『私達は、ただの魔法少女。』
人を殺さなきゃ、世界が滅びる。
そう言われたら貴方はどうする?
そんなことをするぐらいなら死を選ぶ?
それとも、
そんなことをしてでも生き残る方を選ぶ?
私は圧倒的後者。
だから殺して殺して、ついに11ヶ月も地獄で生き抜いた。
けど未だに世界の崩壊は止まらない。
私にさっきの選択を迫った神が言うには、この地獄は神の選んだ人間を殺すまで終わらないらしい。
60億人でやる人狼ゲームのようなものだ。
全く――お遊びの好きな神様なこった。
ま、どうでもいいんだけど。
私はその“当たり”を引く日まで、殺し続けるだけだから――。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「はああぁぁ――ッッ‼︎」
目の前の巨漢の男が、私に向かって巨大な斧を振り下ろす。
「よっ、と……」
私はヒールで地面を軽く蹴り、その攻撃を躱す。
ブン!と巨大な斧が空を斬りさくと、男に大きな隙が出来た。
私はそれを見計らい、すかさず男の首筋に魔法で“トカレフTT33”を模した愛用の拳銃を突きつける。
「ごめん、天国で会った時は仲良くしてよね」
私は男にそう言い残すと、トリガーを引いた。
パンッと乾いた音が辺りになり響き、男の首から噴水のように血が出ると、それで命のやり取りは終わった――。
「南無阿弥陀仏――」
合掌し、そう祈ると、男の死体の中がぐちゅぐちゅと音を立てて蠢き、中から這い出てきた紅く光る血液が死体の上で螺旋状にしゅるしゅると円を描くと、やがて真っ赤な林檎の形の結晶となった。
「ふぅー、これでここら辺は粗方片付いたかな?」
私――“ 降夜あずき”、“元”高校2年生”はその林檎の結晶――《知恵の果実マリュウス》を眺めながらそう言う。
何故“元”かって?それは世界が“神”って奴のせいでめちゃくちゃにされて学校なんて物が無くなったから。だから“元”ってわけ。
「色だけは美味しそうなんだよなぁ、これ」
私は独り言を言いながら、マリュウスを齧る。
このマリュウスは人間の体内にある“魔力と血液の融合した物”で、自身の体内に取り込む事で、自身の魔力を強化することが出来る。
要はレベルアップアイテムのようなものだ。
「みやこ達の方も上手くいっているといいんだけど……」
マリュウスを齧りながら私は辺りを見渡し、そう私は仲間の一人の名前を口にする。
食糧を探すのも一苦労なこのご時世、一人でいるよりもある程度の人数と行動した方が何かと効率が良い。
だから私は戦った何人かの相手に仲間になるよう持ちかけ、私を入れて5人の集団で行動している。
「あっ!いたいた!お豆パイセン終わったー?」
背後から聴き慣れた声に呼ばれ振り向くと、瓦礫の山の向こうから一人の少女が走ってきていた。
「その呼び方をやめなさいって言ってるでしょ!私は降夜あずき!」
目の前まで来たその少女にそう叱咤する。
「え〜、だって『あずき』って『豆』でしょ?変わらないじゃないですか」
「変わるわよ!一文字も私の名前とかぶってないじゃない!」
「可愛いのに〜、お豆パイセン」
「可愛くないわよ別に!」
私はそう乱暴に言ってため息をつきながらその少女――一宮かずみやみやこを見る。
肩まで伸びた白髪にぱっちり開いてくりくりとした瞳、それに笑うと出来るえくぼが特徴の、私の一つ下で元高校一年生の元気な女の子だ。
みやこは水を操る魔法が使え、それだけじゃなく基礎能力が高い。身のこなしが軽やかで、彼女を屈服させるのは骨が折れた。
そしてそのみやこの魔力に惹かれた私は彼女に仲間になるよう持ちかけた、というわけだ。
「で、どうだったの?収穫は」
「もちろんゼロです!全く人間に会えませんでした‼︎」
「……そんな堂々と言われても……」
私がそう呆れたところで、気の抜けるような声が背後から聞こえた。
「お豆先輩〜、ごめんなさい〜食糧見つけられませんでした〜」
「あかねまで……遂にそう呼ぶか……」
本意ではないあだ名が広まる事に落胆しながらも、私は仲間が無事に帰ってきた事に安堵し、その少女――秋泊あきどめあかねに微笑む。
「ふふっ、大丈夫だよ。食糧よりも、あかねの命が第一だ」
「はわ〜、流石お豆先輩、優しいです〜」
「う、うん。褒められるのは嬉しいけど、出来ればその呼び方はやめてほしいかな……」
秋泊あかね――長い黒髪に雪のように白い肌――そして何より制服をはちきれそうなまでに押し除ける巨大な胸が特徴の彼女。
魔法は、物を自在に浮かすことが出来るというもの。いかにも『THE・魔法』といった感じで強そうに聞こえるが、残念なことにそうではない。
彼女が浮かせられるものは1kgまでの軽いものに限る。
しかも合計1kgまでだ。
大量のナイフを敵に飛ばしたりなどのカッコいい真似は出来ない。
