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「お姉様」


仁王立ちのスノトーラが、ベットの上で正座をしているイズに言った。

イズは先程までの楽しげな様子は何処へやら、小さくなっている。


「状況、分かってます?」


冷たいスノトーラの声にイズは肩を竦める。


「貴方の夫、ヴァンディル卿の部屋を出入りしていたのですよ!?副執事でも持ってない権利を一介の下女が持っていたのです!!」


スノトーラは更に加速してイズに言葉を投げつける。

流石にその言葉を避ける事もできないイズは俯いたまま口を尖らした。


「だってさ、状況的にそれだったし…お芝居みたいで楽しいじゃん」


現実ではない世界に胸をときめかせるのは人としてよくある事だ。

だが、今は事態が違うのだ。


「私、ティッタが例の『想い人』だってお姉様に言いましたよね!!」

「えぇ!?」


その言葉に反応したのは端でスノトーラのお説教を緊張した面持ちで見つめていたリフィだった。

その声で驚いてイズとスノトーラは同時に振り向いた。

いきなり注目されたことに驚いたリフィは口を開く。


「あ、いや、だって…ティッタと旦那様のご関係って本当なのですか!?」


これは何かを知っているなとイズとスノトーラは目を合わせる。


ーーこれは名探偵の出番?

ーーお願いですから余計な事はしないでください

ーーわかった。尋問官ね


スノトーラの想いはイズに全く伝わらなかった。

だが、正座の態勢から立ち上がったイズは、床に降りて腕を組んだ。

顔を上げ偉そうにしているが、わざとらしく全く威厳はない。


「お嬢さん、先程の話、詳しく聞かせてくれないか?」


イズはない髭を手で触りながら作った低い声でリフィに問いかける。

このテンションに慣れていないリフィはそれに戸惑う。


「あっ…はい。あ、あの…」


何故かそのおふざけにリフィは真剣に答える。


「聞いた話ですが、ティッタは長い間…確か12歳の頃からここのお屋敷で働いている様です。何でも、ティッタは有名な商家の生まれらしくて、お父様同士が旧友だとか…、だからお家が没落してここに引き取られたと聞きました」

「なるほどね」


顎をさすっていたイズはリフィからはわからない様にいい笑顔でスノトーラの方を振り向いた。


ーーなるほどね!幼馴染み!


イズはその笑顔でウインクをした。


ーー幼い頃から想いを寄せている…って事はティッタで間違いなし!


リフィには見えない様に親指を突き立てて、いい顔でスノトーラに意思を伝えてくる。

その意思を受け止めてしまったスノトーラは「そこではない」という言葉を必死に飲み込んだ。

ほぼ口から出ていたのだが、なんとか押し込める。

スノトーラは代わりに冷ややかな目をイズに送った。


ーースノトーラの予想が当たってたね


だが、そんなスノトーラの想いがイズに届くわけもなく、イズは満足げな表情をする。


ーーお姉様、予想ではありませんよ…


あの光景を見れば誰でも分かるはずだ。


ーーほら、続き


スノトーラは収拾のつかない姉よりも情報を優先した。

イズもそれを受け取って「まかせなさい」と言わんばかりに頷いた。


「それで?『あの話』って?」


「ここを聞くべきなのよね!」とイズはチラリとスノトーラに目配せをした。

スノトーラはどうでもいいから早く話を聞かせろと冷たい目をしていた。


「はい…ティッタも平民の生まれですが、旦那様のご友人ですので私達とは待遇が違うのです…先代の旦那様も彼女を可愛がっていて…だから、旦那様が結婚するまで…その…」


リフィは戸惑っている。


「話してみなさい」


お気楽モードのイズは中年男性を演じている様でお腹を突き出している。

許されたリフィはゆっくりと話し始める。


「ティッタと旦那様が結婚するのではないかと噂が立ってまして…、そのせいか、ご結婚されても、そのティッタと旦那様は恋仲なのではとか……まだ囁かれて…」


その話を聞いてイズは「ほー」と納得していた。


ーーゴシップとはこうやって生まれるんだ。まぁ、筋道としては悪くないわね


リフィは平気そうな顔のイズを気遣う様に、縮こまって話している。

スノトーラは何とも言えない気分で聞いていた。


「なるほど。だから『本当か?』って言ったのね」

「はい…」


リフィは消えてしまいそうなほど小さくなっている。

下手したら罪を咎められる状況なのだから仕方ない。

それでも素直に話しているリフィには悪気はないのだ。


「あの鍵の件は?」


たまらなくなったスノトーラがリフィに尋ねる。

イズよりも迫力のあるスノトーラにリフィは体をびくつかせた。


「あ…その、さっき他の人に聞いたら、昔からの事みたいで。あの部屋にティッタだけが出入りしている様です…本当に旦那様の公認らしくて…」


それが噂を加速させた要因かもしれない。


「つまり、ヴァンディル卿とティッタという下女の関係に疑わしい点があると言う事ですね」


スノトーラが率直にイズに言った。

尋問官の役割を終わらせたイズは「そう言うことかぁ~」と呑気に伸びを始めた。


「でも…」


伸びをしたイズは体の力を抜きながら口を開く。


「私さ、多分ティッタの事、旦那様から紹介されたかも」

「はい?」


スノトーラはまたしても目を丸めた。


「なんか、いつか『妹の様な関係の知人がいて、誕生日だから何かを贈らなければならない』って、何にすればいいかって贈り物の相談を受けたの。ほらティッタの髪飾りね、それを選んだ覚えがあってね」


イズは思い出しながら語り始めた。




『いつも私に送ってくださる様に選べはいいのでは?』


贈り物のセンスにそこまで自信のないイズはそう言った。


『いや…君のとは状況が違う…』


淡々とヴァンディル卿は言った。


『女性の喜ぶ物は分からない』

『私はどれも嬉しいですよ?』


ヴァンディル卿は顔を険しくさせて顔を俯かせた。


『君へのは…君に似合いそうだと思った物を買っているだけだ…』




「ーーって、旦那様恥ずかしがってねぇ~、めちゃくちゃ可愛かったの!」

「そうですか…」


スノトーラはイズの話に頷きながら、いつの間にか惚気話に移行していることに気づく。

咳払いをしてすぐに本題に戻すが、その話を今更思い出すなとスノトーラは思った。


「それもカモフラージュかもしれません」

「え?そこまで疑い始めたらキリがないよ?」

「慎重である事は悪いことではありません」

「でも、本当に旦那様は嘘をつける人じゃないよ?」


イズがそう言ってもスノトーラの疑いが消える事はない。


ーーなんだかなぁ~


どうしようかと思うイズは困った顔をするのだった。


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