもあるだなんて聞いてません!」
イズはハッとしてアルヴィングに訴える。
「だって、『極楽~』って領地に籠ってるからいいかなって」
「酷い!」
「いいじゃない。サプライズよ。サプライズ」
あのイズがいい様に操られている。
スノトーラはこの会話だけでアルヴィング夫人の器量が分かるほどだった。
「にしてもあの子、そんな噂を立てるだなんてどんなつもりなのかしら?」
アルヴァン夫人が腕を組んでひっくり返る。
「イズちゃんが領地にいないって泣いてしまえばいいわ!」
それはないだろうと言うスノトーラの思いは他所に、イズはそれを柔らかい笑顔で聞いていた。
「クシュンッ」
大きなくしゃみが響く。
「旦那様、風邪ですか?」
下船した港町で大柄な男と執事の2人は食事をしていた。
「…」
男はいきなり襲われた寒気に首を傾げる。
執事は心配そうに男を見ていた。
「……」
男は何かを考え込んでいる様で無言で手元を見つめる。
「薬を用意しますか?」
「…いや、いい」
男はそう言うと食事を再開させたが、彼の椅子の横にあるものが目に入る。
執事もその視線に気づいた。
「それ、ずっと持っていらっしゃいますね」
「…」
男は彼に何も答えないが、それをじっと見つめている。
「……王都に向かう」
「え?」
「王都に引き返そう」
「何故ですか?これからもう一つの視察をして領地に帰るのでは?」
男はこの港町での視察があり船を降りた。
だが、仕事が思ったよりもあった為、そのまま1泊していたのだ。
「延期しても問題ない」
「ですが、それでは領地が…」
「構わない」
この男は一度決めた事を覆さない人間だ。
はっきりと決めてしまった意思は様々な手を使って通してしまう。
「王都だ」
男は何か引っかかる事がある様だ。
口元を押さえ、何かを考え込む。
長年彼に付き添って来た執事はこれではどうしようもないと知っている。
「分かりました。王都ですね?」
ため息まじりに確認する執事に男は素直に頷く。
「直ぐに出発だ」




