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「私は、ただ貴方が哀れだとっーー」


ヴィナディスは自分の嫌味の解説を始める。

嫌味は一発で効果がなければ、なんとも滑稽な物に成り下がる。

ヴィナディスもそれを分かっているが、何かを勘違いしているイズに意味を受け取ってもらおうとしている。

彼女の目的はヴァンディル卿ではないのだ。


「私はとっても、とっても、と~っても!幸せですよ?」


いつものにこやかなイズの話し方とは全く違う。

笑っているはずのイズの表情が何故か笑顔に見えないのだ。

細められた目の奥は良く見えないが、何故かとてつもない闇が待ち受けている様に感じられる。


「旦那様は真っ直ぐな方です!きちんと道理は通してくれます!だって見て下さいな!この肌艶!」


イズは顔を突き出した。

そしてほっぺがよく見える様に顔を横に向ける。


「私、肌のお手入れなんてした事なかったのです!けど、旦那様のおかげでこんなに綺麗な肌に生まれ変わりました!食生活も改善されて、ぐーたらの実家暮らしから適度な運動も続けて、美味しいものをあれだけ食べさせてもらっているのに、この体型を維持してるのです!」


今度は腰に手を当て、胸を張って得意げだが、それではただ健康的な生活自慢だ。


「ほらこれ。旦那様はほっぺをツンツンするのが大好きなのですよ?旦那様公認のもち肌ほっぺです!」


イズは実演を始めた。


「不意打ちで、こうやってつんて触ります。寝てる時も、隠れてツンツンします。因みに、昨年からそれに気付いているのですが、気づかないフリをしています♡」


いつの間にやら惚気が始まった。

イズはこれを言いたかっただけなのかもしれない。


「後、照れた時は片手で私のほっぺを鷲掴みにします。旦那様の手ってめちゃくちゃ大きいから全然痛くないのです。でも鷲掴みにされたら顔がグニャってなるので、旦那様はそれを見て『変な顔だな』って笑うのです」


もはや惚気なのか不明だ。


「ですからね。愛情がなくてどうやって、こんな健康体になるというのですか!」


そしてイズはいきなり謎理論をぶっ込んでくる。

自信満々のイズには妙な説得感があるものの、意味を考えれば迷宮入りする。


「そ、そんな…意地を張って、『幸せ』やら『愛情』やら言っても、ティッタが彼の愛を受けているのは変わりませんわ!」


何を言っても無駄なのにヴィナディスは反論せずにはいられない。

彼女の目的を達成しようとして必死だ。


「旦那様はティッタが好きなら絶対にティッタと結婚してましたぁ~!この妻である私が言うのです!間違いではありません!」


イズは子供の減らず口の様に言った。

正直、公爵令嬢相手にギリギリの行為だ。

だが、この場合お互い様かもしれない。


「それに旦那様はそんな噂好きの人たちのいい餌になる様な事なんてしません!自らの首を絞める大馬鹿者ではありませんので!」


イズの最後の叫びで、自分の思い通りにならない事が分かったのか、ヴィナディスはそそくさと帰って行った。

ただその目はどことなく悔しそうで、帰り際にイズを睨んでいたが、どう見ても敗者の逃げにしか見えない。

そして残されたローゲはどこか慌てた様子で、「仕事がありますので…」と逃げる様にその部屋から出て行った。

お怒りモードのイズはそれに気づかなかったが、スノトーラにはそれがしっかりと見えていた。




ヴィナディスが去った後、イズはドカドカと足音を立てながら庭園を歩いていた。

イズはその腹立ちを空気にぶつけることしかできなくて庭でワナワナとしていた。


ーー旦那様のせいで私が不幸だって?


どれだけ自分が幸せだったのか知らない人間が、ヴァンディル卿の悪口を言うのが耐えられなかった。

ここまで来て、イズは自分が煽られた事に気付いていない。


「旦那様の愛の深さを絶対証明してみせるっ!」


イズは拳を上へ突き上げた。


「どうやって、ですか?」


またしても論点がずれているイズにずっと黙っていたスノトーラはすかさず聞き返す。

リフィは緊張した面持ちでそれを見守っていた。


ーーあの部屋で何が起こったの?


