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イズはリフィからの報告を聞いてすぐに出迎えに向かった。

嬉しそうに顔を綻ばせて走る。


「お姉様、そこまで走らなくても!」


遠くからスノトーラが声をかけるが、イズの耳には入っていない。

イズは親元へ向かう雛鳥の様に真っ直ぐ向かっていた。


「あっ!」


そしてイズはすぐにその人物を視界に捉えると、喜びの声を上げる。


「お義母ーーーー」

「おば様!!」


イズの声よりも先に明るい少女の声が屋敷内に響く。

階段を降りかけていたイズはその声に足を止めて、エントランスの光景を眺める。

そこにはイズの義母、つまりはヴァンディルド卿の母であるアルヴィング夫人が、駆け寄ってくるティッタを快く受け入れていた。


「あら、ティッタ」


ティッタはアルヴィング夫人に抱きついて、まるで彼女の娘の様だった。

アルヴィング夫人も母の様に彼女に微笑みかけている。


「ふふ、叔母様が久しぶりに来てくださったから嬉しくて」

「先週も来たじゃない」


そんな微笑ましい会話がイズの目の前で繰り広げられる。

アルヴィング夫人はヴァンディル卿の母らしくその容姿は美しく、女性にしては大柄で凛々しい。

華奢なティッタはすっぽりとアルヴィング夫人の中に収まっている。


「お姉様っ…えっ、あれは…」


イズに追いついたスノトーラもその光景を目にし、途端に顔を暗くさせる。

スノトーラの声が聞こえたのか、アルヴィング夫人が顔を上げて、階段に佇んでいるイズを見つける。

すると彼女は優しげな母の表情からパッと華やぐ様な表情を浮かべた。


「イズちゃん!!」

「お義母様!!」


イズもそれに答えて駆け寄った。

アルヴィング夫人もイズに駆け寄る。


「お久しぶりです」


イズが挨拶をする。


「もうっ、こっちに来たなら連絡してよ!さっき連絡を受けてびっくりしたんだから!」

「へへっ、急なものでして」

「恋しかったのよ?この触り心地のいいもち肌!」


令嬢達が恋話に花を咲かす様に、2人はキャッキャとして話す。

40代であるはずのアルヴィング夫人が10代に見える。

そして、息子と同じ趣向を持つのか、イズの頬をムニムニと触り幸せそうな表情を浮かべた。


「これこれ!イズちゃんの幸せほっぺ♡」

「へへ、しっかり充電して来ました」

「最高よ!癒しねぇ~」


何故か2人が恋人同士にさえ見えてくるほど、2人で盛り上がっている。

ハイテンションなアルヴィング夫人にイズも負けない。

スノトーラやティッタ、そして通りかかった使用人達もそのやりとりに驚いている。


「で、どうしたの?馬鹿息子と喧嘩?」

「喧嘩してたら、幸せを貯めて来てませんって~」

「あら、それもそうね~」


アルヴィング夫人は会話を進めながらも一向に手を止めない。

イズのぷにぷにほっぺが少しだけ赤みを帯びて来た。


「でも、あの子と入れ違いでしょ?」

「旦那様の予定をすっかり忘れて、入れ違いになっちゃいました」

「あら、それはあの子寂しがってるでしょうね」

「ションボリ旦那様も中々魅力的です」

「当たり前よ!あの子、見た目だけは最高に産んであげたからね」


完全に2人の世界だ。


「お、大奥様…今日はどの様なご用件で?」


イズ達の様子に呆気にとられていたローゲがアルヴィング夫人に問いかける。


「あら、嫁に会いに来ちゃダメ?」

「いえ…そうでは…」


ローゲはアルヴィング夫人の迫力に狼狽る。


ーー流石旦那様のお母様♡


イズは格好の良い彼女に惚れていた。


「おば様…?」


今度はティッタがアルヴィング夫人に声をかける。


「あら、ティッタ、いつまでもここにいていいの?仕事はさぼっちゃだめよ?」


アルヴィング夫人は小さな子を叱る様にティッタに言った。


「え…はい」


ティッタは戸惑いながらも、それに素直に頷く。


ーー我が子の様に可愛がる…確かにそうなのかな?


だが、ティッタの話をイズは聞いたことがない。

と、思っていると意外にもすんなりとアルヴィング夫人がその話題を振って来た。


「あ、そうだ。イズちゃんはティッタと初めてよね?」

「はい。旦那様の幼馴染みだと聞きました」

「そうなの。この子の父親と仲良くてね。まだティッタも子供だったから、私たちが親代わりのようなものなのよ」


アルヴィング夫人は隠裾(?)ぶりも見せずあっさりと言った。

彼女の性格自体がそうなのか話ぶりにも爽快感がある。

ヴィナディスの『あの子』呼びとは凄まじい違いだ。


「ま、私は特に母親のつもりでいるの。ティッタが生まれた時にお母様を亡くされているからね」

「…私だっておば様が母だったらいいなと思っています」


ティッタは控え目に言った。

それはイズを気遣ってのことなのかは分からないが、頬を染めて恥ずかしそうだ。

多くの殿方はこの表情に心を奪われてしまうだろう。


「あら、嬉しい事を言ってくれるわね。あとはティッタがいい人見つけて結婚してくれたら嬉しいけどね」

「それは…」


アルヴィング夫人の言葉にティッタはぎこちない表情を浮かべた。


「ま、それは貴方の人生だもの。好きにしなさいな。いい男を見つけなさいよ?私の夫ぐらいにね!」


アルヴィング夫人は爽快に笑って言った。

どうやらティッタの恋心に気づいていない様だ。

確かにアルヴィング夫人はその凛々しい見た目通り、性格や感覚も男らしい面がある。

型に囚われない彼女の存在をイズは素敵だと憧れさえもある。

だからこそ、イズが気づいた点に無頓着なのかもしれない。


「は、はい…」


ティッタはそれに苦笑いを返した。

彼女が本心でどう思っているかは分からない。


「貴方が立派にこの家を出て、幸せに暮らしてくれたら、胸を張って向こうで貴方のお父様に会えるもの」


穏やかな母親の表情でアルヴィング夫人はティッタの頭を撫でた。

それに複雑な表情のティッタは頷くだけだった。

その光景を見ながらイズは結婚前にアルヴィング夫人に会ったことを思い出す。


『私ね!お嫁さんが欲しかったの!』


そう言ってはしゃくアルヴィング夫人は少女の様だった。

彼女がイズに接する態度は我が子への態度とは少し違った。

彼女はイズを快く受け入れてくれるが、娘というよりも気軽に話せるお友達の様な扱いだ。

そしてイズの性格が彼女の波長にぴったりと来てしまい、癒し係も兼任する様になったのだ。


ーー娘のティッタと嫁の私かぁ~


イズはなるほどなと見ながらも、ティッタが本当に彼女を母として見ていることをしっかりと確認していた。

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