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イズは使用人に見られているとも知らずにヴァンディル卿の手紙を読み進める。

数日ぶりのその手紙にイズは心を浮つかせていた。


ーー本当だ。帰るって書いてある


イズは失敗さえも楽しげだ。


「ん~、帰ろっかな」


イズはポツリと呟く。

それを見逃さないのがスノトーラだ。


「はい?」


本を読んでいたスノトーラは勢いよく顔を上げて、イズに問いかける。

イズはぼんやりとした表情を浮かべていた。


「なんかヴィナディス様に『旦那様、旦那様~』って話していたら、会いたくなっちゃった」

「全く目的は果たせてませんよ?」


その目的さえもイズは忘れ去っているかもしれない。


「ん?でも、旦那様に確認すれば全て解決じゃない?」

「もしはぐらかされたら?」

「嘘をつく人じゃないよぉ~」


呑気に声を伸ばす。

スノトーラはこの会話をしても無駄だなと宙を見上げる。


「私はもう暫くここで確認するべきかと」

「何を?」

「まず気になるのは、あの子があの倉庫の鍵を管理していると言う事です」


スノトーラはイズにも分かりやすいように、一つずつ丁寧に話す。

これだけ丁寧に話していても停車駅を見失うのがイズだ。


「それに、ヴィナディス様の言った、彼女への縁談についても気になります」

「『妹みたいだから』じゃ解決できない?」

「できません」


イズの発言にスノトーラはキッパリと否定する。


「でもさ、私はスノちゃんに倉庫の鍵を渡すし、縁談が来たら目を光らせるよ?ほら最初に来た子爵の縁談。あれなんて論外」

「それは、お姉様が本当の姉だからーー」


スノトーラは呆れた様にイズに反論しながら、ある事に気づき立ち上がった。


「何故お姉様が子爵の方との縁談をご存知なのですかっ!」


スノトーラはいつもよりも食い気味で言った。

だが、イズがそれで動じるわけもない。


「うん」

「な、何故!?」


スノトーラはイズの発言に混乱する。

スノトーラに縁談が来る様になったのはイズが結婚してからだ。

ヴァンディル卿との繋がりを欲した人たちがこぞって申し込んできた。

だからこそ戻ってこないイズが知るわけが無い。

そして子爵との縁談もあったのだが、いつの間にか断りを入れていた様で、「何故だ」と子爵が押し掛けて来た事があった。

イズ達の父が対処したため、スノトーラは押し掛けられた最初以外はあまり知らないのだがーー


「え、だってあの縁談断ったの私だもん」

「はい?」


またしてもスノトーラが声を上げざるをえない発言が飛び出した。


「お父様から相談受けて、私が旦那様の権力を駆使して調査したわ!」

「は!?」

「集まりで仲良くなった奥様方に情報収集に協力してもらったの。なんでもそういった事に得意な奥様がいてね」


イズは得意げに話す。

どうやらこの3年間イズと関わりがなかったと思うのは間違いだったとスノトーラは認識する。


ーーいつの間に私の縁談を…


イズを知っているスノトーラは呆れ顔になり、力が抜けた様に腰を下ろす。


「どうりで、聞いた縁談の数と行ったお見合いの数が違ったのですね…」

「うん。お義母様ものりのりでゴシップ情報教えてくれたよ?『あの人の母はよくないからやめなさい』って結婚後のシュミレーションまでしてくれてね」


なかなか人を巻き込んだ調査だ。


「でも、スノちゃんも結婚に乗り気じゃないでしょ?」


イズは何かを見透かした様で、ズバリとスノトーラに尋ねる。

その言葉にスノトーラはぎくりとした。


「あ…」

「だって、お父様から教えてもらった話を聞く限り、お見合いの時「はい」ぐらいしか言ってなかったのでしょ?」

「…誰か盗み聞きしてたのですか?」


プライベートは無いのかとスノトーラは思う。


「スノちゃんはしっかりしているから、常識程度には話を広げるでしょ?「ご趣味はぁ~?」なんて定番の話とかしちゃってさ」


何故かイラッとスノトーラはした。


「そんな常識人のスノちゃんがワザと話を盛り上げないだなんておかしいもの」

「本当の私を受け入れる方を探しているのです」

「へぇ~、13歳そこそこで「貴族の結婚に愛を求めるのは難しいかと。同士としての友情を育む方が効率的です」だなんて言ったのは誰かなぁ~」

「何故そうやって余計な事ばかり覚えてるのですか…」


スノトーラは得意げに語るイズにため息を吐いた。


「子供の頃の発言など覚えていません」

「嘘つき。私が蝶々を追っかけてる間に、スノちゃんはさっさと大人に混じって会話してたじゃん」


イズはケラケラと笑って言った。

本来なら恥じる話題なのだが、イズには関係ない様だ。


「ま、こんな姉心がある様に、旦那様の兄心があってもおかしくないよね?」


本人が話したがらなければ深くは聞こうとしないのがイズだ。

イズはさっさと話を戻して何事もなかった様な表情をする。


「…」


スノトーラは腑に落ちない思いを飲み込みながら、相手がイズだから仕方ないと自分を落ち着かせる。


「私にティッタへの贈り物の相談もそれでしょ?」

「まぁ…それは…」


だが確実性はどこにもない。

イズはスノトーラが判断に迷っているのを横目で見ながらヴァンディル卿の手紙を見つめる。


ーー何も分からないなら一先ず信じてみるしかないと思うけどねぇ~


イズはそう言って呑気な表情を浮かべる。


「確かに…昨日のヴィナディス様達の行動は些か気になる点がありますね…」


スノトーラは冷静に言った。

昨日のイズの指摘はまともだった。


「社交界で顔の広いヴァンディル夫人がその噂について知らないはずないですし…いや、隠している可能性もあるのですが…」


スノトーラはぶつぶつと話し始める。


ーースノちゃんは本当にしっかりしてるなぁ~、そこまで考えられないな


直感で動くイズには難しい話だ。

そして本格的にヴァンディル卿に会いたくなったイズは考えを巡らす。


ーーどうしよ…手紙送ろうかな?来てくれるかな?


のんびりとそんなことを考えていると、イズの部屋の扉が叩かれた。

リフィがある人物の来訪を伝えに来た。

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