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13

リフィが去った後、イズとスノトーラは用意された部屋でのんびりと過ごしていた。

イズはこれからどうしようかとぼんやりと考えていた。


「旦那様いないし、『想い人』らしき人もいないし…」


イズは窓から空を眺めなら呟く。

その声は残念そうだが、やはり明るい声色をしていた。

敵地に乗り込んだとは思えない呑気さだ。

ここに来ても全く危機感のないイズにスノトーラは呆れる。


「どうしようかなぁ~」


イズは伸びをしながらベットに倒れ込む。

久しぶりの心地の良い柔らかさにイズはすぐさま体をだらけさせる。


ーーあぁ…疲れが取れるぅ~


改めて数日間の旅の疲れが押し寄せて来た。

イズは近くにあった枕を抱きかかえてより心地よい体位になろうともぞもぞと動く。


「ティッタですよ」


スノトーラはソファでくつろぎながら淡々と言った。

呆れていてはキリがないと思い出したスノトーラはもうイズの呑気さには触れない様にした。


「ん?」


まだ体勢を定めていないイズはもぞもぞとしながらスノトーラに声を返す。


「ですからヴァンディル卿の想い人です」


スノトーラは相変わらず淡々と言葉を返す。

あの場で一歩下がって周りを見ていたスノトーラにはすぐに分かった。

いやあの緊張感で分からないのはイズの様な余程呑気な人間か、周りの見えない者だけだろう。


「嘘…あんな美人…」


流石のイズも衝撃を受けたのか、もぞもぞとだらしない仕草をやめて体を起き上がらせる。

イズは目をまん丸にして、口に手を当てる。


「旦那様って面食いだったの?」

「そこですか?」


スノトーラは表情を変えずにイズに問いかける。


「冗談だって。でも、あんな絶世の美女なんてそうそういないよ」


「旦那の浮気相手を目の前にそんな呑気な事を言う人間もそうそういない」という言葉をスノトーラは必死に飲み込む。

顔には思いっきり出ていたが、イズは衝撃的な話に気を取られていてそれに気づいていない。


「お姉様の胸元の魔石、喰い入るように見てましたね」

「あ、あれ」


それにはイズも流石に気付いていた。


ーーすごい見てくるなって思ったけど、そっか


イズはぼんやりと考えると、首を捻らした。


「でも…なんだろう……もっとグッとこない。噂になるぐらいの情熱的なものがこない…」

「情熱的ではありませんが緊張感は十分にありました」

「でも、噂通りなら秘密の恋だよ?もっとロマンチックなブワッと湧き起こる感情があるじゃん」


その相手は貴方のーーイズの夫だ。

だが、まるで他人事の様にイズは語る。

そう、イズにとっては明らかに他人事なのだ。

ここに来ても彼女は一向にヴァンディル卿を疑っていなかった。

スノトーラにはそんな姉がやはり理解できない。


「この前も聞きましたが、ヴァンディル伯爵夫人なら王都からの招待だって多かったのでは?本当にここに一度も来ていないのですか?」


この解せない思いをどうにかしようとスノトーラは姉にぶつける。


「あったらしいね」


イズはのんびりと言った。

「らしい」、それに何かあると流石のスノトーラも理解できる。


「『こんな快適な場所から出たくない』って私がうっかり言ったら、気づいたら旦那様が全部断ってた」

「は!?」


それはどうなのかとスノトーラは目玉が落ちそうになりながら思った。


「元から、そういうのに私って縁がなかったじゃん」


イズは領地でのんびりと過ごし、そして社交界に興味を示さなかった。

最低限で生きて来たイズは、王都を訪れた事も片手で数えるぐらいだ。


「ま、私が断ると反感を買うけど、旦那様が直接断ってくれてたみたいで、必要な人はお茶会に招待してくれって頼まれたから、フリーンのアドバイス通りになんとか乗り切ってたの」


スノトーラはその事実をどう受け取ればいいのか分からなかった。

国王をあいつ呼ばわりするヴァンディル卿は一体何者なのかとさせ思える。

それをあまりにもあっけらかんと話す姉にも驚きだが、ヴァンディル卿の考えが見えない。


ーー本当にお姉様を好きなの?


まだ裏があるのではと思ってしまうのはスノトーラのイズを心配する気持ちからだ。


ーーもしかして、あの侍女も共犯なのかも…


疑う事を知らないイズの代わりに、スノトーラは疑う事から始めるしかなかった。


「だから、本当にこれが4年ぶり。ラド兄様に招待してもらったあの戦のお祝いだけ」


スノトーラの気も知らずにイズはあっけらかんと言い放つ。


「我が家初の快挙を見れて私は幸せだよ~」


あの頃を思い出すようにイズは言った。

スノトーラもそれには頷く。

華やかな社交界で細々と生きていたユグドラシー伯爵家はこれと言った成績はない。

戦で活躍したのかもしれないが、それなりだ。


「喜んでいるところ申し訳ありませんが、ラド兄様の功績はヴァンディル卿の功績のお溢れだそうです」

「お?」


初耳の話にイズは目を丸めた。

スノトーラは遠くを見つめ呆れた顔をしていた。


「先陣を切って活躍しているヴァンディル卿の後ろにいたら、偶々、負傷した相手の将軍がラド兄様の目の前に来たらしいです。トドメはラド兄様ですが、ヴァンディル卿が瀕死まで追い詰めていた様です」

「さすが旦那様、我が国の剣ね」

「お溢れで称号の貰えたラド兄様が、この前その出来事を鼻高々に部下に話していました。あれだけ盛大な式をしたのに…」


淡々とスノトーラは語るが、その目は死んでいた。

スノトーラがしっかりせざるをえないえなかった理由の一つに3番目の兄であるラドが関係している。

彼はなんともイズの兄らしい呑気さを持つ男な上、運の良さも兼ね備えている。

それに人懐っこい人柄もある事で、笑っているだけで昇格したり、周りの人々にも可愛がられてきた。

騎士でも大きな怪我や病気をする事もなく、まさしくイズの男性版と言える。


「部下も引くどころか、『先輩らしい』と楽しそうに笑って…」

「確かにラド兄様らしい」


イズは力強く頷く。

お溢れの称賛さえも許されるのがラドなのだ。


「ラド兄様は、今年の遠征に参加してるの?」

「いえ、今回は後援部隊としてまだ王都で待機しているはずです」


話を続けようとしたスノトーラだったが言葉を止めた。


「ヴァンディル卿は遠征には?」

「ん?そういえば最近行かないね。でもすごく忙しそう」

「あれだけ多くの戦に出陣し、功績を上げた方がですか?」

「うん、でも私としては安心するけどね」


そう言って、イズは優しげな表情を見せるのだった。

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