その2 「なんか怖い犬がこっち見てるんだけど?」
その空の色はオレの人生において、見たこともない、見事な透き通った紫色、雲によって摩訶不思議な虹彩を放っていた。
まるで、異世界のような空が広がっている。
圏外でも写真は撮れるだろうと、カシャカシャとスマホのボタンを押し続けた。
スマホの液晶画面でしかその風景を見ていなかったので、現実に気がつくのが遅れてしまった。
「んん? 地下鉄の出口が公園の中って・・・珍しい・・・んじゃない! ここ何処だ!」
慌てて振り返り、階段を戻ろうとした。
だが・・・遅かった・・・・・・。
東京メトロの入口がない。
何も無い。
足下の砂利を何度も踏みしめ、辺りを見回す。
森の中の少し開けた場所だった。
「ええ〜〜〜!・・・オレ・・・死んだ?」
まっさかあ(笑)
右を見ても、左を見ても、地面を見ても・・・うん、自然がいっぱい。
空がだんだんと白んで来たような気がした。
「え? 夜明け・・・?」
オレ、しばしフリーズ。
「ワオン!」
犬の一吠えを聞いて、ビクリとした。
なんか・・・いる。
デカい犬が1匹、こっちを見ている。
かなりデカい・・・立派なシベリアンハスキーになんか角っぽいのがデコに生えてる。
コレは・・・。
「とりあえず逃げる一択だろう!」
ただ本能のまま森を走り続けた。
バサバサと草木を払い除け、全身全霊をかけて寝不足気味のへばった身体にムチを打った。
だが、更にデカいウサギがオレの前に立ちはだかった。
デカいウサギ・・・サーベルタイガーのような牙に、ムキムキの手足、口からはヨダレを垂らし、熊よりもかなりデカい、一言で表すならば“可愛くない”。
「これはどう見ても肉食系だな!!」
前方のヤバい目をした巨大なウサギ、後方の一角シベリアンハスキー!
ああ・・・やっぱり早く帰ればよかった。
前方のウサギが大口を開けてオレの頭上に牙を下ろした。
オレはもちろん思わず目をつぶった。
ギャオンッーーー。
地面が揺れた、風塵をあげて前方で何かが倒れたのだ。
勇気を出し、うすーくまぶた開いた。
なんと言う事でしょう。
オレを追いかけて来た一角シベリアンハスキーが、巨大ウサギの喉元に食らいつき、暴れ苦しむ巨大ウサギに何度も牙と爪を立てていた。
いや、爪を立てるなんて甘っちょろいもんじゃない、ウサギの身体を抉り取っていたのだ。
ほとばしる返り血がシャワーのように降ってきた。
やがて巨大ウサギは力尽き、動かなくなった・・・。
シベリアンハスキーはウサギが息絶えたのを確認したのか、くるりとオレの方に振り返った。
「えーと・・・次はオレかな?」
‟はんっ!”と、一瞬、呆れたような表情が浮かんだ。犬なのに。
「そのウサギは、食べないのか?」
‟ああん?”と、確実に俺をバカにした態度が見えた。
その顔はまるで、“こんなモン食えるか!”と、語っているようにオレには思えたのだ。
ちびちび書いてます('ω')ノ