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3話

 そこは真っ白の世界。


 床や天井、壁といった物があるのかわからず、それどころか上や下があるのかどうかすらわからない真っ白の世界。


 その世界に、光とともに一人の人物が姿を現した。


 「ここは、確か…」


 姿を現したのは元勇者だ。


 上も下もわからない白の世界に突然召喚されたわけなのだが焦っている様子は全くない。


 何故ならこの世界のことを、元勇者は知っているからだ。


 「久しぶりじゃのぅ、庵」


 後ろから声をかけられ、後ろに目をやるとそこには一人の老人がいた。


 真っ白の髪と同じ色の髭を長く伸ばし、服装はローブという大賢者を思い起こしそうな見た目をしている。顔にはシワが多数あり目元は柔らかく優しいイメージを与えている。そしてその老人の背中には翼が生えており、人間でないことがひと目でわかる。


 「お久しぶりです、神様。」


 この人物こそが神と呼ばれる存在であり、庵(元勇者)を勇者として異世界へ送った張本人なのである。


 この世界へ召喚された時に庵が慌てる様子がなかったのはこの世界へ一度来ていたからであり、この人物が来ることも予想できていたからである。


 「私がこの場所に召喚されたと理由をお聞きしてもよろしいでしょうか?」


 「うむ、そうじゃのぅ…少し長くなると思うし、取り敢えずお互い座ることにせんか?」


 神様が手を前にかざすと手のひらが光、庵と後ろと神様の後ろに椅子が出現した。神様のみが持つ創造の魔法である。


 「失礼します。」


 「そんなに固くならんでも良いわ。さて、まずはあの世界があの後どうなったかでもかのぅ…」


 神様がゆっくりと話し始めた。


 庵の魔法によって破壊され、王様及び王城を失ったベルドラ王国は復興されることなく滅んだらしい。


 庵襲撃の際に住民は別の国に全て移していたため住民に被害はなく、住民はそのまま移住することになったらしい。


 ベルドラ王国が一人の手によって滅ぼされたことにより周辺国家は緊急の国家間会議を行い連合軍を組んだ。その連合の目的は強大な敵が現れた際に国家間で手を取り合い撃退及び討伐ができるようにとのこと。


 元勇者という共通の敵が出来たことにより国同士が手を取り合い資源の供給を国家間で行い労働力、並びに軍事力の貸出なども行われ滅びたベルドラ王国を除き全ての国が豊かになったそうだ。


 「最後は悲しい結末になってしまったが、勇者としての使命をきっちり果たしているのは流石というべきかのぅ…」


 神様は長い髭をいじりながら庵の目を見てそう告げる。


 そもそも庵があの世界にいたのはきちんとした理由がある。


 当時あの世界には魔王という全世界共通の驚異が存在しており、その魔王に世界を崩壊されないために神様が適性を持つものを選別し神様のお告げという形であの世界の神官達に召喚させたのだ。


とは言っても召喚の儀式をするにはそれなりの時間がかかるため、先にこの空間に召喚され、勇者になる意思の確認と世界の概要、あとはスキルや魔法などの庵の世界にはなかった物の説明を一通り神様から受けていた。


 そして庵の使命というのが世界の驚異を取り除き、人類を一つにまとめあげることである。


 庵は最終的にはきちんと魔王を倒し世界を平和へと導いたのだが、その圧倒的な力に恐れ庵を魔王に指定し討伐しようとしたのがベルドラ王国である。


 ベルドラ王国は滅んだが世界の驚異を取り除き、結果的に人々を一つにした上に豊かにしたのだから使命を果たしたと言えるだろう。


 「ありがとうございます。それで、私がここに呼ばれた理由はなんでしょうか?新しい使命を与えられるのでしょうか?」


 庵はそう告げるも表情は明るくない。


 それはそうだろう。世界の為に努力をして魔王を倒し、世界を平和へと導いたにも関わらず裏切られ殺されそうになったのだ。神様の前であるため平静を装っているが内心は今すぐにでもあの世界の全ての国を叩き潰したいと思っているのだ。


 「いいや、使命を果たしたものに新しい使命を与えることはせんよ。今回ここに呼んだ理由はこれからのことについて話すためじゃ。本来なら庵は勇者としての使命を果たしたことによりあの世界で自由に生きる事が出来るはずじゃったのじゃが、残念ながら驚異認定された上に魔王扱いされてしもうたからのぅ…そんな世界に置いておくというのは使命を果たしたものに対する扱いとしては余りにも酷すぎる。よって提案をするためにここに呼んだのじゃよ。」


 神様は困ったような顔をしながらそう告げる。


 「提案、ですか?」


 「そうじゃ、提案じゃ。選ぶのは主でありそこに強制力や使命といったものは存在しない。よく聞くのじゃぞ。」


 神様の提案は二つだった。


 



 一つ目はあの世界へ戻り魔王として人々の驚異になり続けること。


 こちらの提案はあの世界に復讐することができる。使命や命令がないため魔族らしく好きな時に好きなだけ奪えばいいし、気まぐれに国を滅ぼしても大丈夫だそうだ。


 その場合新しい勇者が召喚され討伐に来るかもしれないがそれを正面から相手にする必用はなく、逃げながら世界を滅ぼすもよし、成長する前に勇者を殺すもよしだそうだ。世界そのものを崩壊させなければなんでもいいらしい。



 もう一つの提案は新しい世界への転移だ。


 あの世界に似ている世界がほかにも存在しているらしく、その世界へと送ってくれるらしい。送られたあとは特に制限はなく、人々を救うのもよし、犯罪者に落ちるのもよしだそうだ。


 ただし今の能力のままで飛ばすと流石に世界のバランスが崩れるので色々と調整を行うらしい。


 

 ちなみに元の世界へは戻れないのかと聞いたところ庵の力が強くなりすぎている為能力を完全に消せないらしく、そんな人物が元の日本になんか戻ったらどうなるか分からないとのことで戻せないらしい。



 「さて、お主はどちらを選ぶ?あの世界に復讐をするか?それと、も新たな世界でのんびり暮らすか?」


 神様の表情は至って真面目で、そこに優しさなどはない。どちらを選んでも間違いなく願いを叶えてくれるだろう。


 「そうですね、なら俺は…」


 庵が願いを告げると神様は庵の頭に手を置き目を瞑る。すると庵の足元に魔法陣が現れ庵を光が包んだ。


 光が収まるとそこに庵の姿はない。


 「…次のお主の人生が、お主にとっていいものになることを切に願う。」


 神様はそう呟くと光に包まれ姿を消した。


 そこには何もない白の空間のみが残った。


 この日、使命を果たした元勇者の新たな人生が幕を上げた。

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