プロローグ
渡辺颯太は立ち去りたかった。一刻も早くその場を立ち去りたかった。
颯太は自分の教室で自分の席に座っていた。昼休みが始まり、弁当の準備をしていた。
コンビニのお袋食堂のハンバーグ弁当にひそかに心躍らせながら教科書を片付けた。ビニール袋から弁当を取り出した。さてセロハンテープをはがして弁当を食べよう!
そういうときにその男はやってきた。
その男は目の前にやってきたかと思うと、机に身を乗り出して「君、部活動に興味ありそうじゃないか!」と教室全体に響き渡るような大声で部活勧誘しだした。
突っ込みたいところだらけだ。だが、颯太は一切、突っ込まない。
こういう頭のおかしい奴は無視するのが一番だということを颯太は知っているからだ。
これまでも部活勧誘、学習塾勧誘、宗教勧誘、新聞勧誘、すべての勧誘を颯太はこうやって追い返してきた。
そう、何を隠そう颯太は勧誘撃退マスターなのだ。
「なあ君、帰宅部なんだろう? 今度この僕が作る部活に入ってみないか!?」
意味が分からないが、颯太は突っ込まない。
「あっ部活ってのはまだ内容も名前も決まってなくてダナ…まあメンバーが集まり次第決めていく方針だ」
意味が分からないが、颯太は突っ込まない。そうだその調子だ。
「僕としてはイヌ部がいいと思うんだが、どうだいイヌ部? きみもイヌは好きかい?」
またしても意味が分からないが、颯太は突っ込まない。
いいぞ、そのままやり過ごすんだ。えらいぞ颯太。
「なあいいだろう?…もしかして日本語が分からない? 留学生? ハローハロー…あー…ワタシノナマエハ…」
「…僕は弁当を食べるのに忙しいんだ。勧誘はよそでしてくれ」
どうした颯太! 反応してはいけない! そのまま無視して突っ切るんだ。
そういう輩は反応すれば反応するほどつけあがるんだ!無視するんだ。
「そうか! なら俺もここで食べるとしよう!」
「は?」
ダメだ颯太! 黙れ。黙るんだ。
「それでだな…部活動申請には最低4人必要で…」
「いやいやいやいや、なんで部活申請の説明をするんだよ。え? 僕の言葉聞いてた?」
「弁当を食べながら部活動の話を聞きたいんだろう?」
「言ってないよ! 一言も言ってない!!!」
…突っ込んだ。ついに突っ込んでしまった。
なんてことだ…これはまずい。非常にまずいことになった…