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曇りの全くない晴れやかな笑顔をするイズに、ヴィナディスだけではないスノトーラも呆気にとられていた。


「小説では幼馴染みの恋は王道ですよね!ヴィナディス様もそれに憧れが?」


「だからそうではない」とスノトーラは言いたかった。

だが、こういう時はイズを止められる人間などどこにもいない。


「え?え、えぇ…」


ヴィナディスは引きつった笑顔でそれに答える。

まだイズの反応が強がっているものなのかどうか分からない様だ。

ずっと後ろで控えていたローゲも驚いた様子でイズを見ていた。


「だと思いました!きっとヴァング公爵家の皆様はロマンチストですよね!」

「はい?」


ヴィナディスは先ほどの強気な表情はどこへやら理解しかねる表情を見せる。

どこからその理論は来たのだと誰もが思った。


「家紋が御伽噺でよく登場する豚さんですものね!豚様は幸運の印ですから初代の公爵様がかなりのロマンチックな方だったのですね!」

「我が家の家紋は猪です!!」


ヴィナディスは顔を真っ赤にしてそれに反論した。

スノトーラをはじめとして、ティッタもローゲもぽかんとしていた。


「ぶ、豚などとっ!我が家を馬鹿にしているのですか!?」


ヴィナディスはイズが思い通りの反応どころか、自分が辱めを受けている状況に扇子を握りしめ憤慨し始める。


「え?馬鹿?いや、豚様はロマンチックだなって…」

「ですから猪です!」

「どうしましょ…猪様は御伽話には出てきませんね…これでは話のオチがつきません…」


全く違う点でイズは悩み始める。


「!?っ~~~…!!」


この状況にヴィナディスは顔を真っ赤にして震える。

扇子を両手で握りしめ、真っ赤な果実の様なあの唇を自分で引きちぎらんばかりに食いしばっている。

どう見ても、ヴィナディスはイズを挑発しに来ている。

なのにイズは動じないばかりか、逆にヴィナディスを挑発しているかの様にまるで幸せいっぱいの笑みを向けるのだ。


「ティ、ティッタさん、そろそろ、持ち場に戻られては?」

「え?」


ローゲが慌てた様子でティッタを部屋から押し出す。

それを見たヴィナディスは何かに気付いた様でハッとした表情を浮かべる。


「そうよ!」


流れを変えようと大声を出す。


「ティッタさんの肩身が狭くなるから言わなかったけど…これだけ言えばいいわよね?」

「えっと…何が、でしょうか?」


「ちょっと何を言っているかわかりません」とイズは肩を竦めた。

その仕草に先ほどのスイッチがまたオンになる。


「あなたっ!分かってないわね!ヴァンディル卿はあなたなんて愛してないの!彼の想い人はティッタだけなのよ!!」

「え!?なんで旦那様はご両親公認のティッタさんと結婚しないのですか!?」


イズはヴィナディスの嫌味は無視で驚いた表情に質問で返す。


「「「ん?」」」


イズの発言に皆の頭に疑問が浮かんだ。

その空気を感じたイズは解説をする。


「え、だって旦那様のご両親もかわいがってるなら、結婚するのに問題あります?」

「…」


ヴィナディスが固まった。

そこにいる誰もが「確かに」と思う。

ティッタとヴァンディル卿が結婚できない理由がない。


「あっ…そ、う…あ…、ロ、ローゲ、それはあれよね!!」


言葉に詰まったヴィナディスが何故かローゲに


「そ、それは、貴族と平民の結婚には些か問題がございますし…」


ローゲが慌てて訂正した。

イズはそれに「なんで?」と首を傾げる。


「だって、そんな法律は消えたじゃない」

「そ、それは…法で決まっても世間的には…」


ローゲは汗を垂らしながらなんとか話を続ける。

イズの首は更に曲がる。


「なんで?平民貴族になれそうなくらいお金だけじゃなくて政治的権力も持てたのでしょ?」

「あ…いや…」


イズにしてはかなり鋭い質問だった。


「そ、貴族との結婚の方が有利で…」

「なんで?大した資産のない田舎の貧乏貴族が?」


それにしても純粋な「なんで」攻撃には中々勝てない。

真っ直ぐな質問には世間の淀んでしまっている考えは無効なのだ。

ローゲは完全に慌ててしどろもどろになってしまっている。

ヴィナディスも完全に焦っている。


「本当にお気の毒ですわね!!」


怒りをそのまま吐き出すかの様に、ヴィナディスは声を出す。

先程までの艶のある声はどこにもない。


「ヴァンディル卿には幼い頃からティッタとの特別な絆がありますの!!貴方はそんなことも理解できず、過ごしていたなんて、本当に不憫ですわね!!本当の幸せを知らない女って頭まで残念になってしまう様ね!」


ヴィナディスはあの粘っこい嫌な言い回しをやめて、直接的にイズに言う。


「ちょっとお待ち下さい」


さっきまで、いや生まれてからずっと呑気な顔をしていたイズが、厳しい声を上げて立ち上がった。

その勢いはスノトーラが見ていた中でイズの最速の動きだった。


「旦那様が妻である私を疎かにする無能者と言いたいのですかっ!」


イズの目がすっと細くなっていた。


ーーこれは完全に違うスイッチですね


スノトーラは瞬時にイズの脳内を把握した。

その思考を知らない他の面々は、冷え冷えとした表情のイズにヴィナディスはただただ呆気に取られていた。

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