ティッタを呼びに行ったものの、仕事があって成り行きを知らないリフィはいきなりお怒りモードのイズに動揺している。


「それはこれから考える!あ、いっその事私も平民になってティッタとどっちを選ぶ!?ってしたらどう?対等じゃない?」

「絶対に家には迷惑をかけないで下さいね?」


スノトーラは呆れた声で言った。

リフィはもちろんイズの思考を理解できず目を回している。


「え、うちも没落したら対等じゃん。貴族籍から外れようよ」

「ならお父様にも死んでもらうのですか?」

「いや…それは…」


どこにへもぶつける事の出来ない怒りのせいでイズの思考がぶっ飛んできている。

問題は愛を2人に注いでいる事なのだ。


「冗談だって…」


イズは口を尖らせて拗ねている。

スノトーラはそれを呆れ顔で見ていた。

イズはいつだって自分の為に怒ることはない。

誰かが傷つくことだけは見過ごせない人間だ。


いつだったか、幼い頃にあるお茶会に出席して、スノトーラが上級貴族の子供達から虐めを受けた事があった。

イズはその現場を見た途端に怒り始めた。


「スノちゃんをなんだと思ってる!」


そんな台詞を吐きながらイズは仁王立ちでスノトーラといじめっ子の間に割って入る。

勿論、イズの言葉に皆が首を捻らせる。


「こんな身分の低い奴がなんだって?俺は侯爵家だぞ?」


そんな言葉を返す子どもだっていた。


「スノちゃんはね!すごいの!未来がすぐに分かるの!」


何の話だとスノトーラも真顔になる。


「スノちゃんが『こけますよ』って言ったら、本当に私こけたの!」


それはただの注意だ。


「お勉強でも『ここで出来てないと後で困りますよ』って言ったら、本当に困るの!」


それもただの指摘だ。

だが、誰も妹のスノトーラがイズに勉強を教えているとは思っていない。

心配性のスノトーラは、勉強も先回りして姉を支えようとしていただけだ。

それが、イズにとっては未来予測にでも思ったのかもしれない。

スノトーラは何の話だとしらけた目でそれを見ていたが、いじめっ子達は違った。


「お、おい…未来予測って、確か冥界の女神の能力だろ?」

「えっ…確かそれって、特定の相手の未来を歪める力もあったよね…」

「そ、それって…」


サッと顔を青くさせた。

彼らはスノトーラが知の神から加護を受けている事は知らないのだ。


「ひっ!こわいよぉおおお!!」


途端に彼らは泣きべそをかきながら逃げていく。

幼い子どもならではだろうが、告げ口されたら呪われると思ったのか、大人の方までは話がいかなかった。

スノトーラをいじめていた子ども達は横暴な行動をし周りを困らせていたが、それっきり大人しくなったと言う。

問題はスノトーラが少しの間冥界の女神の加護を与えられたと恐れられた事だ。

スノトーラは凄い人だと言って彼らをビビらせようとした点ではイズの勝利だった。


ーーとんでもない理論で説得しようとしてたけどね


スノトーラはいい子だと伝えようとした点ではイズの負けだ。



暴走し始めているイズをどうしようもできないと察したスノトーラはリフィに問いかける。


「所で、ヴァンディル卿がティッタさんの縁談を断っているのは本当ですか?」


リフィはそれに気不味そうな顔をする。


「はい…聞く限りではヴァンディル卿がティッタに思いを寄せているから、誰にも渡さない様にって手元に置いてって聞いた事があります…結婚しようにも先代の伯爵達の許可が下りなかったとか…」


リフィはイズの様子を窺っているが、イズは違う方を向いていた。


ーーなるほどね


スノトーラの中でヴァンディル卿の株が決定的に下がった。

この状況がその証明の様だった。


ーーだけど…


スノトーラには引っかかる事がある。


「うぅ…どうしよう…あんな事言われて、怒りで爆発しそう…」


だが、そんな事はお構いなしのイズは頭を抱えて先程のヴィナディスの発言を思い出し、唸る。

これだけは絶対に譲りたくないイズは溢れてくる怒りに顔を顰める。

そしてどうにかできないものかと周りを見渡した。

スノトーラはそれを呆れて、リフィは戸惑いながら見ていた。


「あっ…」


イズはある一点を見つめて声を上げるのだった。

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