表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/7

火傷の娘

「あら、おかえりミーシャ。どこに行って……そちらの方は?」


「ただいまお母さん。薬草を取りに行ってたの。そしたら魔物に襲われて、それをこの人が助けてくれたの」


 めっちゃ美人な奥さんだ。旦那さんは間違いなく幸せ者だな。


「魔物に!? ミーシャ、あれほど1人で外に出歩かないように言ったじゃない!」


「あまり怒らないであげてください。この子は自分なりにできることを探したのでしょう。それがたとえ自分の身を危険にすることであっても、この子にはその覚悟があったんです。それに無事に帰ってくることもできました。ミーシャちゃんも今度からは誰か大人を連れて行くんだよ」


 俺はいかにもわかっているかのように話しているが実際は何も理解していない。ただ単に良かれと思って行動したこの子が可哀想で擁護しているだけだ。これではこの子のためにならないのかもしれない。それでも俺は、自分の姉のために危険を承知の上で行動したミーシャちゃんを擁護するのは間違っていないと思う。


「俺はツキセ ナギと言います。まずこちらを見ていただいてもよろしいですか」


 俺は自分のステータスを開示した。それを見た奥さんは口をあんぐりと開けた。


「て、適性S? え、えっと……え?」


「ミーシャちゃんを助けたのも何かの縁かもしれません。俺に病気のお姉さんを治療させていただくことはできませんか?」


「それはとても嬉しいですが……お恥ずかしながら我が家に大金はありません。今を生きていくので精一杯なんです」


 やはり回復魔法は相当な料金を支払って治療するものなのか。それを俺が無料で治療したとなると他の回復魔法を使う人たちから反感を買うだろうな。だからといって、目の前で苦しんでる人たちを見過ごすのは嫌だ。


「その事についてなんですが、俺は泊まる家がないんです。それでもしよかったら少しの間俺をこの家に泊めていただけませんか? それで手を打つのはいかがでしょうか?」


「そ、そんな事でよろしいんですか? 大した料理をお出しすることもできませんが……」


「横になれる場所があるだけでいいんです。食事代くらいは自分で稼ぐので、寝床だけ提供していたなければ嬉しいです」


 奥さんはすごく悩んでいる。まぁ、確かに詐欺としか思えないよな。高額な治療が寝床を提供するだけで無料になるなんて怪しすぎる。


「あ、それともう1つ。俺は王都について何も知りません。ですから王都をくまなく案内してくれると助かります。美味しい料理屋なんかも含めて全部教えていただきたいです」


「……分かりました。娘をよろしくお願いします」


 奥さんは頭を深々と下げると、俺をその娘さんのいる部屋に連れて行った。


「娘の、ネヴィアの顔を見ても本人の前では何も言わないでいただけると助かります」


 その言葉の意味は部屋の扉を開けた瞬間理解できた。


 ベッドに横たわる女性。彼女の顔は焼け爛れもはや元々の顔が分からなくなっていた。


「ネヴィアはとても優秀な冒険者でした。ドラゴンを退治する依頼があって、その依頼を受けて……他の冒険者を守るためブレスをこの体で受け止めたのです。今は痛みが引いていますが、燃えるような熱さがネヴィアを襲うのです。ミーシャはそれを一時的に和らげる薬草を取りに行こうとしたのでしょう」


「ブレスを……。分かりました。俺の回復魔法でどれほど回復するかは分かりません。ですがやれるだけのことはやってみます。申し訳ありませんが、俺とこの子だけにしてもらってもいいですか」


 見れば見るほどひどい傷だ。重度の火傷に身体中の骨が折れている。ついさっきブレスを受けたのではないかと疑ってしまうほどだ。

 普通の回復魔法であればこの傷を治すのは困難だろう。しかし、適性がSもあれば……


「〈我は 癒しの 使いなり〉ヒール」


 知識では知っていたが、いざ使うとなるとやはり驚きは隠せない。なんと表現すべきか、どの表現が適切か言葉を失うほどに優美な光がネヴィアさんを包み込んだ。

 ヒールは初歩的な回復魔法だ。しかし、その回復力は凄まじいものだった。

 焼け爛れた肌は徐々に本来、彼女本来の白く綺麗な肌へと再生を始めていた。折れていた骨やズレた骨格も治癒しつつあった。

 そして回復が終わる頃、彼女は本来の姿を取り戻した。


 まるで絹糸のように美しい金髪。透き通るような白い肌。そして、美しい顔。これが彼女本来の姿なのだろう。


「……ぁ、き、み……ぁ?」


「まだ話さない方がいいですよ。もう少し寝てればすぐによくなります。だから今はゆっくり休んでください」


 ネヴィアさんは安心したのかゆっくりまぶたを閉じスースーと寝息を立てた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