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童貞魔法使いの憂鬱  作者: 素人童貞
6/11

身に覚えのない幸運が舞い降りたすぐ横には不幸が口を開けて待っている


9

 気分が悪い。

 大教会での飲酒は原則禁止されているので、守り手御用達の料理店へと移動した。

 午後から探索任務があるというギカ、ポポドバがなぜか率先して飲み始めた。ユマンアーデはやたらと脱ぎ始めて下着姿になるし、逆にロロガコドは酒一滴で潰れてしまい服毒死だといじられていた。

 政略結婚で急に決まったからなのか、はたまた俺やレーチェを慮ってのことなのか、結婚についてそこまで突っ込まれなかった。

レーチェ本人は飲めないようで、泥酔したコードやロロガコド、ユマンアーデの世話を焼いていた。

 終わったのは日が沈む直前だった。

 ロロガコドは夜から護衛任務らしいが大丈夫だろうか。

 レーチェは用事があると言って一足先に帰っていったので、護衛の若い魔法使いと共に今日の宿へと足を運んだ。

 教皇の別邸。

 聖都市郊外の丘に位置する別邸は、教皇所有の建物の中でもずば抜けた広さという。

 現教皇の命で、客人をもてなすためにわざわざ建てたとは聞いていたが、かなり大きい。

 長方形の館の周囲を、鉄格子でできた高壁が囲い、外から色彩豊かな庭園を目にすることができる。

 館自体は3階建てで、エント地方の伝統的な建築様式が随所に取り入れられている。

「大きいですね」

「敷地の広さだけで比較すると教皇宅を上回りますね」

「入口まで辿り着くのに一苦労だな」

 長辺の中点に、空高くそびえたつ鉄門があった。

 両側に立つ護衛の魔法使いたちが訝しげに俺を睨み付けている。

 案内役が門番に来客の旨を伝え、彼と俺はそこで別れた。

 今回は男だったので無駄に緊張せず済んだ。

「門の窪みに手を当てて、何でもいいので下級魔法を唱えてください」

 と、門番の男に言われた。

 簡単な炎魔法を詠唱すると、門扉が自動的に開いていった。

「館の従業員以外はここで手をかざしていただく決まりになっています」

 非魔法使いを入れないためらしい。

「魔法使いの方が危険じゃないんだ?」

「バクスの工作員のテロを想定してのことらしいですね、魔法使いに関してはゲーツェ様がいらっしゃるので」

「ゲーツェ……、境界のゲーツェか」

 気難しそうな白髪の老人の顔を思い出した。

 ゲーツェの探知魔法は昔から達人級の域にあり、建物内の魔法使い数や動き、強さを感知することができて大戦争のときは随分お世話になった。

 結界魔法にも長け、現教皇の側近として重宝されていると聞いていた。

「ここからは屋敷のメイドが案内する」

「あ」

 庭園と噴水を横目に見ながら、館の正門玄関から出てきた女性に見覚えがあった。

「ルカと申します。お部屋まで案内いたします」

 飛行艇の配膳係であり、教会内の案内役でもあった、あの彼女だった。


10

 お部屋は2階になります、と付いてくるよう促され、階段を上がった。

 内装は赤と金を基調とした装飾で、見る者の目を惹きつける。

 1階に大広間と召使たちの部屋が、2階が客間で、3階が教皇の部屋と説明してくれた。

 大広間へ続く回廊『赤の間』が有名で、美術品や絵画が展示されているという。

「そ、それにしてもよく会いますね」

 緊張で声が上ずっているのを自覚しながら切り出した。

「主にクガン様のお世話をすることになっておりまして」

「堅苦しい口調じゃなくて普通のしゃべり方で大丈夫ですよ」

 呼び方もクガンで大丈夫ですよ、と付け加えた。

「そんな……、至極光栄です、あ、ごめんなさい」

 照れた顔も可愛い。

「クガンさんとは以前お会いしたことがあるんですよ」

「すみません、全く覚えていないです」

「大戦争のときですから数十年前になりますね」

 いつだろう。

 こんなに身体の線がはっきりしている女性を忘れるはずがないのだけれど。

「お部屋はこちらです」

 別れる前に思わず抱擁したくなったが、もちろん実行に移すことはできず。

 部屋の鍵を受け取り彼女と別れた。

 客間に入るとそこには見ず知らずの少女が立っていた。

 下着姿で。

 突然の光景に目を疑い、3度まばたきをしたがやはり現実だった。 

 彼女と目が合ってしまい、俺は言葉にならない叫び声をあげた。

 互いに硬直した。

 少女の背はかなり低く、瘦せていて、ルカと対照的な身体つきである。

 傷跡や火傷の痕が見え、特に頬と目の周りに大きな痣がある。素朴な顔立ち故、痣がかなり目立つ。指輪にチェーンを通し、ネックレスにしている。

 なぜか彼女に既視感を感じた。

「イズナ、着替え置いとくよ」

 髪乾かしましょう、と部屋の戸が開いた。

 出てきたのはレーチェだった。

 タオルで髪を拭きながら浴室から出てきた彼女の方は全裸姿である。

 彼女は俺と少女の棒立ち姿に気づくと悲鳴を上げた。布で身体を隠し、何かを手に取った。

 レーチェが投げた花瓶は綺麗な放物線を描き俺の頭に直撃した。


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