これです
前を歩く髙の後姿を見つめながら、彼が可哀相好きだったと俺は思い出した。
彼は可哀相なものに惹かれる傾向がある。
恋人が出来なくてトゲトゲだった同僚を恋人にして、県警本部内で馬鹿にされていた楊を警部にまで出世させた。
それから、父親を目の前で殺された過去のある山口には仕事を叩き込む教官となり、片目を虐待で失った小型犬のなずなは彼の大事な愛犬だ。
そして彼が我が子のように可愛がるのは、不幸てんこ盛りの玄人である。
そこまで考えて、俺は急に髙への警戒心が沸いた。
俺を可哀相な目に合わすつもりか?と。
身構えた俺の目の前で髙の足が止まった。
俺達はいつのまにか地下の資料室の中にある用具室の前にいた。
そして髙が何事もない素振りで用具室のドアを開いて中を俺に見せたのである。
「これです。」
この人です、でも、彼女です、でもなく、「これ」となった物が目の前にいた。
これは床に溶接されている輪に足を鎖で繋がれて、動ける範囲を行ったり来たりと歩き回っていた。
動くたびにじゃらじゃらと鎖が鳴っている。
じゃら、じゃら、じゃら、じゃら。
「内臓を抜いて子供の遺体を押し込んで縫い付けるって、なんですか?」
俺は「怖い」も「気持ち悪い」も抜けるほど驚いたのだと思う。
平然とした言葉を話している自分を遠くから見ている感覚もあったのだ。
実は今の俺は気絶寸前なのかもしれない。
髙の話では、彼女を捕まえて病院に運ぼうとした救急隊員の目の前で、彼女は自分のワンピースを引き裂いて中身を見せたのだそうだ。
哀れなり、救急隊員。
目の前の女性は下穿き以外何も身につけていない姿でフラフラと歩き回っており、動く度に子供の手足がプラプラと揺れている。
「お母さん。」
上を向いた子供の頭が呟いた。
俺はため息を大きく吐いた。
「俺は普通のお坊様なんですけどね。普通に経しか上げれませんよ。」
「いやいや、ご謙遜を。」
なぜか俺の言葉に、髙は顔の前で手を振って笑った。
さて、このような哀れな者に何の経を上げればいいのかと手を合わせた時に、髙のスマートフォンが震えたようだ。
「すいません。ちょっと待って。」
髙は資料室の方へと戻り、少し離れた棚の間へ移動して俺に背を向けて電話に出て話し始めた。
俺は髙が俺から目を離しているその隙に逃げ帰りたくなっていた。
「えー。玄人君見えちゃってた?てか知ってたの?あちゃー。それで山口は大丈夫なの?壊れかけ?あらら。じゃあ、申し訳ないけど来てくれる?……うん。ここに百目鬼さんもいるから。そう。あらー。いや、君のせいじゃないから。山口は運転ぐらいは出来るよね。無理そう?嘘う。山口使えない。それなら近くの制服警官捕まえて運転させて。ごめんね、面倒ばっかり掛けて。」
髙は通話を切ると大きくため息をついて、俺に振り向いた。
「すいませんねぇ。最初からこっちに来てもらえば良かったです。凄いねぇ、玄人君。それで玄人君が見えた映像を山口が見ちゃって、奴が潰れちゃったそうで。玄人君が百目鬼さんに山口ごと読経して欲しいって。」
「クロは大丈夫なのか?」
「気分は悪いみたいだけど、こんなのよく見えることだから大丈夫って。松野さんのところで既に見抜いていたみたい。そうかぁ、あの子は今まで一人でこんな世界を見てきたんだねぇ。誰にも相談できずに。そりゃあ辛いよ。」
髙の玄人に対する可哀相度がまたぐんと上がった模様だ。
髙の中の可哀相度は好感度と比例しているようなので、髙の玄人への好感度はぐんと上がったことだろう。




