あの2人できてるなと思っていたら追放されました
1
「クガン、お前はパーティから追放だ」と、リドゲが言った。
29歳になったその日、俺はパーティを追放された。
ギルドの探索依頼を達成し、久々の打ち上げに参加する直前のことだった。
リドゲは4つ下の25歳。約1年前、俺をパーティに誘ってくれた張本人だ。陽気な性格で常にパーティを引っ張ってきた中心人物である。愛用の大剣でヒドラを一人で狩ったこともあるという。
そのリドゲが冷ややかな目をしながら俺を見つめている。
「戦闘では敵の魔法攻撃を吸収するだけで、突っ立っているだけで攻撃はしてないし」
「それにアトリとコヨミの加入を反対するし」
アトリなんて国内に1,000人しかいない上級魔法使いで、守り手候補でもあるんだぜ、と続けた。
「お前のような、その年齢で下級魔法しか使えない人間は知らないだろうな。守り手っていうのは教皇の側近として選出される、10人の凄腕魔法使いで国家最強の魔法使い組織と名高い存在なんだぜ」
残念ながら守り手のことについては15年前から知っている。
「彼女らともうまくいってないようですし、頭数が増えた分、正直言って使えない人間は切り捨てていくべきだ」
と、クォルツが言った。リドゲとは前のパーティからの付き合いで、リドゲ、クォルツ、クガンの三人でこのパーティは始まったのだった。
「多数決で加入は決まったし、現に今回の依頼は君無しでも成功したと思う」
「アトリとかとは極力視線すら合わせないようにしているみたいだし、何がそんなに気に食わないんだ」
リドゲとクォルツにさらに詰め寄られる。
「クガンさんが、いてもいなくても私一人でカバーできますよ」とアトリは自分の手をクォルツの手に重ねる。
「戦闘のことはよくわかんないけど、クガンさん、何考えているかわかんないことがあるよね」
それにオッサンだし、とコヨミが嘲笑する。
パーティの中でのコヨミの役目は回復役である。アトリに付いてくる形でパーティに加入した。リドゲがチラチラとその豊かな胸元に視線を送っているのがここからでも見える。
「それによ。お前、元服役囚なんだろ?」
リドゲの言葉にみな黙り込んだ。俺に視線が集まっているのが嫌でもわかる。
「隠していたんだろうが知っているんだぜ。胸元の4ケタの番号2522、調べたところによると大監獄ガゼカの囚人はみな、囚人番号を入れ墨として彫り込まれるらしいじゃなか」
「ガゼカって、あの重罪人しかいかない大監獄じゃない」と、コヨミが席を立って叫ぶ。
「脱獄の知らせは聞かないから、『お勤め』を終わって出てきたんだろうね」
「たとえ刑期満了でも凶悪犯罪者と一緒にはいられない。人として許せないわ」
コヨミも怖がっているし、とアトリが続ける。
「どうなんだ、クガン」
俺はどう言うべきか一瞬考えあぐねた。全てをさらけ出そうかとも迷った。
「……確かに10年間を監獄で過ごしたのは事実だ」
「決まりね」
「クガン、改めて言う。お前はクビだ。二度と俺たちの前に姿を現さないでくれ」
しばらく沈黙が続いた。
仕方ない。
「そうか、わかった」と俺は言った。
短い間だったけどお世話になった。みんなこそ元気で、と付け加えた。
アトリやコヨミが来てからも、居心地は決して悪くはなかった。
アトリが守り手候補というのは大げさだが、確かに俺がいなくても彼女ら2人が巧くパーティを回してくれるだろう。
あまりにあっさりした俺の反応に彼らは面食らった表情を浮かべた。
「お、おう、元気でな」
「おっさん、じゃあね~」
俺は適当に荷物をまとめて、蔑みや哀れみから逃れるように足早にパーティから離脱した。
2
翌朝早々、パーティ離脱を登録するため、街のギルドへ赴いた。
滅亡都市コニアーグの探索依頼を受けようと、地図を広げている一団が見受けられた。
ギルドの担当者の男に別室へ案内された。いくつかの書類にサインを促され、淡々と離脱手続きが進んでいった。
「クガンさん、あと2つの質問で終了です。まず、解約理由はありますか?」
「特にありません」
「じゃあ最後に。次のパーティへの新規加入予定はありますか?」
無言で首を横に振った。
「しばらくは一人でやっていこうかと思います」
「そうですか。お時間ありがとうございました。これにて、離脱登録できました」
パーティ離脱後、フリーとなったギルド登録者については、別のパーティへギルド経由で紹介してもらうこともできるが、今回そのオプションは付けなかった。
「そういえばクガンさん、掲示板見られましたか?」
「いえ、見てないです」
「尋ね人欄にあなたの名前が書かれていました。今朝気づいたので誰が書いたかわからないのですが……」
「わかりました、見てみます」
ギルドの集会所スペースは鎧や剣の金属音や薬草を売る声、魔法の効果議論でにぎわっていた。
俺の素性の話が漏れているのか、冷ややかな視線を感じた。
ギルドの壁際には大きな掲示板が立っている。
『速報 コニアーグにてドラゴンの足跡発見 注意されたし』
『空賊討伐依頼 報酬別途相談』
『薬草1,000束納入モトム バクスのギルド支部まで』
『レイ・ヴァンフォンテン、依然として消息不明』
『守り手レーチェ ついに結婚か?』
首都でのニュースや朝刊の切り抜き、ギルドが斡旋しない個人的な依頼やパーティ勧誘、人探しや素材取引、噂話まで、雑多な内容が記載された張り紙が板一面覆われている。依頼や記事確認のため、常に人だかりができている。
その隅、尋ね人の枠に見慣れない書き込みがあった。
『元4位クガン殿 街の教会にて夕刻まで待つ』
たった一行だったが背筋が凍った。
そのとき。
「あっ、クガンさん」
「アトリさんコヨミさん、おはようございます」
前のパーティの二人だった。
追放されたのが昨日の今日なので少々気まずい。
「新たなパーティを探しに来たんですか?」
「いや、ちょっと記事を見にね」
俺は顔を伏せた。尋ね人の書き込みを見られていたかな、と思いながら後ろ手で紙を隠した。
「奇遇ですね。私たちもこの掲示板に用があって来ました。私たちと同じようなパーティをこれ以上出さないようにするためです」
アトリは掲示板の一番上に紙切れを指さした。
『注意! 下級魔法使いクガンは大監獄ガゼカに10年いた重罪人。パーティの人選びには要注意! しかも昼行灯! 人相は~』
「ちょっとアトリ、何されるかわかんないから帰るわよ」
犯罪者だもん、とコヨミがアトリの袖を引っ張った。
「またどこかで」と、アトリは笑いながら俺の顔を見つめていた。
あれだけ騒がしかった掲示板近くにいた人々が、俺から離れ、黙って様子を見ていることに気づいた。
パーティからも、このギルドからも追放されたことを実感した。
追放された疎外感を味わうのはあの時以来10年ぶりのことだった。