備えの為の会合
「楠木に協力していた連中は大体目星が付きましたが、証拠も罪状も見当たらないんですよ。彼らがそれぞれ行った事が偶然あの状態になってしまっただけですからね。」
彼は内ポケットから取り出した二つ折りの茶封筒を俺に差出し、俺はそれを何気なく受け取り僧衣の袂に片付けた。
「まぁ、そうだろうな。」
「新潟行きは丁度良かったですよ。白波宅なら安心です。」
「あいつは動かせないだろ?どうする気だ?」
「明日、武本物産の親族会社の一つの長柄運送のヘリで白波家持ちの病院へ転院させます。百目鬼さんはそのヘリに乗って先に新潟に向かってください。山口その他は新幹線で当初の旅のしおり通りに向かわせます。」
髙は色画用紙で作られた、新しい「旅のしおり」を俺に渡す。
監修が「かわちゃん」だ。
誰かあいつに突っ込んでやったのだろうか。
「詳しい事はそれで。」
髙は立ち上がると俺を振り返りもせずに病院へ戻り、さっさと駐車場の新しい支給車に乗り込み、公園前の道を横切る時もこっちを振り返ることなく署に帰っていった。
そして髙の車が動くと、公園前の大通りに路上駐車をしていた車がおもむろに動き出したのである。
スモークガラスの車は警察車両でなければ職務質問されそうだと、俺は旅のしおりを手にベンチからゆっくりと立ちあがると、病院の見舞い客専用入り口へとスタスタと歩いて向かった。
すると、病院入り口前に立っていたスーツ姿の硬い雰囲気の男女が俺に近づくなり声をかけて来たのである。
「すいません。神奈川警察の監査の者です。先程髙警部補から手渡された物を確認させてください。」
「階級とお名前をお願いできますか?」
男性の方は嫌々そうだがバッジを取り出し「神部隆志巡査」と名乗り、女性の方は「宮内優子警部補」と名乗った。
「手渡されたのはコレと、これ、ですね。袂の内も見てみますか?」
茶封筒と薄緑の色画用紙に印刷された「旅のしおり」だ。
「いいえ、その茶封筒と、もう一つは何ですか?それ。」
「あぁ、武本が友人と母親の実家に行く予定でしてね。ご存知ですか?彼は直接明日ヘリで運んでしまいますが、友人達も新潟に向かいますよって、旅のしおりですね。彼を元気付けようというお遊びですよ。」
にっこりと微笑んで茶封筒としおりを渡す。
彼らは茶封筒の中身を取り出し、写真数枚と書類らしきものが出てきたことを確認すると俺にも判るほど色めきたち、いそいそと茶封筒を書類鞄に片付けた。
「この書類はお預かりいたしますが、これはどう言う事ですか?」
「さぁ、今夜来る見舞い客に渡してくれと頼まれまして。」
「名前は?」
「さぁ、本人から言ってくるから判ると言われましてねぇ。」
宮内はじっと俺を睨むようにねめつけた。
おお怖い。
「袂の中もやはり確認させていただきます。」
「どうぞ。」
確認は宮部ではなく神部がした。
俺の袂には財布とスマートフォンしかない事を確認し、俺も袂自体を捲って見せてやり、ここでお別れとなった。
「あの、すいませんが、旅のしおりだけはお返し願いませんか?」
「武本さんに黙っていればわからない事です。これはこちらが調査証拠として没収させていただきます。」
宮内はツンとした物言いで返し、その上彼らは俺から取り上げたものを俺の承諾書も書かせず、俺に証拠品預り証も渡さずに、さっさといずこかに去っていったのである。
彼らの車は明るい色のシルバーのワゴン車。
その車が通った後には、白い軽自動車が走り抜けていった。
俺は病室に戻る。
病室には悪人達が悪い笑顔で俺を待っていた。




