6話
森の中はいくら歩いても風景が変わらず、時間を無駄にしているような気分になる。それでも歩みを止めたらそれこそ無駄だと思い取り敢えず歩いている。あれ以降モンスターとの遭遇はなく、ただ歩いてるのも暇なので庵はいくつか注意事項のようなものを頭の中でまとめていた。
一つ目は服装。ジーパンとシャツという現代社会ならいくらでも居そうな服装であり、普通ならばなんの問題もない。だがここは異世界であり、前の世界でもこのような服を着ている奴など一人もいなかった。なので町に入るにしろ服を何とかしないとありきたり小説よろしくの門番の尋問から始まってしまう。目立たず静かに暮らしたい身としてはなんとしても避けたい事だ。
二つ目は年齢。前の世界では16歳で異世界に飛ばされ、魔王を倒すのまでに9年かかりこちらに来た日に誕生日を向かえ26になっていたはずだ。しかしこちらに来て服装がおかしいということに気づき、確かめている内に若返っていることに気づいた。見た感じは高校生程度、恐らくは前に飛ばされた時と同じく16歳程度になっている。神様は力をなくすことができないといっていたのでもしかしたら時間を戻すことでどうにかレベルを落としたのかもしれない。
三つ目はスキル。前の世界の話をするとスキルというのは本来一人につき一つしか持てないモノであり、譲渡、習得は不可能とされていた。自分はファクターのおかげでいくつも持っていたが代わりに魔法が一切使えなかった。魔法とスキルの違いはスキルはノーコストで出すことができ、魔法は魔力を消費して打つ物である。庵の場合は魔力というのは魔法攻撃力を表す数字であり、コストはMPであったため魔法が一切使えなく、スキルもMPを消費して打っていた。この世界では魔法があるのかどうかも分からず一般的な魔法の威力なども一切不明。下手に乱用すると目立つので分かるまでは使用しないことにした。
といった具合に三つほど歩きながらであるがまとめていた。服装と見た目に関しては遠目から観察してなんとか合わせることもできるだろうが魔法やスキルに関してはどこかしらで戦闘などが起こっていないとわからないし、その戦闘一回を基準にしてもしその人が異常に強い人だった場合に確実に噂になるのでそうそう使うことができない。なのでしばらくは剣士で行くことにした。装備が魔力装備なので今では30%しか剣士としてのステータスが反映されないが多分大丈夫だと思う。
「結構歩いたけど、先が見えない……もしかして森の反対側から反対側に歩いてきてしまったのか…?」
考え事をしながら歩いていたためあまり時間が経った気はしていないが恐らくすでに三時間は歩いている。森で三時間も歩いたことがないため普通なのかどうかは分からないが出口に向かっているのか流石に不安だ。
「今日は森で過ごすことになるかもな……」
森で過ごすのには慣れているが、力を存分に使えない状況で森にこもるのは不安だ。できれば町に行きたい所だが、方向が不明。なので森に泊まることも視野にいれつつ、森を歩いていく。
泊まれそうな洞窟や木陰を探しつつ歩くこと約一時間。森の風景に変化が訪れた。
「あれは、出口か!?」
そう、先程までの変わらない風景の先に木々の終わりが見えるのだ。庵はここぞとばかりに走り終わりのなかった森を一気に抜ける。そしてその先にあった風景は、町だ。
「おお、ようやく見えたな……」
視線の先に見える森ではない風景に若干涙目になりつつ感動している。ここから街までの距離はかなりあるが、見えるのと見えないのでは全然違ってくる。
「さて、あとはあっちに歩くだけだ。」
わけの分からない森を適当に歩いて、モンスターにも会わず街の前にでるなんて幸運じゃないだろうか?この世界に来て初めての幸運に思わず口元がほころぶ。
ここまでは順調でここからはただ目標に向かって進むだけ。何の問題もない。今までやってきたことをもう少し続けるだけなのだから。問題はない。ないのだ。
街の方向が崖になっていて、降りれそうなところが視界にないことを除けば。
「よし、降りれるところ探すか。」
森の中をひたすら歩くよりよっぽど楽だ。気分多少なり上がった庵は気分が下がり始める前に崖を降れる場所を探し、歩き始めるのであった。