その5 「なんか黒い物体が飛んで来たんだけど?」
緑に囲まれた森の中で、オレは目が覚めた。
「目が覚めても、まだ、森の中か・・・いよいよ本格的に、異世界転生を認めざるを得なくなってきたなあ・・・」
オレの身体を護るように包み込んでいた大型犬が起き上がり、立派な犬歯を見せながら大あくびをしている。
「よっこらしょ!」
立ち上がり、ジーンズの土を払った。
座ったまま寝ていたので、ケツが少し痛い。
「なあ、オレ・・・おまえについて行けばいいの?」
一角シベリアンハスキーは黙って頷く。
「なあ、オレ・・・帰れるのか?」
一角シベリアンハスキーは、首を傾げて見せた。
まるで「帰るって、どこへ?」と、言いたそうな顔だ。
そうか・・・犬に「この世界から、自分の世界に帰る方法を教えてくれ」とは、聞くだけ無駄か・・・。
分かり易い道を辿る為なのか、大型犬に案内されるままに、再び川原を下流に向かって歩き始めた。
腕時計は5時過ぎを指していた。
腕時計の示す日付を見ると変わっていないので、午前5時かな・・・それなりに眠れたようだ。
だが、この世界では夕方の5時なのだろうか?
まさかと思うが、実はここは日本の裏側で、大西洋のど真ん中でバミューダトライアングルとか、アトランティス断裂帯の真上の島とか言わないよな?
東京メトロと都営地鉄の出入り口を間違えて、地球の裏側に出ちゃった・・・とかは、流石にないな・・・。
川べりは森の木々の中と違い、下流に向かって風景が青空とともに開けていたので、気分的に少しはマシだった。
「おおっ・・・!」
段々と木々はまばらになり、遠くに微かな家屋の気配がしていた。
「どうか人類がいますように!」
と、オレは祈るばかりだった。
「うん?」
オレの先を歩く大型犬も聞こえたらしく、耳がピクピク反応していた。
何か人の声らしきものが聞こえ、辺りを見回した。
とりあえず何だか分からなかったが、オレと一匹は速足になって来た。
バッサ、バッサと鳥の羽ばたく音が微かに聞こえた。
遠目では分かりにくかったが、大きく長い長い壁が広がっていた。
「すごい迫力だな、どこまで続いてるんだ?」
ずうっと壁ばっかりだ、入口とかあるのか?
進〇の巨人とかのパターンだったら嫌だぞ。
そう都合よく直ぐには入り口は見つからず、オレはただ一角シベリアンハスキーについて行くだけだった。
途中に・・・壁に大穴が開いていた。
どっからどう見ても、壁の一部が吹っ飛んでいる・・・大砲か? ミサイルでも撃ち込まれたのか!?
と、オレは思わず足を止めた。
そこから中世のような街並みが覗けた・・・不思議だった・・・遠くから見えないのに、近づくとパッと見えるのだ。
これって・・・やっぱり魔法とか? 結界とか?
一角シベリアンハスキー・・・もう、“でかポチ”でいいや。
でかポチは尾っぽを垂れ下げて、悲しそうにその崩れた壁を見詰めた。
犬のしょぼくれた顔って、何となくわかるから不思議だな。
「なあ、何か聞こえないか? でかポチ」
「ヴヴヴッ~!」
なんか振り向きざまに、牙を剥き出した凄い顔で睨まれた。
「ポチ呼びはダメか・・・なんて呼べば・・・」
「・・・さ~ま~っ!」
やっぱり、人の声だ。
「どっから・・・?」
「まお~さま~~っ!!」
上からだ!
「まさか! このパターンは!?」
オレは慌てて頭上を確認した――――。
黒い物体がオレに向かって落ちてくる。
これ・・・死ぬな?
とりあえず衝突は勘弁なので、森に向かってオレは走り出した。
木々の中に逃げ込めば、直撃は免れると思ったからだ。
それは地上スレスレで、オレに向かって角度を変えた。
「うおおおおおぉぉぉぉっ!! でかポチ、何とかしろぉ~!」
森に逃げ込むオレを先に行かせ、でかポチは身体を翻し、向かって来る黒い翼の何かに体当たりをかました。
オレは後から来た衝撃波に吹っ飛ばされた――――。