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僕が死んだあとでも僕が生きていると思い込んでいて欲しい (馬7)  作者: 蔵前
五 帰宅したら面倒ごとが待っていた
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エクソシストの依頼

 スマートフォンを振動させて俺の物思いを破った相手に、俺は舌打ちをしながらその呼び出しに応じるべく手を伸ばした。

 畳の上のスマートフォンを取り上げて耳に当てると、相手は楊であった。


「何?疲れているのだけどね。」


「うるせぇよ。子供を預かってくれてありがとうもなくそれかよ。まぁ、ちびはここ二日、俺の家ではなく外泊していますけどね。」


 俺は耳に電話を当てたままガバっと起き上がった。


「てめぇほったらかしか。どこのどいつがクロをかどわかしやがったんだ。あいつは性欲が無い子供なんだよ。」


「あぁ、良かったよ。お前がそこん所をちゃんと理解していてさ。さすが高僧と一週間ご旅行しただけありますね。とにかく、明日の朝六時にはちびのいる病院に来い。お前が悪霊を祓ってくれないとちびが病院から動かないからな。いいな。」


「悪霊を祓えって何だそれは?それにあいつが病院ってどうした?」


 俺の聞き返しに逆ギレしたのは楊だ。


「俺だってわかんねぇよ。実際入院中の呉羽が時々訳のわかんないことを叫んで暴れているんだ。いいからお前はお前のちびの言うことを聞いてエクソシストしてくれよ!」


「俺は坊主で神父じゃねぇよ。」


「一々まぜっかえすなよ。」


 楊の余裕の無さにもう少しからかってやりたい気もおきたが、玄人が預けた楊の家でなく呉羽の入院する病院から二日も動かなかったというのだ。

 アンズと名づけたモルモットの世話を楊に押し付けて、だ。


 身の回りの片付けどころか自分の飯もよそらない玄人が、アンズのためにケージを毎日磨き、食べ易いようにと野菜を細く切ると聞けば、玄人のそのモルモットへの偏愛振りがわかるはずだ。

 一日数回はその鼠とスキンシップしないと玄人が壊れてしまうほどなのだ。


 彼は自宅にいる時はとにかく鼠を放し飼いして喜んで、居間に鼠のウンコをばら撒いているのである。

 その可愛がられている鼠は、鼻先に杏色の毛しか生えていない失敗したミニチュアの豚の姿でしかないがな。



 翌日、楊の言うとおりに相模原第一病院に着くと、ナースセンター脇の談話室のキューブ型の椅子をベッドにして横になっている玄人を見つけた。

 彼は横になっているだけで楊の言うとおりに寝ても食べてもいないのか、せっかくの美貌がやつれて目元まで黒ずんでいるではないか。


「クロ!お前は何をやっているんだ!」


 俺が思わず叫ぶと彼はガバっと身を起こし、なんと、彼が可愛がる鼠の背中に羽が生えたくらいの喜びで俺に駆け寄って抱きついて来た。

 自分から滅多に人に抱きつかない彼が、飛び起きたそのままタンっと飛び跳ねて俺に抱きついたのである。


「おかえりなさい!」


 俺は彼を抱き返し、自分のどこかがグラっとしてしまった事を認めた。

 恥ずかしくはない。

 百六十センチの身長に華奢な体で一見十代の少年にしか見えないが、玄人の顔は誰がなんというと、否、誰も何も言えない位の絶世の美女なのである。

 黒目勝ちの黒曜石の輝きを持つ大きな瞳は蝶々の如き睫毛で飾られ、小造りの三角の鼻は上品で、顎どころか輪郭自体が完璧な造りであるのに唇までも完璧だ。

 誰もが見惚れる程の完璧な美貌を持つ彼に、俺の心が動いたとて当たり前の事なのだ。


 俺がそっと玄人の頭を撫でると、両目に喜びだけ浮かべた彼がふふっと笑って顔を上げて俺を見返した。


「疲れているんだけどねぇ。おい、クロ。お前も寝不足の顔をしてこの馬鹿が。さっさと済ませたいから方法を言え。」

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