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童貞魔法使いの憂鬱  作者: 素人童貞
5/11

何かと口実を作り昼から飲酒するようになったら、あなたは大人になったと言えるでしょう

7

「面を上げい」

 翌朝。

 アードランス大教会の一室にて。第67代教皇との面前報告の場にいた。

 教皇の面前で半刻ほどの間、跪いている状態だ。

 正装が息苦しい。

「レーチェ殿。ご苦労であった。この度は結婚おめでとう」

 この結婚をトニア神に捧ぐなど、堅苦しい儀礼的な文言のあとで、教皇と直接言葉を交わすことができた。

 教皇はこれまた格式ばった儀礼的正装で身を固めていた。

 白のローブは黄金で縁取られ、見るものに清廉さと厳格さの印象を与えている。

 右手の杖は、100年前の大魔法使いの腕のミイラを元に作られており、レベル6の妖魔が封じ込められているとの噂だ。

 教皇本人は前教皇と対照的にでっぷりと太っており、額が脂ぎって光っているのが見える。その青色の瞳は大きく、なめまわすような視線をレーチェに向けている。

「幼い頃から知っている、我が子のような存在と勝手ながら思っておる」

「ありがたき幸せ」

「そしてクガン殿。大監獄ガゼカから出所していたとは知らなかった」

「今でも無罪だと思っています」

 ちょっと、とレーチェに小突かれた。

「私見だが、疑わしきも罰するという当時の法廷の判断は間違っていないと思うぞ」

 状況証拠のみ、情状酌量の余地ありということで早期釈放対応するよう決定したのも儂じゃが、と続けた。

「そもそも、その打診はおぬしの同僚達であったと記憶しておる」

 そうだったのか。

 懲役6,987年分の魔法刑罰を10年で終わらせると聞いたときには耳を疑ったが、そういう経緯があったのか。

「現段階では釈放されたことで犯罪記録は抹消されておるが、投獄履歴は残っておる。儂の好意で投獄履歴自体も抹消してやろう。この可愛いおなごの経歴に傷がつくのを恐れてのことじゃがな」

「ありがたき幸せ」

「それとレーチェよ、イズナは元気かな」

「はい。今も部屋の外のどこかに忍んでいるとは思いますが」

 イズナ?

 リドゲたちを瞬殺した、レーチェのメイドのことか。

「そうかそうか。相変わらず2人とも仲睦まじく結構結構。別邸に寝所を設けておるので今日はそちらで泊まりなさい」

 昨夜、俺は街の宿屋で、レーチェは友人宅で泊まっていた。

「ご配慮くださりありがとうございます」

 俺とレーチェは深々と更に頭を下げた。


8

「大教会を案内するまでもないわね」

 大教会1階の巡礼の間の様子は10年前とはほぼ変わってない。

 大教会はトニア教の聖地であり、教会への巡礼者は毎日後を絶たない。

 今日も、朝から様々な人種でごった返していた。

 エント地方全体で広まっているトニア教は、ガパルティーダよりも外国で信者数を獲得している。特に、隣国バクスでは人口の3分の4が信者という話だ。

 その信心深い者たちを受け入れるため、大教会の巡礼の間は他の教会の追随を許さないほど、堅牢で広々とした造りとなっている。ドラゴン50匹が入る造りとはよく言ったものだ。

