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そしてイズの指示通り、イズをもてなす準備ができると屋敷の女性全員がイズの元へ集まった。


ーー流石王都!下女でも垢抜けてる


イズは身なりの整った女性陣を前にしてポケッとしていた。

直ぐ様、誰にも見られない様にスノトーラがイズのお尻をつねった。


「っ!」


びっくりしたイズがスノトーラの方へ顔を向けると、「しっかりしてください」と先程のお説教モードを引きずっているスノトーラが目で訴えていた。

イズはそんなスノトーラを目の前にすると、自然と背筋が伸びてくる。


ーー今日はこれ以上怒られたくない


自分のイメージよりも、その事の方がイズには恐ろしかった。

イズは背筋だけは伸ばしてなんとか威厳を保とうとした。


「えっと…」


だが、それも長くは続かず、イズはどうしようかと目を彷徨わせる。

集めてみたもののお説教に時間を使われ、結局何も考えていない。


ーーまぁ、まずはよく知る事だ!


直ぐ様お気楽モードになったイズは顔を上げる。

いつものイズになれば堂々としたものだ。


「貴方、お名前は?」


イズは一人ずつ名前を聞き始める。

「仲良くなるにはまずお名前から!」と考えているイズとは正反対に、すでに『悪女』というイメージが定着してしまっている使用人達にはまるで尋問が始まったかの様だった。

ピリピリとした空気が漂っている。

スノトーラはその空気感に気付いていたが、イズは全く気付いていない。

自分に向けられる愛情には鋭いのに、空気を読む事はできない残念なイズなのだ。


「貴方は?」


イズがある下女の前に行くと、使用人達の緊張はピークに達した。


「ティッタと申します」


イズは赤い果実の様なみずみずしい唇を動かす下女を見ると目を丸めた。

勿論、使用人達の張り詰めた空気には全く気付いていない。


ーーうわっ…めちゃくちゃ美人…


目の前の美しく麗しい女性にイズは釘付けになる。

その場にいた女性の中でもティッタと名乗った下女はずば抜けて美しいのだ。

透明感もあり、ダントツで美しかった。


ーー儚げ美人っていうやつかな


そんな事を考えながらイズがティッタを凝視している間、周りの使用人達はゴクリと唾を飲み込んでいた。

イズはそんな事には気づかず、こんなに美しい娘が下女に収まっている事を不思議に思う。


ーーこんなに美しいなら、とっくにどこかの貴族と結婚していてもおかしくないのに…


平民と貴族が結婚してはならないという法律など一昔前の事だ。

恋愛結婚をしても罪には問われないこの時代に、多くの男性がこの麗しい女性を放っておくはずがないのだ。

純粋そうにこちらを見つめる紫の瞳はあまりにも魅力的で、イズはそれに吸い込まれそうだった。


ーー性格に難がある、とか?


だが幸が薄そうなこの美少女は何とも守ってあげたくなる。

影のあるその表情が何とも庇護欲を掻き立ててくる。


ーーん、なんかそんなのどうでもいい感じだよね。


イズはティッタの前で勝手に自問自答を始める。

黙ってそれを眺めていた使用人達はもう飲み込む唾もないくらい緊張で口の中がカラカラだ。


「宜しくね、ティッタ」


イズが改めて挨拶すると、ティッタもお辞儀をしようとしたがそれは途中で止まった。

ティッタはイズの胸あたりを見て固まったのだ。


「それ…」


思わずと言った様にティッタが声を出した。

イズも何を見ているのだろうとすぐにティッタの視線を辿るとそれはイズの胸にあるヴァンディル卿の魔石だった。


ーーなんだろ?


そう思いイズは口を開きかけたが、それは先に遮られた。


「お姉様、皆様仕事があるのです。早く進めましょう」


スノトーラが声をかけるとイズはハッと我に返る。


ーーそうだった


イズはスノトーラに感謝の意味を込めてへらりと笑いかけるが、スノトーラは少し呆れた表情を返す。

その後も順々に名前をイズは聞いていく。

イズは完全ではないが、何とか記憶していきながら最後まで辿り着く。


「リッ…リュ…リ、リフィです…」


ガクガクと真っ青な顔で震えていたのは先程イズにお茶を出してくれた下女だった。


「リフィね」


イズは笑顔を返す。

実際どの使用人達にも笑顔を返していたのだが、『悪女』が完全にインプットされた彼女達には悪魔の微笑みに見えていた。

それはより彼女達の恐怖を煽っていたのだった。

先程、失態を犯したと思い込んでいるリフィは限界を迎えそうだった。

カタカタと震え、今にも喰われてしまいそうなウサギの様だった。


「さっき、お茶を運んでくれたよね?」


呑気にイズは言っているが、リフィには舐められている様に感じている。


「ヒィッ…は、はい…」


完全に悲鳴を上げながらリフィは答える。

だが、それを気にするイズではない事はご存知の通りだ。


「あのお茶を淹れてくれたのは誰?」


イズは何気なく聞いたが、勿論それが彼女に分かるはずもない。


「あっ…わっ、私です…」


恐怖で足がガクガクと震え始める。

もう立っているのが不思議なくらいだった。


「そう…」


ーー渋かったけど、あの葉って何だろう?


そう思ったイズは閃く。


「みんな持ち場に戻って下さい。リフィは先程の茶葉と一緒にお茶を淹れるセットを持って来て」


「リフィは完全に奥様に目をつけられた!」とその場にいた者達はリフィを哀れんで目を向ける。

リフィは助けを求める様に他の者へ目を向けるが、誰もそれを受け取らなかった。

行き場所のない彼女の目は虚しく足元へ向かう。


ーーなんの茶葉だったのかな


イズはその空気に気づかず、先程から気になってひっかっかり続けているものを考えていた。

スノトーラはそんなイズを呆れているのみだった。


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