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「あれ?ローゲは?」


昼食を食べていると、先程までいたはずのローゲがどこにもない。

イズはキョロキョロと辺りを見回しながら、給仕をしてくれているリフィに声をかける。


「ローゲさんは今日は用事がある様で、先程出かけた様です」


リフィはイズに答える。

恐さはもうなかった。


「そっか」

「お姉様はどうなさるおつもりで?」

「どうしようか?まずお土産リスト作った方がいいかな?」


完全に観光モードのイズにスノトーラは真顔になる。

もう好きにさせよう。

いざとなったら自分が動けばいい。

スノトーラは心の中で戦闘態勢へ移行し始めていた。


「まぁ、今日は休暇だよね。お屋敷の事何も知らないしね~」


イズは朝食のデザートを食べながら考えを巡らす。

冷たいゼリーが口の中で溶けて、甘さが広がる。

イズはそれだけでも幸せを感じていた。


「でしたら、案内しましょうか?」


リフィが考え込んでいるイズにぎこちなく問いかける。

イズはそれに目を輝かせる。


ーー確かに折角来たんだし、こっちの旦那様の暮らしを知れる!


夫の王都での暮らしを知れるいい機会だ。


ーー手紙で沢山書いてくれてるけど、お屋敷のお話はあんまりなかったしな…


イズもそこまで気にしたことはない。




「旦那様、きちんと食べてますか?」

「あぁ」


尋ねても、向かい合ってではヴァンディル卿はぶっきらぼうに答えるだけだ。

だが、その声にもイズはきちんと感じるものがある。


「寝てますか?」

「…」


一瞬考え込んだヴァンディル卿はただでさえ強面な顔をより険しくさせて答える。


「休むなら、君のいるここで寝る」

「それはありがとうございます」


イズが顔を綻ばせて言葉を返すと、ヴァンディル卿は「ん」と短く答えながら顔をそっぽに向ける。

背けられた横顔から見える耳だけは赤み帯びていたことはイズにははっきりと見えた。




ーーきっと無理して帰ってきてくれてたんだよね…


もうすぐ、4年目になる。

月日が経過する毎に、段々とヴァンディル卿が領地に留まる期間は長くなってきた。

彼にとっても自分のいる領地の居心地が良いのだと思っていたイズは、たまには自分もこっちにきてもいいかと思い始めていた。


ーーいつまでも貰ってばっかりだとダメだよね


生ものには期限がある。


ーーそろそろ私もちゃんとしないとね


イズは義務を放棄していたわけではない。

ただヴァンディル卿が先に先にと対処してしまうのだ。


ーーま、まずは私も視察してみようかな


イズはウキウキしながら、ゼリーの最後の一口を口に放り込む。

スノトーラは昨日と態度の違うリフィを観察していた。

そして、そのリフィの穏やかさを見て「なるほど」とある程度理解する。

問題ないと判断したスノトーラは楽しそうに口元を拭いているイズを見ると、黙って食事を続けるのだった。


リフィに連れられイズのお屋敷探訪はすぐに始まった。


「あ、まずは旦那様のお部屋を見せてくれる?あ、それともローゲがいないからダメかしら?」


イズは首を傾げる。

副執事が出かけている今、夫婦といえど勝手に部屋に入ることは品がいいとはいえない。


「一応、旦那様や奥様のお部屋は執事のオセル様が不在の時には基本的に出入りが禁止されているのです」


リフィは申し訳なさそうに言った。

決まりなら仕方ない。

そこを兎や角言うつもりはイズにはない。


「ローゲにはその権限は与えられてないの?歳的にもここで長くお勤めしているよね?」


イズは疑問をそのままぶつける。

勿論侍女などのいないこの屋敷では上級使用人はローゲだけだ。

時々やってくる執事だけでは何かと不便が多いはずだ。


「はい。昨年までは王都に執事がいたようですが、丁度引退してしまってそれからも、仕組みの変動はしてないそうです」


リフィは丁寧に説明をする。

あれだけ警戒していたリフィが一瞬でこの懐き様だ。

早速イズの能力が発揮され始めていた。


「普通なら執事に昇格させて、副執事を雇うものですよね」


疑問に思ったスノトーラがイズに言った。

そうだなとイズは素直に頷いた。


ーー確かに、なんだか屋敷全体もあの有名なヴァンディル伯爵家にしては人が少なすぎるよね


賑わっている領地の屋敷に比べると少しこの屋敷は劣っている。

流石のイズもそれには気づいた。


「私も臨時のお勤めなので、詳しいことはわかりません。数ヶ月前に来た時に教えてもらったくらいなので…」


リフィは隠すことなく話してくれる。

そのことがイズにはなんとなく感じられた。


「あの、臨時とは?」


スノトーラがリフィに声をかける。


「このお屋敷に親族が働いているので、その伝で働かせて貰っていて、これから奉公人として働くならヴァンディル伯爵家での紹介状は箔がつくので…」


リフィは少しばかり下心を語るのが恥ずかしそうだ。

だが彼女の根っからの素直さが功を成して、寧ろ可愛げのある告白にも見える。


「紹介状は大切だもんね。ちゃんとしっかり働いているリフィは凄いね」


素直なリフィに答える様にイズも裏表のない表情でカラッと笑ってのけた。

その笑顔にリフィも表情を和らげる。


「本当、お姉様には敵わないわよね…」


スノトーラは目を細めてそれを眺めていた。


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