「こちらの部屋へどうぞ」

 よく見ると俺たちの引率者はあの機内の配膳係だった。

 簡素な魔法使いの礼服に身を包んでいるが、お尻の形がはっきり見て取れる。

 露出が少ないのがこれまた逆に良い。

 どこかの誰かとは大違いだ。

 見惚れていると、無言でレーチェに蹴られた。

 危ない危ない。

 案内された小部屋には、何人か見慣れた顔ぶれが揃っていた。

「大魔法『浄化』」

 あの配膳係が部屋から出た瞬間、光の最高位の魔法を打ち込まれた。

 難なく吸収するも、別方向から魔法銃の弾丸が飛んでくる。

「また吸収か、ずるいなぁ」と、残念そうな若者の声が聞こえる。

「『毒蝮』」

 上から毒の雨が降り注ぐ。こいつがおそらくロロガコドだろう。

 毒の魔法に感心していると、この世のものと思えない叫び声と共に、大剣を持った巨大な左腕が現出し、刃を振り下ろしてきた。

 察知し最小限の動きでうまく回避すると、最後に分厚い魔導書が投擲されるのが見えた。

 ちょうど遅れて入ってきたレーチェにその魔導書が的中し、倒れる音がした。

「相変わらずだな」

「お前こそ、儂の光魔法をノータイムで吸収するとは、腕は落ちていないようじゃな」

 魔導書を投げてきた張本人、大賢者コードがよぼよぼと歩み寄ってきた。

「あまり噂を聞かないからくたばっちまったかと思っていたぜ」

「まだまだ現役じゃい。お前こそ出所したのを報告しないなんて水臭いな」

 コードと久しぶりに抱擁を交わした。

「おお、手ごたえを感じたがレーチェに当たったのか、すまんかったな」

「ちょっと。いきなり酷いわ」

 レーチェが頭を振りながら立ち上がった。

「痛いところはない? 大丈夫?」

 どこからともなく純白のローブに身を包んだ女性が現れ、レーチェの額に手をかざした。

 ユマンアーデだ。

 あ、ありがとうとレーチェが小さな声で言った。

 治癒魔法を施しながら、ユマンアーデが覗き込むように俺の目を見る。

「クガンも大丈夫? 刑罰痛くなかった?」

「魔法吸収できるって知ってるだろ、それに懲役6,987年分の刑罰を10年間に濃縮するよう進言したのはお前だろ」

「あら、知っていたのね。まぁ、古傷を治癒したくなったらいつでも特別マッサージしてあげるから言って頂戴ね」

俺の右腕を手に取り、胸元に持って行った。

「死んでもごめんだね」と腰を引かしながら言ったが、視線は大きく開いた胸元に釘付け、右腕の感触の余韻に浸っていた。

「兄さん、久しぶりですね」

歩み寄ってきたギカとも抱擁を交わす。先ほど2丁の魔法銃で攻撃してきた青年だ。

「レイはまだ消息不明なんだ?」

「滅亡都市で見たって情報が入ったので今日の午後から行ってきます」

「相変わらずせわしないな」

「クガンさんレーチェさんが今日来ることは報告してるんですがね」

 レイのことだ、どこかの遺跡で昼寝でもしているのだろう。

「僕が出所後のクガンさんを見つけたんですよ」

 まさか田舎町でパーティごっこしているとは思ってもみなかっただろうな。

「いやはや尾行に気づかなかった」

 大戦争のときはあんなに小さかった少年が、成長したもんだ。

「レーチェさんと結婚するからクガンさんを探せとは、斜め上の依頼でしたね」

「手間取らせて申し訳ない」

「改めまして、ご結婚おめでとうございます!」

「おお、そうじゃった、おめでとう」

「ああ、そうね良かったわね」

 ユマンアーデはレーチェのような若者に先を越されたことに、若干思うところがあるらしい。

「まぁ政略結婚なんだけどね」

「そうよ、じゃないと誰がこんな童貞と……」

「まぁまぁお二人とも、いいじゃないですか」

 民族衣装のような、赤と金の派手なローブを着た大柄な男と、対照的に質素な黒のローブに身を包んだ、骸骨のようなやせ細った男が近づいてきた。

「紹介するね、こちらは4位のロロガコドさん」と傷が癒えたレーチェが言った。

 やせ細った方の男が手を差し伸べてきた。先ほど毒の雨を降らしてきた男だ。

「はじめまして。大戦争の英雄と会うことができるなんて光栄です」

「毒の上級魔法なんて初めて見ました」

「いやいや、存外な理論構築なんですよ」

 ロロガコドは照れ隠しなのか、頭を掻いた。

「で、こっちがポポドバさん。召喚魔法しか使えないけど特例的に守り手に加入したの」

 派手なローブの方だ。

「ポポドバと申すネ。あの大魔法陣の立役者と話すことできるとは、光栄だネ」

 語尾がやや変なのは西南地方の訛りだろう。

「さっき、『魔人の左腕』を簡易召喚したのは、あなたですね?」

「そうだネ。よく知ってるネ」

「魔人クラスの簡易召喚は初めて見ました」

 コード爺さんが手を叩いて、注目!と叫んだ。

「積もる話もあるじゃろうし、宴へ行こうかの」

「賛成ネ」

「よし、今日も昼から飲むわよ~!」

「あ、僕、兄さん探しに行く任務なんでパスします」

「え~、先っちょだけいいじゃないの、先っちょだけ」

 ユマンアーデがしなを作ってギカにもたれかかっているのを見ながら、何となくレーチェと顔を合わせ自然に笑い合った。

 戻ってきたな、と改めて実感した。


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