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結婚したいのですが  作者: 響ぴあの
4/6

模擬デート 【女性視点】


「今日は一般的な喫茶店でお茶をしながら会話を楽しむ模擬デートを実践します」


男の瞳は大きく澄んでいた。きっとたくさんの女性と経験があるのだろう。

喫茶店デートなんて、はじめてだし、イケメンが目の前にいると思うとすごく緊張していた。これほど美しい顔立ちなのだ。彼女なんて何人でもいただろう。


「映画館という手もありますが、会話が続かないという方にはお勧めしています。しかしながら、今回は会話の練習としてあえて喫茶店という場所で実践いたします」


男はいつも笑顔が絶えない。きっと模擬デートなんて慣れているから、どんな女にでも営業スマイルなのだろう。でも、模擬デートって仕事とはいえ、なんだか申し訳ないな……。今だけ私だけの彼氏になってくれるのか。


初めてのデートだ。静かな喫茶店に入った。

彼の髪はサラサラで、横髪をかき上げるしぐさはいい男を三割増しさせる。

何、緊張しているの? アドバイザー相手に。


「飲み物何にします?」


「ホットコーヒーで」


「じゃあ俺も同じものを」


「このような場合は、同じものを頼んだほうが、共通の話題を産みやすかったりするのです。味を共有することは結構大事だと弊社のマニュアルでは説明されています」


私はただ見つめるだけだ。

余裕がなく、他にするすべがないのだ。


「以前、会員様でレモンティーを頼んだ方がいたのですが、レモンをお見合い中にしゃぶってそのままお皿に置いたのですが、それが相手の女性の印象を悪くしたらしく、破談となってしまいました。お見合いの席では、レモン一つが命取りになるのです」


何、その実話。


「私は、レモンごときで相手を計ったりしませんけど」

少し笑ってしまった。


「もしも、今日、レモンをあなたが頼んで、レモンを舐めても、そんなことで

嫌いにはなりませんよ」

私、自然に話せている?


「あ、そうですよね。あなたは今更デートの練習など必要のない人なのに……すみません」


「ここの売りは模擬デートでしょ」


「まぁそうですけれど、何度もデートの経験のある方に今更申し訳ないというか」


「そんなに経験豊富に見えますか?」

もしかして、私遊び人みたく見られているのかな?

軽い女とか、思われているのかな。


「いや、そういう意味じゃなくて……。あなたのような美人が結婚相談所を利用するなんて珍しいというか」


きっと私を馬鹿にしているのだわ。モテないのに、結婚しようなんて百年早いとか。


「私は美人ではありませんし、お世辞を言われる筋合いはございません」

ここは、毅然とした態度を取らないと。

今後紹介してもらえないかもしれないし。


「あと、模擬デートでのアドバイスを普段は行っているのですが、必要ないですよね」


「必要ないとなぜ言い切れるのですか?」

きっと、私なんかには教えてくれないのだわ。

ビッチな女とか、軽蔑されているのかも。

この人はたくさんの恋愛経験があるのでしょうが、

私なんて……恋愛経験、一度もないのよ。


男がじっと私をみている―――

「アドバイス、致しましょうか」


「当然です。会員なのですよ」

この人、私を馬鹿にしているのだわ。


「相手の話を上目使いでうなずきながら聞くという行為は、男性にとって聞いてくれる女性ということで好印象を持たれることが多いです」


メモ取らなきゃ。重要事項だわ。


イケメンがじっとメモ帳を見つめている。

まずい、私、がめつい女と思われているのかも。


「何か? 不都合があるのなら、メモはとりません」


「いえ、そのようなわけではないのですが」


ドン引きされているのかしら?


「話が途切れた時は、無難な季節や天気の話、共通の趣味があるか探るのも一つです。音楽や好きな本の話題を振ってみると案外気が合うかもしれません。

例えば、最近どんな本を読みましたか? 休日はどのようにお過ごしですか? というように聞くことは有効な手段です」


メモ、取らないと。ここは重要よね。


「僕があなたに質問してみますね。最近、どんな本を読みましたか?」


「……私、漫画を主に読んでいまして。少年漫画のバトル話が好きなのです」

まずい、本当のことを言ってしまった。

イケメンがドン引きしているわ。

オタク女なんて、いらないって。


「僕も少年漫画は好きです。例えばどんな漫画ですか?」


きっと気を遣ってくれているのね。こうなったら本当に私のオタクぶりを発揮させてもらうわよ。

「私は、昔連載していたどんどん強敵が出てくるたびに主人公が戦いながら強くなるお話が今でも好きで……ドラゴンカードを集めています」


やっぱり漫画オタクって嫌なのかも。恥ずかしい……。


「僕も実はその漫画を全巻持っていて……カードも集めています」

え? カードも集めているの?

私もたくさんのカードを集めているわよ。


「これ、あくまでセールストークですよね。リアルじゃなくて、例えばっていう話?」

きっとそうにきまっているわ。この人プロなのだから。


「マジです」男は斜め上を見ながら真面目な顔で、少し照れていた。

嘘だよね? 本当に?


「どのキャラクターが好きですか?」

つい、聞きたくなるのがオタクの性。


「俺は、変身した後に合体したキャラクターが好きで」

僕ではなく、俺って言っている。素なのかな?


「どの技がお好きですか?」


「指一本で攻撃する技が一番推しですよね」


この人本当に好きなのかも。私も素でトークしてみようかな。


「私は親子で魂が一つになって攻撃した時が感動しました」

私は、動揺を悟られぬように冷静を装う。

本当はもっともっと熱く語りたいのに!!


よくわからないけれど、盛り上がっている。

趣味が合うオタク同士の会話だ。

婚活レッスンってこんなものなの?


「次回、幻のレアカードをゲットしたので持ってきます」

嬉しい、思わず本音で会話してしまう。でも、ここの静かな店で大声は出せないから、小声でささやく。


「絶対持ってきてください」

この人も同じファンなのかしら?

ならば、絶対見たいはずよね。興奮が抑えられなくなってきた。

これ、模擬デートだけれど、素で楽しんでいるじゃない。



「次回絶対持ってきますね」


「期待しております」


そんなこんなで、模擬デートは終了したのだ。

イケメンとの初デート、なんだろう、このときめきは。




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