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「お部屋の中には案内できませんが、場所だけ案内しますね」
元気を取り戻したリフィははしゃぎながら言った。
イズ達を案内するのが楽しそうだ。
成人していないリフィはまだまだ幼い面がある様だ。
「こちらです!」
元気のいい案内役を得たイズ達はそれに続いていく。
リフィはヴァンディル卿の書斎や寝室を丁寧に説明し始めた。
「あ、ここは旦那様の倉庫だそうです!幼い頃の物などがたくさんあってーー」
そしてリフィがヴァンディル卿専用の一つの部屋を指したと同時にその扉が開く。
言われるがまま、その方向を見ていたイズとスノトーラは驚いた。
「え…」
元気のいいリフィも目の前で起こった事に驚き固まった。
ヴァンディル卿の部屋から出て来たのは、先程スノトーラが『想い人』だと断言したティッタだった。
「あ、奥様…」
ティッタもイズ達の存在を認識し、驚いた様子だった。
流石のイズもこの状況の不自然さに気づく。
ティッタの手には鍵がしっかりと握られていた。
「なんで…ティッタがこの部屋に?その鍵も…オセル様と旦那様しか持っていないって…」
リフィは慌てた様子でティッタに問いかけた。
どうやらリフィにも予想外の事態らしい。
そして、リフィの言葉にティッタは体を強張らせた。
ーー泣いてた?
イズはティッタの目元を見て首を傾げた。
少しばかりティッタの目が赤み帯びている。
「…旦那様に管理を頼まれているものがあるの」
ティッタは力強く鍵を握りしめ、顔を俯かせた。
その時、ティッタの頭についている髪留めがイズの目に入る。
ーーあれって…
イズがぼんやりと見ていると、スノトーラが口を開いた。
「ヴァンディル卿から管理を任されている者がいるのならいいですね。ちょっと部屋を見せてください」
淡々と話すスノトーラだが、いつもよりも少しトゲのある言い方だ。
そしてティッタの返事も聞かずにさっさと扉を開けようと動き始めた。
「いけませんっ!」
だが、ティッタがそれを阻んだ。
「ダメです…ここは…ここは…」
肩を震わせながらティッタは何かに耐える様にスノトーラの前に立ち塞がる。
儚げな容姿の彼女がそうすると、無表情のスノトーラが幾分か悪者にも見えてくる。
「何故ですか?貴方が良くてお姉様がダメな理由が?」
スノトーラは早口で責める様にティッタに問いかける。
リフィは突然の状況にあたふたし始めていた。
「それは、ここは私が管理を任されているので、たとえ奥様でもお通しすることはできませんっ!」
ティッタは目の前のスノトーラではなく、イズに訴える様な表情を向けて言った。
それにはイズも顔を引きつらせた。
ーーえ?私?
先程スノトーラに怒られた手前、ここで何か発言したら怒られそうだと思ったイズはなんとか心の中でのみ呟く。
だが、「私は負けない!」とばかりにイズを見つめるティッタは一向に逸らそうとしてくれない。
その隣で明らかに冷たい表情のスノトーラがいる。
ーーまって…寧ろこれって…
イズの中に何かが閃いた。
ニタリと笑うと、どこに潜めていたのかバサッと扇子を取り出して、わざとらしい大きな動作をしながらそれを口元に置く。
「まぁ!私はここの主人なのよ?伯爵夫人!それになんていう態度なのかしら!」
顎をクイッと上げて挑発的にイズは言い始めた。
スノトーラとリフィはイズの態度にぽかんとしている。
唐突に始まったイズの芝居を茫然として眺める。
「いけません!奥様でも…ここは…」
ティッタは必死になってその部屋を守ろうとする。
その姿はまさに健気な少女だ。
「あら?私に逆らおうっての?」
目を細めイズは挑発的な表情をしようとしているのだが、扇子の隅から見え隠れする口元はにやけていた。
細められた目の奥も心なしかキラキラと楽しそうに煌めいている。
「ここだけはダメなのですっ…」
それでもティッタは引かない。
少しだけ緊張感がその場を包む。
だが、流石にスノトーラは何かを察していた。
「そう…その態度、良く覚えておくのね」
イズはツンとしてますよと言った様に、顔をわざとらしく背ける。
ティッタはグッと堪える様な表情を浮かべた。
その姿を満足げに見るとニタリと笑った。
「な~んてね」
ケロリと表情を戻してイズは先程の空気を何処かに飛ばし、いつも通りののんびりとした雰囲気を取り戻した。
「無理な事言ってごめんね。じゃあね」
イズはあっけらかんとそう言うと頭が追いついていないティッタ達を残してさっさとその場から離れて行く。
その場に止まるわけにもいかない既に呆れた目のスノトーラと戸惑った様子のリフィはイズについて行く。
「ふふ」
暫く歩き、ティッタから離れてしまうとイズが不気味な笑い声を上げる。
「上手くできてた?!」
イズは悪戯な笑みを浮かべながらスノトーラ達に尋ねた。
「え?」
リフィは何が起こっているのか戸惑っているばかりだ。
「あれは何なのですか?」
呆れた顔のスノトーラは、イズに問いかける。
「この前見た、お芝居でこんな下りがあったの。昔の王様の恋愛物語よ」
得意げにイズは話し始めた。
「本妻である王妃と愛妾のところね!王妃は彼女に嫉妬してーー」
いきなり始まったイズの解説にリフィは唖然としていた。
だが、それでも止まらないイズを見ていると何かを感じ始めた様だ。
「あ、あの…まさかそれを再現したかっただけ…?」
「うん!」
その言葉でリフィは混乱し始めた。
ーーあれ?悪女じゃないのは分かってたけど…え?程遠すぎない?
彼女は目を点にしてイズを見つめる。
イズはまるで宝物を見つけた子供の様に少し興奮気味ではしゃいでいる。
リフィにはあまりにも奇妙な奥様が見え始めていた。