そして彼女の弱さはなにも魔法に限ったものではない。いや、この欠点に比べれば魔法なんて些細なものだ。
なんとあかねは、一日三食食べないと(精神的に)死ぬのだ。
しかも一回の食事では、必ず3000kcal摂取しないといけないという大食らいっぷりだ。いくらなんでも燃費が悪過ぎる……。
でもどうして、そんなあかねを仲間にしたかというと、至極単純な理由だ。
あかねはこの上なく可愛い。
食べる時はいつも幸せそうな顔をしていて、見てるこっちまで幸せになる。
私の話を何でも「うんうん」と頷きながら聞いてくれて、話していて心地が良い。
そして野宿することになった時、あかねに抱きついて寝ていると非常に寝つきが良い。
そう、あかねはマスコットなのだ。
これがあかねが例え戦力的に無価値でも仲間としてずっと一緒にいられる理由である。
さて、この可愛いあかねのための食糧を、他の二人が持ってきてくれればいいんだけど……。
と考えたところで、今日その二人はあかねと一緒に行動していたことを思い出した。
「あかね、そういえば貴方、御影と真紅と一緒に食糧探しに行ったんじゃなかったっけ?」
言いながら私はその二人を探して辺りを見渡す。
だが周りは瓦礫の山、山、山ばかりで人影はなかった。
「えぇ〜っと……」
あかねは顎に手を当て少し考えた後、驚きの、いやもはや予想通りの返答をした。
「道で見つけたキノコ食べてたら、いつのまにかはぐれてしまいました!」
「えぇっ⁉︎そんな理由で⁉︎」
驚愕する私に対し、隣にいるみやこは「はは、流石あかねちゃんらしいや!」と言ってげらげらと笑っていた。悠長なものである……。
「何処にいるか、検討とかつかない?」
「うーん……全くわかりません!」
「……そんな……」
突然のことに私は頭を抱える。
こういう時“神の使い”がいればなと、ふと羨んでしまう。
神の使い――それはその名の通りこの世界をめちゃくちゃにした神の使役する機械達で、主に私達人類が人殺しをするためのサポートをしてくれる。
そのサポートは多岐に渡るもので、冷蔵庫として使えたり電話たして使うことも出来る――。
ということらしいのだが、あまりにも存在が怪しすぎるので、私は自分の神の使いを拳銃でぶっ壊し、勢いでみやこ達のも全て壊してしまった。
え、知らない?魔法少女ものでまず疑うべきはマスコットだよ。
これは魔法少女作品を読む上での鉄則ね。
「ま、まさか御影さん……《神ノ魔法少女》にやられていたり……とか!」
深刻な顔つきで茜がそう口にした。
神ノ魔法少女――それは圧倒的な魔法の力を有する5人の少女達への呼称である。
今の人類の残りは、風の噂によれば千人と聞く。
つまり約59億9999万9999人は死に絶えたわけだ。何とも想像し難い人数である。
だがなんと、その数量の8割は神ノ魔法少女により殺された人間の数だといわれている。
まぁもちろん尾ひれはひれの付いた噂だとは思うが、そんな噂が立ってしまうまでに、神ノ魔法少女というのは化物――いや、神様じみた存在ということだ。
そんな彼女達に比べれば、『一日一殺』が取り柄の私なんて、ただの魔法が使えるしがない少女――《只ノ魔法少女》と言ったところだ。
「だ、大丈夫だよあかねちゃん心配いらないって、ゆきちゃん超強いからさ!この前だってあの、何だっけ……“醤油・そんな・いらないもん”みたいな名前した神ノ魔法少女から逃げてきたって言ってたし!」
「シエラ・スライ・ソロモンでしょ……どういう間違え方よ……」
とんでもない間違いに、思わずツッコミをいれる。
シエラ・スライ・ソロモン――《白き蝶ホワイト・プシュケー》と評される彼女は、黄金の髪の毛と恵まれた容姿を持ち、中々ファンが多かったりする。
まぁ、ファンだろうがなんだろうがシエラも神ノ魔法少女、出会った人間は皆殺しにするような人間なのだが、それでも彼女のファンでい続ける人間によれば『彼女に殺されるなら本望』ということらしい。全く――奇特なものだ。
「あれ?あはは、そうだったっけ」
みやこは後ろ頭を撫でながらそう笑う。
そのみやこを私は咎めた。
「全く……。あとみやこ、貴方流石に御影を過信しすぎよ。御影だって神ノ魔法少女に出会ってしまえばひとたまりもないわ」
たしかに御影はみやこが言うように魔力は他の人間に比べれば一段上手だろう。
一度手合わせしたこともあるが、全く歯が立たなかった。
だがそれでも、御影だってただの魔法を使える少女に過ぎない。
神ノ魔法少女相手となれば話は全く別物だ。
「まぁいいわ。今はとにかく、御影の探索に尽力しましょう」
「あいあいさー!お豆パイセン!」「あいあいさー!お豆先輩!」
私がそういうと、二人の後輩が敬礼をした。
「だからその呼び方やめてって……」