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2話

 「クソッ、なぜ捕まらん!」



 王都ベルドラ王城。その玉座の間で忌々しそうな声とともにその苛立ちをぶつけるように椅子を殴りつけた。この人物がこの城の主であり、この都の王であるベルドラ王その人である。



 「戦況はどうなっている!?」

 「現在目標は兵士の目を騙しながらこの王城へと向かっている模様!全兵力を上げ対処していますが今だ捕らえるには至っておりません!」

 「たったの一人だぞ!?王国の全兵力を使って捕まらないとはどういうことだ!」



 王の顔には焦りに怒り、そして恐怖の表情が絶え間なく張り付いている。

 

 部屋の窓から映る景色は普段ならば多くの星が輝き、幻想的な風景を作り出している。だが今窓から映る景色は、星が見えないほどに真っ赤に染まり、揺らめいている。


 現在王都は普段の活気づいた様子は全くなく、至るところから炎が上がり、無事な建物を探すほうが難しいというぐらい壊滅的な状態である。その中でも唯一無傷だった王城も数分前から火の手が上がり始めている。王城が落ちるのも時間の問題といった感じだ。



 「クソッ、何故だ、一体どうしてこうなった・・!」


 王は強く噛み締め、この現状を打破するための一手を必死に考える。だがこの現状に、更にはたったの一人にここまでされているという焦りからうまく思考がまとまらない。


 (クソックソックソッ!)


 焦りが焦りを呼び、頭の中はゴチャゴチャとして自分でも何を考えているのかすらわからない。



 そんな時、突然城が大きく揺れた。



 「ッ!なんだ!?何が起きた!」


 「・・・」


 王は近くにいた兵士に揺れの原因を問いただす。だが王の問いかけに兵士は答えない。


 兵士は頭まで鎧をつけており、表情を伺うことはできないが、膝を折りただ一点を見つめているのみで反応はない。



 「おいどうした、一体何を見て・・ッ!」


 その兵士を見て自然と兵士の見ている方へと目線を移す。



 人十数人分はありそうな大きな窓に映るのは、その窓から見ても全身が写りきらないほどの巨大なドラゴン。


ドラゴンはこちらを見たまま攻撃するわけでもなく、威嚇もしてこない。ただただこちらを見つめてくるのみでそれが更なる恐怖感へと繋がっている。



 誰も何も言えず音のない時間が生み出される。


 そしてその静寂の中ドラゴンの背中から窓をぶち破って城へと侵入したものがいた。


 その者は黒のフード付きのローブを来ており、顔が見えない。だがその身に纏う雰囲気は明らかに普通ではなく、一般人が見れば萎縮してしまうほどである。



 「お久しぶりです、王様。」


 「・・・久しいな、元勇者。」


 男がフードを取りながら王へと挨拶をすると、王も王らしく威厳のある態度で返答する。



 「"元"勇者ですか・・別に僕は何も変わってないんですけどねえ・・・」


 「黙れ反逆者。貴様は裁かれなければならないのだ。」


 「勝手に召喚しといて用が終われば反逆者として殺すと・・・ふざけるな。裁かれるのは王様、貴方の方だ。殺しに来たんだ、殺される覚悟はあるんだろうな。」


 元勇者と呼ばれた男が言葉を発し終えると、身に纏った雰囲気が一気に変わり、周りの空間も歪んでいる。


 「死ぬ覚悟などある訳無いだろう。ここで死ぬのは貴様だ!いでよジャイアントゴーレム!」



 王は元勇者に向けて手を向け高らかにそう叫んだ。すると元勇者の足元に巨大な赤い魔法陣が現れ光を放つ。



 「ハハハッ!!!これで貴様も終わりだ!ジャイアントゴーレムに勝つなど例え魔王であっても不可能なのだからな!!!」


 自信満々にそう告げる王。


 だが、発光していた魔法陣は何も起こることなくゆっくりと姿を消していく。



 「・・ッ!どういうことだ!?何故現れない!?」


 今の魔法陣はジャイアントゴーレムを呼び出す物であり、光を放ち、魔力を消費していることからも召喚魔法自体は発動していたことは確かだ。


 にも関わらずその場にジャイアントゴーレムが現れない。これは普通ならありえないことだ。


 「ジャイアントゴーレム・・?もしかして城の地下に置いてあったあの石くずのことですか?あれなら来る前に壊して魔石にしましたよ。」



 理由は単純なことだった。魔法は成功した。だが召喚されるはずのものが現れない。


 それはつまり、召喚されるはずだったものが既に存在しないということだ。



 「馬鹿な・・・あのゴーレムは物理、斬撃完全無効に加え魔力吸収、自己修復機能までつけた完璧なゴーレムだぞ!?破壊できるわけないだろう!!!」


 「・・まあ信じるも信じないも貴方の自由だ。さてもう一度聞く。死ぬ覚悟は出来てるんだろうな?」


 男はゆっくりを王に向かって歩き始める。その一歩一歩が、その足音が王には死そのものが近づいてきているようにしか思えない。


 「待て、話し合おうじゃないか。元は共に魔法討伐のために戦った戦友ではないか!いくらでも金は与えるし身の安全も保証する!好きなだけ女を与え領地もくれてやろう!だから」


 王の首筋が一瞬ひかり、そこで言葉が途切れた。その数秒後、重力に従うように王の首がボトリと音を立てて床におちた。


 「・・殺しに来ていいのは、殺される覚悟のある奴だけだ。このクソ野郎。」



 元勇者が王の死体に背を向けると足元に白い魔法陣が現れ、元勇者を光が包むと勇者の姿はそこにはなかった。


 その場に残るのは首の繋がっていない王の死体と、崩れ落ちたまま動くことがない兵士のみで、燃える盛る王城と共にこの世界から消えるのをただただ待つのみだった。

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